(3)「合理的で的確に行動、異常はなし」
●3 死体損壊・死体遺棄の動機は「了解可能」
(1) 本件死体損壊・死体遺棄の経緯および動機について
死体損壊・死体遺棄の動機について、遺体を手元から離したいという思いがあったのはもちろん、遺体の身元判明を防ぐことで犯行を隠そうとした証拠隠滅の意図があったことは明らかです。
遺体から身元が判明する可能性のある頭や左腕、右手を切断しています。また、上半身や下半身とは別に、頭は公園の土の中に埋め、左腕と右手は一般ごみの中に紛れ込ませるという、発見されにくい方法で処分しています。
さらに、歌織被告は殺害後、祐輔さんの会社の上司に促されて警察に捜索願を出していますが、このときに、左腕に手術痕があるとの嘘を言って、身元判明を誤らせようとしています。
歌織被告は女性で、車などの運搬手段もなく、手助けをしてくれる人もいないことから、大きくて重く、隠すのが難しい上半身、下半身は早期に見つかってもやむを得ないと考えました。ただ、身元判明だけでも防げば、自分の犯行を隠せると考えたことは明らかです。
計画性についても、自分のノートに「体/Foot2/Hand2/Body1/Head」「6コ」「バラバラ完了」「←外に置く」などと記載していることから明確です。
2日間かけてキャリーケースやのこぎりなどの道具を全て購入してから、遺体を損壊・遺棄しており、入手理由が不明な物は購入していません。
このように、遺体を一刻も早く手元から離したいという心理のほか、身元判明を防止して自分の犯行であることを隠そうと考え、損壊・遺棄したことは明らかです。
また、事前に全ての道具を購入していることから、遺体を損壊・遺棄しようと決意するまでの過程に、精神障害を疑わせるような異常や飛躍は全く見あたらず、損壊・遺棄の動機は極めて了解可能です。
(2) 歌織被告の弁解が虚偽であること
これに対して歌織被告は、被告人質問で、身元判明の防止までは考えていなかったと弁解しています。
しかし、頭や左腕、右手を上半身、下半身とは別の、しかも発見されにくい方法で遺棄していることから、この弁解は矛盾します。特に右手は、キャリーケースに入れる際に邪魔になったとは考えられません。
上半身や下半身は新宿や渋谷の街中に無造作に捨てているのに対して、頭はわざわざ町田の公園まで運んで埋めています。左腕や右手は、ビニール袋に入れた上、管理人が見回りを行っている自宅マンションのごみ捨て場は避け、わざわざ別のごみ捨て場に捨てています。歌織被告の弁解とはつじつまが合いません。
また、右手の大きさを考えると、手首から切断しなくてもキャリーケースに上半身が入ることは容易に想像でき、右手を切断する労力を考えれば、意味のないことに多大な労力をかけていたとは考えられません。
したがって、歌織被告の弁解は全く信用できません。
●4 死体損壊・死体遺棄の手段や態様は極めて合理的で、目的にかなっていた
本件死体損壊・死体遺棄の手段・態様は、平成18年12月14日に自宅でのこぎりを使い、遺体を上半身、下半身、頭、左腕および右手に切断。同日の夜から16日ごろにかけて上半身を新宿駅近くの路上の植え込みに、下半身を自宅付近の民家の敷地内に遺棄。さらに頭を町田市内の公園内の雑木林に埋め、左腕および右手は自宅付近のごみ捨て場に捨てたというものです。
これらの手段・態様は極めて合理的かつ目的にかなったものであり、精神障害を思わせる事情は一切ありません。
まず、死体損壊については事前に購入したキャリーケースに上半身を入れて運ぶ予定を立て、そのために上半身と下半身を切断しました。また、遺体の身元判明を防ごうと考え、頭と左腕、右手を切断しており、それ以外の無用な損壊行為は一切行っていません。これは極めて合理的かつ目的に沿った行動をしていたものと言えます。
そして死体遺棄についても、上半身と下半身が相当な重さ、大きさであったことから、遠くまで運んで隠すことはできませんでした。そのため、身元判明を防ぐ措置を取っていたものの、さらに慎重を期して少しでも見つかりにくい植え込みや空き家のような民家の敷地を選んで捨てており、合理的な判断に基づいて目的にかなった行動をしています。
なお、下半身はわざわざビニール袋から出して捨てていますが、そもそもいつかは下半身が見つかることを覚悟していたので、袋から出したことも特に不合理というわけではありません。また、歌織被告の供述を前提にすれば、自分の裸の写真が袋の中に紛れ込んでいる可能性があったため、やむなく袋から出して遺棄しており、これも目的に沿った行動です。
さらに、頭についてはバッグに入れ、途中でシャベルを購入した上で比較的遠方にあたる町田市内の公園まで行き、雑木林に穴を掘って埋めています。左腕や右手についてはビニール袋に入れて見えない状態にし、自宅マンションとは別のごみ捨て場にわざわざ捨てており、犯行が発覚しないよう、合理的な判断のもとで的確に行動しています。
従って、死体損壊・死体遺棄の手段・態様は、極めて合理的かつ目的にかなったもので、精神障害を疑わせる事情は一切ありません。
●5 歌織被告は多数の証拠隠滅工作を行っていた
歌織被告は犯行に関するさまざまな証拠隠滅工作を行っており、自分の犯行が違法であることを十分認識した上で、その場その場の状況に応じて犯行が発覚しないような方策を考え、それを実行に移していたのであって、精神障害による異常さはみじんも感じられません。
まず、歌織被告は祐輔さんの殺害後から、周囲の人々に、祐輔さんが仕事に行ったきり帰ってこないなどと嘘をついていたほか、祐輔さんの上司から促されて警察署に捜索願を出しましたが、その際、祐輔さんの左胸上に手術痕があるなどと嘘を言いました。
歌織被告がこれらの嘘を重ねたのは、祐輔さんの所在を不明としたり、祐輔さんの身元が判明しないようにすることによって、自分の犯行が発覚しないようにしたものであって、証拠隠滅工作以外の何ものでもありません。
そして歌織被告は、のこぎり、祐輔さんの血液が付着した布団マットなどをきちんと梱包(こんぽう)した上で新潟市内の実家にあてて発送したり、住宅リフォーム会社に依頼し、自宅の壁のフローリングを張り替えるなどしました。
これらの行為も、祐輔さんの殺害や遺体の損壊などに直接用いたものや、祐輔さんの血のついた可能性の高いものを処分することによって犯行が発覚しないようにしたもので、証拠隠滅工作以外の何ものでもありません。
また、歌織被告は、祐輔さんが使用していた携帯電話から、祐輔さんのお父さんの携帯電話にあてて、「迷惑かけてすみません。もう少しだけ時間を下さい。祐輔」との内容のメールをしています。これも祐輔さんの安否を一番心配しているご両親に対して、祐輔さんが生きているかのように装って、騒ぎだてさせないようにすることを企図したものであり、きわめて狡猾(こうかつ)な証拠隠滅工作です。
そもそも証拠隠滅工作というのは、自分の犯行が違法であることを十分認識している人間が行うものであって、このことからも、歌織被告が自分の犯行の違法性をきちんと理解していたことは明らかです。その上で歌織被告はその場その場の状況に応じて、自分の犯行が発覚しないような方策を考え、それを実行に移していたのですから、精神障害による異常さはみじんも感じられません。
●6 歌織被告が本件犯行まで通常の社会生活を送っており、また、本件犯行までの行動は「了解可能」であった
この点も証拠上明らかですが、割愛します。
●7 小括
以上、述べた通り、犯行の動機や手段・態様、さらに犯行前後における歌織被告の行動は、きわめて合理的かつ目的にかなったものであって、了解不能な点は一切見あたらない上、歌織被告自身が各犯行に関連してさまざまな証拠隠滅工作を行っていたことが明らかです。
これらのことから考えれば、歌織被告が各犯行当時、精神障害をきたしていたと疑われる事情はまったく見あたらず、最高裁決定に照らしても、完全な責任能力があったことは明白です。