(2)「DVなくなっていた」「弁解はウソ」 検察官がバッサリ
法廷には、女性検察官の論告求刑を読み上げる声だけが響いている。論告は殺人までの経緯に対する歌織被告の弁解が虚偽であることを主張する。歌織被告はじっと被告人席に座っているが、記者の傍聴席からは後ろ姿しか見えず、どんな表情をしているのかはうかがえない。
検察官「被告は『暴力が怖くて仕方がなかった』などと供述しているが、以下に述べるとおり、弁解が虚偽であることは明らかです。少なくともシェルター出所後に、祐輔さんから激しい暴力がなかったことは友人の証言から明らか。被告は(平成18年)12月11日に、暴力を心配する友人に『暴力は大丈夫だ』と言っていた。これから暴力があるのではないかと心配している友人に嘘をつく必要はなく、祐輔さんから激しい暴力を受けていなかった何よりの証です」
「被告の犯行動機が祐輔さんへの恐怖ではなく激しい憎しみだったのは、被告のノートに『心から、あいつ(祐輔さん)が憎い。憎くて憎くてしようがない。このままでなんて引き下がるもんか』と記載があることからも明らかです」
続いて検察官は、歌織被告が祐輔さんのボーナスを手に入れようとしていたことを説明した。
検察官「この点についても祐輔さんの同僚の証言から明らか。同僚の話では、被告は平成18年8月ごろ、『冬にボーナスが出たら、それをもらって終わりにしよう』と言っていた。また別の同僚の話では、被告が19年1月10日に祐輔さんの勤務先に電話し、『なぜボーナスが支払われないのか』と言っている。これらの状況は、被告が祐輔さんと離婚して自分だけが惨めな生活をするのが嫌だったから、ボーナスを手に入れようと考えていたことは明らかです」
女性検察官の後方にあるスクリーンに「完全責任能力があったこと」との文字が浮かび、犯行時の歌織被告の行動から、責任能力が認められることを具体的に説明した。
検察官「被告は殺人の道具として、封を切っていないワインボトルを逆さに持って、人体のまさに枢要部である頭部を狙い打ちにしており、殺害のため合理的手段を選択しています。祐輔さんの遺体鑑定書によると、祐輔さんの頭部に複数の傷があり、被告が何度も的確に頭部を殴打したことは明らかであるし、祐輔さんの寝込みを襲って、連続して殴り続けている。被告が高い運動能力を保ったままはっきりとした意識での犯行で、精神障害を疑わせるような状態はまったくありません」
続けて、これまでの公判で「意識障害があった」と主張している歌織被告の弁解について「有利なように供述を変遷させている」と切り捨てた女性検察官。論告は、祐輔さんの遺体損壊・遺棄時の歌織被告の行動に移った。
検察官「自分の犯行を隠そうとして、被告に証拠隠滅の意図があったことは明らか。頭は公園、左手と右手は一般ゴミに混ぜて捨て発見されにくい方法を取っているし、警察に(祐輔さんの不明を)届け出たとき、祐輔さんの胸に『手術痕がある』と嘘を言っています。また、遺体損壊・遺棄に必要な道具を事前に揃えてから遺体を損壊しており、その経緯からは精神障害状態は認められません」
歌織被告の行動から責任能力があることを主張した検察官。次は「身元判明の防止のことまで考えていなかった」とする歌織被告の証言が虚偽であると主張し、こう続けた。
検察官「遺体損壊・遺棄の手段は合理的で目的に適っており、精神障害を疑わせることはありません」