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(3)「服脱がされ、あちこち『においチェック』」

証言台の歌織被告は小さな声だが、よどみなく落ち着いた様子で、裁判長の方を向きながら証言を続けている。弁護側は、夫の祐輔さんから縛られて逃げられないようにされたという歌織被告に、その原因などを詳しく聞いていく。

弁護人「縛られて、あなたはどうしたの?」

歌織被告「何重にも縛られているので、何時間も…朝までかかって自分でほどいていく」

弁護人「縛られた跡はどうなっていた?」

歌織被告「手などは紫色に…すごい色に変色して、手がむくれて腫れ上がって、指を曲げることもできない状態になっていた」

弁護人「平成16年3月ごろ、祐輔さんからひどい暴力を受けたことがあったか?」

歌織被告「はい」

弁護人「原因は?」

歌織被告「私が、サクラが咲いたら花見をしに行くつもりだと(祐輔さんに)言ったら、彼は『お前はいつも酔っぱらいが嫌いだと言っているのに、何で行くんだ?』『誰と?』『どうして行くんだ』と、しつこく聞いてきて、私の携帯や持ち物を捨ててめちゃくちゃにした」

弁護人「暴力の内容はどういうもの?」

歌織被告「そのときもとりあえず、床などに押し倒され、上に彼が乗ってきて、首を絞められたり髪の毛をひっぱられたり…」

何度も繰り返された暴力。しかしこの日は、暴力の末にひとつの事件が起きた。

弁護人「そのときに祐輔さんは何かを見つけたのでは?」

歌織被告「彼は私に暴力をふるうとき、私の体だけでなく、家中の物を倒してめちゃくちゃにするのだが、そのときはクローゼットから30万円をみつけた」

弁護人「そのお金はどんなお金だったのか?」

歌織被告「結婚してから少しずつためていたお金だ」

弁護人「いわゆるへそくりだね。祐輔さんは何と言ってきたのか?」

歌織被告「『何でこんなお金があるんだ? いつもお金がないと言っているのに、A男(歌織被告の愛人)から借りたんだろ』と…」

弁護人「あなたは何と説明したのか?」

歌織被告「私は彼に、『違う。自分でためたお金だ』と説明したが、興奮して聞いてくれない。仕方なく、『そうだ』と認めることにした」

弁護人「A男から借りたということにしたということか?」

歌織被告「はい」

その場を収めようと祐輔さんの言いがかりを受け入れたという歌織被告。夫婦のいさかいは愛人も巻き込んだ形で進んでいく。

弁護人「祐輔さんはどうしろと?」

歌織被告「『お前が勝手にA男から借りたんだから、お前が勝手に返せ』と言って30万円を取り上げた。『間違いなく返したという証拠に、30万円を振り込んだ明細を見せろ』と言ってきた」

弁護人「あなたは何と?」

歌織被告「自分でためて返したと納得させるため、わざと時期をずらして、8月くらいにA男に連絡して、『お金を借りたことにしてくれ』と30万円を借りて振り込んだ。彼に明細を見せて、間違いなく返したと言った」

弁護人「平成16年、実家に帰ったことがあったか?」

歌織被告「はい」

弁護人「あなたにとって、実家はどのような場所か?」

歌織被告「思いだすこと自体、いやな場所。そもそも私の中に実家という場所は存在しない」

弁護人「それなのになぜ帰ったのか?」

歌織被告「彼の友人たちに説得されたり、自分でだましだまし生活してきたが、彼の暴力がひどくなっていたので、実家に逃げた」

弁護人「祐輔さんはどうしたか?」

歌織被告「自分の友人を使ってまで謝罪してきたり、戻ってくるようずっと連絡を入れてきた」

弁護人「あなたはどうしたか?」

歌織被告「しつこい連絡を絶つために、自分で自分の携帯を折った。彼と離婚して実家に戻るつもりだったので、ハローワークで仕事を探したり、母と今後の生活について話し合った」

離婚して独り立ちを計画したという歌織被告だが、実家ではうまくいかない理由があったという。

歌織被告「とても言葉では言い尽くせないが、以前同様、実家には自分のいる場所はないと父から教えられた。母は私と父のやりとりをずっと見ていて、父がいなくなってから『守ってやれなくてごめん』と言った」

弁護人「実家から帰った後、祐輔さんの暴力に変化はあったのか?」

歌織被告「はい。変わった」

弁護人「どのように?」

歌織被告「私には頼れる人も逃げられる場所もないとわかっているように、暴力のやり方が、基本的には同じだが、大胆になり、束縛も強くなった」

弁護人「具体的には?」

歌織被告「そのころくらいから、においチェックというようなものをやられ、彼が帰ってくるまで風呂に入れなくなったり、レシートチェックもされた」

弁護側は、「においチェック」「レシートチェック」という衝撃的な言葉の内容を詳しく聞いていく。

歌織被告「においチェックとは、最初は髪の毛や洋服だけだったが、エスカレートして洋服を脱がされて体のあちこちをかがれたり、髪の毛に少しでもタバコのにおいがすると、浮気をしていると暴力をふるわれた。お風呂に入ると、『浮気の証拠を消すために入った』と暴力をふるわれるので、入れなかった」

弁護人「レシートチェックとは?」

歌織被告「飲食のレシートを彼がチェックするということで、どういう店で何時に何人と食事をしたかをチェックするため必ず持ってくるように言われた。一人で食事をしたときも持ってくるよう言われ、彼に言った通りに行動しているか、浮気していないかをチェックされた」

弁護人「それは事件まで続いたのか?」

歌織被告「はい」

歌織被告は祐輔さんの束縛がいかにひどかったかをすらすらと答えていく。夫婦間のトラブルについての質問はまだ続く。

⇒(4)万引発覚で「別れてください」