(4)「自己チューで無反省」女性検事が断罪 被告は目を見開いて…
引き続き検察側は、論告で精神鑑定に問題があったことを主張する。歌織被告は鑑定人から「幻覚がなかったか」「覚えていないことはないか」と質問されても、問診の当初ではすぐに幻覚について言及せず、今年2月20日の問診で突如として供述を始めた。検察側はこの不自然さを突いた。さらに検察側は、鑑定人の質問のあり方についても問題があったと言いたいようだ。
検察官「被告は鑑定人から『チカチカ光るものは見えなかった?』『映像にキラキラ感は?』と誘導的な質問を繰り返されましたが、その際にも『幻視が光っていたか分からない』と供述していました」
歌織被告がこれまで法廷での被告人質問や弁護士に対しても供述していなかった幻視・幻覚を、突如として鑑定人に語り出し、最終的には具体的に述べるようになった点について、次のように結論を導き出す。
検察官「被告は精神病や幻覚などについて知識を持ち合わせないため、鑑定人の誘導的質問にヒントを得ながら、その場で自分の体験や知識に基づいた嘘の話を作り出しました」
「鑑定人との問診を重ねるうちに、精神鑑定における自分の供述次第で自らの刑事責任に重大な影響が生じることを十分に意識し、不利益な結果を導かれないように考えを巡らせ、場当たり的な虚偽の供述を繰り返していることは明らかです」
そして、「心神喪失」と認めた鑑定結果について最終結論を出す。
検察官「鑑定は犯行の態様から認められる被告の精神状態と矛盾し、信用性の乏しい供述に基づいています。病状の認定に誤りがあり、責任能力を判定する上で影響を与えません」
続いて論告は情状面に入った。歌織被告は論告を読み上げる女性検察官に一瞥もくれず終始うつむいたまま。
情状の1点目は、動機に酌むべき事情がないということだ。
検察官「(祐輔さんからの)暴力によってシェルターに入ったことは事実だが、その後1年半、暴力はなかった。DV(配偶者間暴力)被害に遭った妻がやむにやまれず殺害したという事案とは明らかに異なります」
動機について弁護側はDVに耐えかねてやむにやまれずの犯行だったと主張していたが、検察側は真っ向から否定する。
続いて、寝ていた夫を殺害して遺体を損壊し寒空の下に放置した犯行自体の残忍さ、証拠隠滅工作を行った犯行後の悪質さを指摘した。論告を読み上げる歌織被告と同じ女性の検察官が最も語気を強めたのが、法廷や遺族に対する被告の態度についてだった。
検察官「(法廷で)自分に不利益な証拠や証言について(歌織被告は)『分からない』『覚えていない』と繰り返しました。(祐輔さんのDVをことさらに主張して)『私は悪くない』『私だけ惨めな思いをするのは納得いなかい』という自己中心的な態度。この先、反省など期待できません」
「被害者を悪者にして責任転嫁し、傍聴席の祐輔さんのご両親に目を合わせることもなければ頭を下げることもしていません」
同年代の女性検察官に厳しい言葉を浴びせかけられる歌織被告。くせになっているロングヘアーを掻き上げる仕草は、この日はあまりみられない。
検察官「以上のことから関係各法律を適用し…」
検察官はついに求刑に入る。
それまでうつむいていた歌織被告が、背筋を伸ばし検察官を初めて見つめた。
検察官「懲役20年を求刑します」
検察官に視線を送ったまま固まって動かない歌織被告。まばたきもせず、目を見開いている。