(11)「携帯見られてる」祐輔さんを束縛
祐輔さんが勤務していた会社のグループ企業人事担当者への弁護側の反対尋問が始まった。焦点は、祐輔さんが行方不明になる前後、妻を名乗る女性から会社にかかってきたという電話の内容だ。
証人は検察側尋問に対して、『歌織被告が給与口座などについて問い合わせた』と証言したが、弁護側は証人の記憶のあいまいさを突こうとする。
弁護人「(平成18年11月に歌織被告が祐輔さんの給与振込座を尋ねた)電話の用件の内容について、まずあなたが聞いたのは(電話をかけてきた)本人からではなく、受付の方から?」
証人「はい」
弁護人「(電話の相手から)直接会いたいといわれたが、断った?」
証人「はい。とにかく忙しくて会う時間がなかった」
弁護人「電話の相手と直接話したのか?」
証人「あいまいだが、話していないか、話してもごく短いか(だった)」
弁護人「結局、何の用件か分からなかったのでは?」
証人「いいえ。用件は祐輔さんの給料振込口座についてだった」
歌織被告は手をひざの上に乗せたまま、足下に視線を落としている。ここで、もう1人の弁護人が質問を引き継ぐ。
弁護人「直接話したかは覚えていない?」
証人「はい」
弁護人「給与口座(についての情報)を知りたいと(電話の相手から)直接聞いたかも?」
証人「はい」
人事担当者への尋問はここで終わった。歌織被告は口を真一文に結び、不満そうに証人をにらみつけた。
新たに証言台に立ったのは、祐輔さんと個人的な付き合いもあったという同僚男性。裁判長に促され、スーツ姿の男性は落ち着いた声で宣誓文を読み上げ、検察官の質問に答え始めた。
検察官「祐輔さんとは仕事以外に付き合いもあったか?」
証人「(自分と)年が一緒なこともあり、色々な話をした。(仕事以外で)そういうことはあった」
検察官「いつごろから飲みに行くようになった?」
証人「平成17年12月ごろのプロジェクトで一緒になってから、比較的近くなった」
歌織被告との夫婦関係について、祐輔さんは周囲にどのように漏らしていたのか。傍聴席の視線が集まる中、検察官が質問を続ける。
検察官「夫婦仲については、(祐輔さんから)どう聞いていた?」
証人「17年12月ごろは聞いていないが、亡くなる前ごろは『離婚したい』ということを聞いた」
検察官「最初に聞いたのはいつごろ?」
証人「『いろいろうまくいかないことがあり、公正証書を作った』と聞いた」
検察官「公正証書の作成経過については?」
証人「経過はよく分からないが、(慰謝料の)金額3600万円という書面を書いたと」
検察官「祐輔さんから、どういうことか聞いたか?」
証人「『家庭内で一つの大きな事件があり、補償するために(公正証書を)書いた』と」
検察官「書いた理由については?」
証人「『若干、家庭内に暴力的なことがあり、書いた』と(言っていた)」
検察官「祐輔さんは何か言っていたか」
証人「飲みに行くときは奥さんの承諾がいるということで、『とにかく連絡しなきゃいけない』と」
検察官「他に祐輔さんがしなければいけないことについては言っていたか?」
証人「1回、『飲み会や接待のスケジュールを(歌織被告に)渡さないといけない』と」
検察官「携帯や(銀行)口座については?」
証人「携帯については『(歌織被告に中身を)見られている』と。携帯以外にも、『キャッシュカードを持たされていなくて、お金が自由にならない』と言っていた」
歌織被告が祐輔さんの生活全般を監視し、束縛していたことがうかがえる。証人の傍らに座った歌織被告は、興味がなさそうに虚空を見つめていた。