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(6)「万引したことを弟にばらされた」暴力のやり方も巧妙に

歌織被告は引き続き、夫の祐輔さんからの暴力と離婚を考えるようになった経緯を詳細に述べた。相変わらず、淡々とした様子。歌織被告はDV(家庭内暴力)の専門家に祐輔さんの暴力について相談したという。

弁護人「専門家からどのようなアドバイスを受けた」

歌織被告「私が受けた(DVの)状況を説明したら、『それはDV夫の典型で“囲い込み”と呼ばれるもの。とにかく離婚の準備をしなさい。あと、できるだけ2人にならないように。万一の際に備えて自宅からの逃げ道を確保するように』とアドバイスを受けた」

弁護人「アドバイスを受けた後はどうした」

歌織被告「彼と離婚したときに備えて働き始めた。週末は2人にならないように教会にも通った。あと、自宅から逃げるときのシミュレーションを考えるようになった」

弁護人「その後のことだが、渋谷署に駆け込んだのか」

歌織被告「出かけたときに彼の暴力がまた始まったから」

弁護人「警察ではどんな様子だったか」

歌織被告「警察署に着いたとたん、彼はまたおとなしい優しい夫の顔になった。警察に(暴力のことを)説明したが、そのせいで警察は状況を理解できなかった。やっぱり現場を見ないとダメなんだと思った。私は『目黒警察署に連絡したら(DVを受けていることが)分かる』と、何度も何度もお願いした。渋谷署が目黒署に連絡を取ってくれたので保護された。その後、○○さん(友人女性)の家に行った」

歌織被告は「何度も何度も」の言葉に力を込めた。

弁護人「その後は」

歌織被告「彼の暴力がなくならないことが分かり、シェルターに戻ることにした。彼がいない平日、最小限の荷物を取りに自宅に戻ったが、突然彼が家に戻ってきた。私が逃げようとしたら、彼は電話をかけ(受話器を)押しつけてきた」

弁護人「相手はだれ」

歌織被告「私の弟だった」

弁護人「どういう内容だったか」

よどみなく話していた歌織被告が少し言葉に詰まる。涙声もややひどくなる。

歌織被告「弟のその言葉で、彼が私の万引のせいで暴力を振るっていると説明していると分かった。彼が言っていたことが単なる“脅し”ではないことを思い知らされた」

弁護人「『思い知らされた』ということは、事前に夫から言われていたことなのか」

歌織被告「そうです。私が別れると言ったとき、彼は私が戻らなければ私が万引したことを私の親や知人にばらまくと言っていた。それを思い知らされた」

弁護人「祐輔さんが平日に自宅に戻ることはよくあったのか」

歌織被告「よくあった。私がいることを確認するために3〜4回も、汗で服がヨレヨレになりながら帰ってきた」

弁護人「あなたはどう感じていた」

少し考える歌織被告。

歌織被告「まるで24時間監視されているような、窒息するような生活と感じた」

弁護人「そのころ夫の両親に電話をしたのか」

歌織被告「どうにかして逃げたかったが自分ではどうにもできない。彼は警察もバカにすることをいう。彼に何かを言えるのは両親だけ」

弁護人「平成17年9月ごろ、代々木(正しくは渋谷区富ヶ谷)に引っ越した」

歌織被告「彼が、環境を変えることでやりなおそうと言った。私は彼の会社から離れられればどこでもよかった」

弁護人「引っ越し後の彼の監視は」

歌織被告「頻度は減った。暴力のやり方も以前に比べると、注意深くやるようになった。例えば、殴るときも違う方向を向いて殴ったり、わざと両手を挙げてタックルしたり」

夫から受けたDVについて、歌織被告は自らすすんで具体的に語る。首を締められたシーンの再現では、両手を使って身ぶり手ぶりで説明し始めた。

歌織被告「首を締めるのも以前は両手でキュッと締めるようにやっていたが、たぶん跡が付かないようにということだろうが、こう(腕の部分を使って)、手でひねり上げるように注意深くやっていると感じた」

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