(10)「夫から年明けにメール」とウソ その理由は…
祐輔さんが勤務していた会社のグループ企業の人事担当者への尋問が続く。検察側は勤務先と歌織被告の電話のやり取りから、歌織被告が金に執着していた様子が浮き彫りにしていく。
検察官「(歌織被告が)今どこにいるのかという話になったか」
証人「会社隣のホテルまで来ていて、会いたいということだった」
検察官「どのような印象だった?」
証人「約束もないし、(給料の振り込み口座について祐輔さんに内緒で教えてほしいという)問い合わせ内容から、不信感を思った」
検察官「それでセキュリティー担当に電話を回した?」
証人「セキュリティー担当が本人確認をして、(歌織被告)本人だと分かった」
検察官「それから?」
証人「本人と分かっても、約束していないから会わなかった。口座情報も電話では教えられないことを伝えた。ただし、私の会社のメールアドレスを教えて、『質問を送ってくれ』と言っておいた」
検察官「被害者は昇進の予定があったのか。当時は役職に就いていたのか」
証人「役職には就いていなかったが、昇進するはずだった。アナリストからマネージャーになる予定だった」
検察官「昇進はいつ発表されたのか」
証人「12月14日に、ボーナスの金額や昇進が発表される」
検察官「昇進でどれくらい年収が上がるのか」
証人「200万円ぐらいは上がる」
検察官「発表の2日前に被害者は殺害されたが、昇進は?」
証人「昇進はなく、ボーナスも支給されなかった」
検察側の質問はボーナスに移り、歌織被告がボーナスの支払いを会社に求めるやり取りが証言されていく。
検察官「ボーナスはいつ支給される?」
証人「1月初旬」
検察官「平成19年はいつだった?」
証人「1月9日」
検察官「被害者の妻を名乗る者から、ボーナスについて問い合わせる電話はあったか?」
証人「1月10日にあった」
検察官「内容は?」
証人「まず、祐輔さんの雇用状況について質問されたので、『まだ雇用しているが、行方不明になっているから休職扱い』と答えた」
検察官「妻と名乗る者は何と言った?」
証人「『彼は生きている。私も年明けにメールをもらった』と説明し、『ボーナスを払ってほしい』と言われた」
検察官「それについてはどのように答えた?」
証人「『(金額を本人に)発表しないと、支給できない』と伝えた」
検察官「妻を名乗る者は何と言った?」
証人「『彼は生きている』と。だから、私は『祐輔さんに会社に連絡してきてほしいと伝えて』と頼んだ」
検察官「妻を名乗る者の様子に変化があったか?」
証人「雇用状況を確認していたときに比べて、強い口調に変わった」
やや瞬きが増えた歌織被告。視線は証人にむけられたままだ。
検察官「なぜ、『年明けにメールが来た』と言ったと思う?」
証人「ボーナスが支払われるべきだと思ったのではないか。電話があった1月10日は、前年のボーナス支給日だった。それに会わせて、連絡してきたのではないか」
ここで検察側は質問を変え、事件によって会社が受けた影響について尋ねる。
検察官「(犯行現場となった)富ヶ谷のマンションの管理者が、会社相手に訴訟を起こしている?」
証人「はい。事件が起こり、部屋を改修する必要があることや、住んでいた人が退去したため損害が発生し、損害賠償を請求された」
検察官「退去者はどれくらいか」
証人「十数件の退去があったと聞いている」
ここで検察側の尋問は終了。続いて弁護側の尋問に移る。