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(2)「精神障害あるかのように供述変遷」

(3)本件殺人の経緯に関する被告人の弁解は虚偽である

▼▼▼シェルター出所後、祐輔さんからの激しい暴力はなかった

 少なくともシェルター出所後に祐輔さんの激しい暴力がなくなっていたことは、CさんやAさんの証言から明らかです。

 Cさんの証言によると、平成18年3月15日ごろ、歌織被告はけんかの最中に、祐輔さんから「あれ(シェルターの時の暴力)以来、殴ってないじゃないか」と言われても、反論はしませんでした。逆に、シェルターの時の暴力だけをことさら取り上げ、「告発することはいつでもできる」などと言い返していたのです。

 また、Aさんの証言によると、同年12月11日夜、Aさんが「ボイスレコーダーを突きつけると、祐輔さんから暴力を受けるのではないか」と心配したのに対し、歌織被告はわざわざ「暴力は大丈夫」と言っていたのです。

 激しい暴力を受けている女性が、証人になってくれる第三者が目の前にいるのに、暴力があったことを全く主張しないことは考えられません。

 また、「これから暴力を受けるのでは」と心配している知人に対して、わざわざ積極的に「暴力の心配はない」と嘘をつく必要もありません。

 これらの発言や態度は、歌織被告が祐輔さんから激しい暴力を受けていなかったことの、何よりの証なのです。

 しかも、CさんとAさんの話をあわせて考えると、歌織被告は平成18年に入ってから本件殺人の直前までの約9カ月もの間、機会はあったにもかかわらず、知人らに祐輔さんの暴力について主張していなかったのです。平成18年になってから、まして本件殺人直前に、祐輔さんによる激しい暴力がなかったことは明らかです。

 そして、歌織被告が祐輔さんに抱いていた感情が恐怖ではなく、激しい憎しみであったことは、歌織被告のノートや手帳に恐怖を意味する記載が全く見られず、逆に「心から、アイツが憎い!! 憎くて憎くて仕方がない。このままでなんて引きさがるもんか!!」という記載などが見られることからも明らかです。

 したがって、少なくとも歌織被告がシェルターを出所した平成17年7月以降、本件殺人に至るまでの間、祐輔さんによる激しい暴力がなかったことは明らかです。

▼▼▼歌織被告は祐輔さんと離婚するにあたり、少なくとも祐輔さんのボーナスを手に入れようと考えていた

 この点についても、Dさんや、祐輔さんの同僚のEさんの証言から認められる歌織被告の発言および行動によって、明らかです。

 Dさんの話によると、歌織被告は平成18年8月ごろ、Dさんに対して「冬にボーナスが出たら、それをもらって終わりにしようと思う」などと話しています。つまり、離婚後の生活があるので、平成19年1月の祐輔さんのボーナスを手に入れるまでは、離婚しないで辛抱するという意味のことを伝えていたのです。

 また、Eさんの話によると、歌織被告は祐輔さん殺害後の平成19年1月10日に、祐輔さんの勤務先に電話をかけ、ボーナスがなぜ支払われないのかと文句を言っています。

 これらの状況から、歌織被告は離婚するにあたり、自分だけ惨めな生活を送るのが嫌だと思い、何とか経済的に有利な条件を突きつけようと画策。とりあえず、ボーナスを手に入れようと考えていたことは明らかです。

●2 殺人の手段・態様は合理的かつ、目的にかなっている

(1) 本件殺人の手段・態様について

 本件殺人の手段・態様は、歌織被告が自宅で、封を切っていないワインボトルをわざわざ逆さに持ち、祐輔さんの頭を狙って多数回殴りつけ、何回も頭に命中させ、祐輔さんに頭蓋冠・頭蓋底多発骨折などのけがを負わせ、脳挫傷により死亡させたというものです。

 歌織被告は殺人の道具として、封を切っていない容量約750ミリリットル(重さ約1キログラム)のワインボトルを選択。また、本件殺人の手段として、そのワインボトルを逆さに持って、人体のまさに枢要部である祐輔さんの頭を狙い打ちするという方法を選択しているのです。祐輔さんを殺害するため、合理的かつ目的に沿った道具および手段を選択したと言えます。

 そして祐輔さんの遺体の鑑定書によれば、前頭部、側頭部、後頭部の3カ所にそれぞれ複数個(少なくとも合計8つ)の挫創があるほか、頭蓋骨の陥没骨折や亀裂骨折が認められます。このことから、歌織被告がワインボトルを振り上げては、祐輔さんの頭に何度もかつ的確に命中させていたことは明らかです。

 また、祐輔さんが寝ていたと考えられる枕には、骨片のような物が多数付着していました。歌織被告は祐輔さんの寝込みを襲い、しかも最初の殴打行為から力任せに、頭を狙って連続して殴り続けています。これも殺害するための、極めて合理的かつ目的にかなった手段・態様を選択していると言えます。

 加えて、遺体には頭以外に顕著な傷や骨折は認められず、歌織被告は高い運動能力を保ち、意識がはっきりとした状態で、本件殺人を行ったのは明白です。

 したがって、本件殺人の手段・態様は極めて合理的かつ目的にかなったものであり、精神障害を疑わせるような事情は全く見あたりません。

(2)被告人の弁解は虚偽である

 これに対し、歌織被告は被告人質問で、殺人の犯行当時、いかにも意識障害があったかのような供述をしています。

 しかし、当初の被告人質問では、寝ている祐輔さんの頭辺りを狙ってワインボトルを振り下ろし、その後、祐輔さんが起きあがってくると、頭を何回か殴り、さらに倒れた後も何回か殴ったことを認めていました。それにもかかわらず、合理的な理由もなく、供述を自分に有利なように変遷させました。

 歌織被告は被告人質問の供述を変遷させた理由について、「罪を逃れるつもりなどなかったので、どうでもよいと思っていた」「警察官から『そんなこと話したら、全ての話を信じてもらえないぞ』と言われて怒られたので、言っても同じだと思って誰にも言わなかった」などと弁解しています。

 しかし、当初の被告人質問においても、証拠から明らかで、言い逃れのできない客観的行為についてのみ供述し、祐輔さんを殴った力加減や、殺意の存在は明確に供述していません。

 また、殺害の動機や遺体を切断した理由などの主観面を中心に、ことごとく自分に有利な供述に終始していました。「罪を逃れるつもりなどなかったので、どうでもよいと思っていた」とは、到底考えられません。

 また、当初の被告人質問で警察官や検察官の取り調べの不当性を供述し、公判での供述が真実であると主張しており、「警察官に怒られて相手にしてもらえなかったので、公判でも言わなかった」というのは極めて不自然であり不合理です。

 そして、変遷後の供述はいかにも意識障害があったかのような内容で、責任能力の鑑定で有利な結論を導き出そうという意図が見受けられます。

 また、自分には確定的な殺意もなく、力を込めて殴ったかどうかもよく分からない−という弁解をしており、少しでも自分の責任を軽くしようという意図は明らかです。

 したがって、合理的な理由もなく、供述を自分に有利に変遷させたことは明らかです。

 そもそも、歌織被告の供述を前提にすると、祐輔さんの枕元に正座している状態で、ワインボトルが重いから下ろしただけなのに、なぜボトルが頭にあたったのでしょうか。しかも、なぜその一撃で出血するほどの傷を負ったのか。全く説明がつきません。

 また、最初の殴打から力任せに殴り続け、かつ、頭に何度も命中させていたということは、遺体のケガからも明確です。

 意識障害があったかのような歌織被告の供述は、これと明らかに矛盾し、極めて不自然であり不合理です。

 以上の通り、歌織被告の供述は合理的な理由もなく自分に有利に変遷しており、内容も極めて不自然かつ不合理で、全く信用できず、虚偽の供述というほかありません。

⇒論告要旨(3)「合理的で的確に行動、異常はなし」