(12)「携帯に110番セットし、下着の中に」
祐輔さんから受けた暴力やその恐怖を淡々と語る歌織被告。弁護側の被告人質問はついに事件の核心、平成18年12月11日〜12日の2人の行動に入っていく。
弁護人「事件当日の出社時、祐輔さんの様子は」
歌織被告「その週にボーナス(の金額)が決まるということもあって機嫌が良かった。『週末に一緒に正月旅行の話をしよう』と機嫌良く出かけた」
それまで淡々と話していた歌織被告だが、質問が事件当日のことになると言葉に詰まり、声も聞き取りづらくなる。
弁護人「(祐輔さんと浮気相手の会話を録音するために自宅にセットしておいた)ICレコーダーには、誰と誰の会話が残っていたか」
歌織被告「彼とB子さんの会話」
弁護人「それを聞いてどう思った」
歌織被告「やっとこれで彼と別れられる。やっとこの生活を終えられると思った」
弁護人「ICレコーダーを聞いた後、誰か知り合いから連絡はあったか」
歌織被告「実家の母からあった。(祐輔さんからの暴力を訴える)12月10日の電話を聞いてとても心配してくれていた。早く家から出ないといけないと言い、私の引っ越し先を一緒に探すとも言った」
弁護人「母はいつ上京したのか」
歌織被告「翌日の12月12日。当初はアルバイトが入っているので私が会えないと言ったが、父と母が会いたいと言った」
弁護人「ICレコーダーの話はしたか」
歌織被告「まだそのときは話していない。彼が帰宅するのを待つとき電話で話をした」
弁護人「両親の上京が決まったときどう思った」
歌織被告「両親は上京するし、(浮気の会話を録音した)ICレコーダーもあるので、今日こそは離婚できると思った。その後、知人の○○さん(歌織被告の元同僚)に電話した」
弁護人「○○さんに電話をしたのはなぜ」
歌織被告「彼と離婚の話をする場に立ち会ってほしかったから」
弁護人「○○さんとはどういう話をしたのか」
歌織被告「本当のことは言えず、とりあえずICレコーダーを手に入れたことを伝えた。○○さんはその日は会えないかもしれないと言ったが、私はどうしても会いたいと言った」
弁護人「どうして本当のことを言えなかったのか」
歌織被告「本当のことを言ったら来てくれないと思った」
弁護人「○○さんに電話した後は」
歌織被告「彼にすぐ電話した」
弁護人「彼にはどう伝えた」
歌織被告「今日こそ離婚に応じてほしいと訴えた。彼はとても興奮していて『てめえ、何しようとしているんだ』と怒鳴り続け、まったく会話にならなかった。『とにかく家で待ってろ』と電話を切られた」
弁護人「電話の後のことは」
歌織被告「彼の反応は覚悟していたが(実際の反応は)想像以上で、どうしていいか分からず、怖くなって実家の母に電話をした」
弁護人「どうして怖いと思った」
歌織被告「今まで彼はどんなことがあっても(浮気を)認めなかった。決定的な(浮気の)証拠を出すと、彼が今まで振るったことのない(くらい激しい)暴力を振るわれると思うと怖かった」
弁護人「電話で母とはどのような話をしたのか」
歌織被告、深呼吸をするかのように1回、息を深く吸い込む。肩が大きく上下する。
歌織被告「ICレコーダーのことを伝えると『よくやった。もう1回、(祐輔さんと)浮気相手との会話を録音しろ』と言われたが、録音するためにはもう一度彼と週末を過ごさなければならず『冗談じゃない』と思った。彼にICレコーダーのことを言うと私の身が危ないので絶対に渡すなとも言われた」
弁護人「電話の後はどうした」
歌織被告「○○さんが来てICレコーダーを聞いた」
弁護人「○○さんは何と言ったか」
歌織被告「やっとこれで離婚できるね、と言った」
弁護人「そのときどんな気持ちだったか」
歌織被告「○○さんがいる間に彼に帰ってきてほしかった。『まだ(帰って)来ない、まだ来ない』とドキドキしていた」
弁護人「結局、祐輔さんは○○さんがいる間に帰ってきたのか」
歌織被告「帰ってこなかった」
弁護人「○○さんが帰った後はどうしていたか」
歌織被告「彼が帰宅した後のことを考えると怖かった。縛られないようにタオルやヒモ類を隠し、(すぐに逃げられるように)保険証や現金を下着の中に隠した。携帯電話も110番にセットして下着の中に隠した」
弁護人「祐輔さんが帰ってくるまでのあなたの精神状態は」
歌織被告「1人でいた時間は2時間以上あったが…」
歌織被告は声を詰まらせた。