(13)セレブ妻の「絶望」殺害の瞬間語る
引き続き、事件当日の出来事について質問が続く。祐輔さん殺害の瞬間に近づくにつれ、弁護側の質問のテンポは速くなる。歌織被告の声はだんだん小さくなる。
弁護人「祐輔さんは結局、何時ごろ帰宅したのか」
歌織被告「翌日(平成18年12月12日)の朝4時ぐらいに帰ってきた」
弁護人「祐輔さんが帰ってきてどのような会話をしたのか」
歌織被告「お互いにとても緊張していて、言葉を発することもできないような状態だった」
弁護人「その後、祐輔さんの行動は」
歌織被告「彼は帰宅してすぐ、洗面所で歯を磨いていた」
弁護人「あなたはどうした」
歌織被告「彼を黙って見ていた」
弁護人「あなたはそのとき何を考えていたのか」
はなをすすり、少し語気を強めながら口を開き始めた。
歌織被告「早く、早く離婚の話を切り出さないと…。このままではまた暴力が始まるかもしれない、と」
弁護人「その後、2人はどうしたのか」
歌織被告「彼がリビングにやってきたので、私は離婚の話を切り出して、離婚届をテーブルに置いた」
弁護人「そのとき祐輔さんの反応は」
歌織被告「離婚届を破って、『おれが浮気をしているというのなら、証拠を見せろ』といった」
弁護人「それであなたはどうした」
「あ…、あ…」とうまく言葉にできないような様子。
歌織被告「母に(浮気相手との会話を収めたICレコーダーのことは祐輔さんには話してはいけないと)電話で言われたことを思いだして、ICレコーダーのことを話したら絶対に危ないと思って、がまんしていた」
弁護人「祐輔さんはどうしたのか」
歌織被告「『またお前は…』と言って、そのまま寝た」
弁護人「それから」
歌織被告「彼が寝た後、キッチンに入った。そこで今までの彼との生活を思いだして…。やっぱり私はここにはいられない、と絶望的な気持ちになった」
犯行直前の気持ちを語った歌織被告。声はいっそう弱々しくなる。
弁護人「キッチンにはどれくらいの時間いたのか」
歌織被告「わからない」
弁護人「あなたはその後どうした」
歌織被告「ワインボトルを持ってリビングの方へ行った。リビングに行って、彼を殴った」
ついに祐輔さん殺害の瞬間を口にした歌織被告。表情はうかがえず、声は小さいままだが、あくまで淡々とした口調だ。
弁護人「それで、祐輔さんはどうした」
歌織被告「こっちに向かってきた」
弁護人「それをみてあなたはどう思った」
少し語気を強め。
歌織被告「怖い!と」
弁護人「それから」
歌織被告「彼が私の方に来たので、脇の方に逃げて、また彼を殴った」
弁護人「何発殴ったのか」
歌織被告「よく覚えてませんが…たくさん」
弁護人「その間、あなたはどんなことを考えていたのか」
歌織被告「覚えているのは『怖い』という気持ち」
弁護人「何発か殴った後、あなたはどうしたのか」
歌織被告「犬がいる部屋に移動した」
弁護人「祐輔さんが死んでいるのは確認したか」
歌織被告「してない」
弁護人「死んでいるのを確認したのはいつ」
歌織被告「どれくらいとき間がたったか分からないが、隣の部屋からのぞいた」
弁護人「どんな様子だったか」
歌織被告「動いていない状態だったので…」
午後1時37分、質問内容が祐輔さん殺害部分を終えたところでこの日は終了。次回の2月12日の公判でも引き続き、弁護側の質問が行われる。傍聴席の遺族はむせび泣き、ハンカチで顔をおおって立ち上がれない。歌織被告も泣きはらしたような目で、斜めにうつむいたまま退廷していった。