(5)服も下着も脱がされ…「あの晩の暴力は顔に集中」
弁護側は引き続き、平成17年6月に歌織被告がシェルターに入所するまでに至った祐輔さんの暴力について、質問を繰り返す。
弁護人「(祐輔さんから激しい暴力を受けた)その晩、逃げることができたのはどうしてか」
歌織被告「ひとつはその晩はいつもと違い、縛られることがなかったのと、暴力が顔ばかりに集中して体にはなかったので動くことができた。服や下着を脱がされたが、逃げ込んだのが洗面所で彼が着ていたズボンとシャツがあった。彼が電話をしていたので逃げるスキができた」
弁護人「病院に駆け込んだ後は」
歌織被告「目黒警察署で保護された」
弁護人「目黒署と被害届について話をしたか」
歌織被告「しました」
弁護人「警察官は何と言ったか」
歌織被告「警察の方から『自分たちは今すぐ捕まえに行って同じように殴ってやりたいが、あなたの夫に変わりない訳だからよく考えて』と言われた」
弁護人「結局どうしたのか」
歌織被告「自宅に戻ることはできないと言ったら『親や知人など頼る人はいないか』と聞かれたが、絶対に知られたくなかった。結局、シェルターを紹介された」
弁護人「シェルターにはどのような人たちがいたのか」
歌織被告「私と同じように顔に殴られた跡のある人たちがいた」
弁護人「それを見て思ったことは」
歌織被告「直接、話をしなくても自分と同じようだとわかりとても切ない気持ちで一杯だった」
弁護人「シェルターではどのような生活だったか」
歌織被告「顔の傷があまりにもひどいため、部屋から出してもらえない状態。あまりにも顔が変わってしまい鏡で見ることができなかった。シェルターでは最大でも1カ月しかいれないと聞いていたので、顔の傷を隠すための帽子をかぶってハローワークに行った」
シェルターでの生活を聞かれた歌織被告は慎重に言葉を選ぶような様子に。ハンカチで目頭を抑える場面もあった。
弁護人「彼は知人に連絡などはしたのか」
歌織被告「知人は何度も彼から電話があり、とても心配していたと言っていた」
弁護人「それを聞いてどうしたか」
歌織被告「彼は以前から、もし私が逃げたら、知人にも何かしてやると言っていたので、彼に連絡して知人に迷惑をかけないようにと考えた」
弁護人「彼に連絡した時の気持ちは」
歌織被告「何とかして彼に連絡しなければという気持ちと、彼と電話で話すだけでも怖く何も話せないと思ったので、あらかじめ話すことを決めてメモにしそれを読み上げるようにした」
歌織被告は涙をこぼし言葉を絞り出した。
弁護人「どのような内容を話しましたか」
歌織被告「彼に3つの提案をした。離婚すること、刑事訴訟に訴えた上で離婚すること、公正証書を作成したうえでやり直すこと」
弁護人「なぜそのような3つの提案を」
歌織被告「今までの彼のやり方を考えるとすぐに離婚には応じないと分かっていたので…」
背筋を伸ばし裁判長席を見据える歌織被告。再びハンカチで目頭を抑えた。
弁護人「今回は離婚すると思った」
歌織被告「そうです」
弁護人「そうしたらどうだったか」
歌織被告「彼はその場で、公正証書を作ってやり直したいと言ってきた」
弁護人「それを聞いてどう感じたか」
歌織被告「この期に及んでまだことの重大性が分かっていないと、彼の無責任さに腹が立った」
弁護人「それで何と言ったのか」
歌織被告「『あなたでは全く話にならないので、今後一切連絡はしないで。あなたの両親から連絡するようにして』と言った」
弁護人「祐輔さんの知人から連絡は」
歌織被告「1週間くらいしてから、(祐輔さんの)恩師で議員をしている人からあった」
弁護人「なんと」
歌織被告「その方はとにかく離婚するにしても直接会って話す機会を作ってくれと」
弁護人「それでどうしたか」
歌織被告「その方の取り計らいで他の議員の方とも一緒に目黒区役所の議員の部屋で会った」
弁護人「あなたはどういうつもりだったのか」
歌織被告「離婚するつもりでいた」
弁護人「彼は何と」
歌織被告「公正証書を作ってやり直したいと言っていた」
弁護人「その話し合いは」
歌織被告「平行線のままで終わりました」
弁護人「その後彼の知人などから連絡は」
歌織被告「弁護士の方など…(聞き取れず)」
弁護人「何と」
歌織被告「本人も今回のことで自分の暴力を認め反省しているから、やり直すチャンスを与えてくれと」
弁護人「それで」
歌織被告「公正証書を作成して自宅に戻ることにした」
弁護人「シェルターを出てからあなたの友人から連絡は」
歌織被告「私の知人の○○さん(女性)から連絡があり、私がシェルターにいる間のことについて、彼が探し回っていたと。あの晩(DVのあった夜)のことについて彼は『彼女にいつもより強く怒ったら勝手に飛び出していった』と言っていた」
弁護人「祐輔さんは何が原因だと言っていたか」
歌織被告「私が浮気したのを強く怒ったと言っていた」
弁護人「それを聞いてどう思ったか」
歌織被告「知人にデタラメを言ってるのが悔しくて仕方なかった」