(4)「どうしたの」「やめて」叫ぶ被害者に何度もナイフ…傍聴席からすすり泣き
東京・秋葉原の耳かき店店員、江尻美保さん=当時(21)=ら2人を殺害したとして、殺人などの罪に問われた元会社員、林貢二被告(42)への検察側の被告人質問が続く。林被告は証言台のいすで背中を丸めたまま、江尻さんの祖母、鈴木芳江さん=同(78)=を殺害した状況について、ぼそぼそとした声で説明していく。
検察官「警察の道場で犯行の状況を再現した様子です。上に馬乗りになったのがあなたで、下が鈴木芳江さん役の警察官を再現したものですね」
被告「そうです」
検察官「左ひざで芳江さんを押さえ、左手で首を押さえつけ、逆手で刃物を持っていますね」
被告「ここまで細かく覚えていないです」
検察官「あなたが再現したものですね」
被告「はい」
検察官「なぜ刺すのをやめたのですか」
被告「おばあさんから体を離したからです」
左から2番目の女性裁判員は林被告と手元の資料を交互に見ている。
検察官「なぜ体を離したのですか」
被告「おばあさんが動かなくなりましたから」
検察官「そのとき、芳江さんを見ましたか」
被告「見ました」
検察官「どのような状態でしたか?」
被告「どのような状態…。仰向けか横向けで、血は出ていたと思います」
検察官「どのくらい血は出ていましたか」
被告「どのくらい…。そこまでじろじろ見ていないです」
林被告は男性検察官の質問の意図が分からないのか、度々、質問と同じ言葉で聞き返している。
検察官「血はたくさん出ましたか」
被告「たくさんだったと思います」
検察官「記憶ははっきりしませんか」
被告「はい」
検察官「芳江さんが亡くなったと思いましたか」
被告「思いました」
検察官「芳江さんを見つけて、『殺さなきゃいけない』と思ったのですか」
被告「すぐにそう思ったわけではないです」
検察官「いつ思ったのですか」
被告「そういうことは分からないです。思ったことは認めますが」
検察官「殺してやろうと思ったのですね」
被告「殺してやろう?」
林被告の声が少しうわずった。
被告「ちょっと違います。大声を出されるのでは、と思いました。静かにしてくれと思いました」
検察官「なぜ大声を出されると嫌だったのですか」
被告「漠然と嫌だと思いました」
検察官「家族を呼ばれるのは嫌だと思わなかったのですか」
被告「その瞬間はそこまでは…」
検察官「単純な話ではないですか」
被告「単純ではないと思います」
検察官と林被告のやりとりは、相変わらずかみ合わない。右から2番目の女性裁判員は困惑した表情で林被告を見つめている。
検察官「大声を出されると嫌だから殺害しようと思いましたか」
被告「はい」
検察官「見つけられてパニックになりましたか」
被告「パニックは…確かにパニックになりました」
検察官「パニックとはどういう状況ですか」
被告「一般的な認識しかないので詳しい説明までは…」
検察官「もう人を殺すのはやめようとは考えませんでしたか」
被告「考えませんでした」
続けて、検察官は林被告が江尻さんを殺害するために2階に上がった状況を尋ねた。林被告は江尻さんを探すため、次々に2階の部屋をまわった。江尻さんの兄の部屋のドアを開けたときは『人がいました。(ドアを)閉めました』と淡々と説明した。
検察官「(江尻さんの)部屋に入るとき、ペティナイフは持っていましたか」
被告「はい」
検察官「どこでナイフを出したのですか」
被告「2階に上がるときだと思いますが、正確にどこか思いだせません」
検察官「(部屋の中で)美保さんはベッドに横になっていましたか」
被告「はい」
検察官「目は開いていましたか」
被告「向こうを向いていたので見えなかったです」
検察官「それからどうしたのですか」
被告「(江尻さんの)隣まで行きました。(江尻さんは)上半身を起こしました」
検察官「そのとき顔を見ましたか」
被告「隣に行ったときに顔が見えました。驚いたような顔でした」
検察官「おびえた表情ではないのですか」
被告「うーん、ちょっと…そこまで観察したわけではない、一瞬です。驚いた表情で、おびえもあったかもしれません」
右から3番目の女性裁判員は真剣な表情で林被告を見つめながら、メモをとっている。
検察官「それから馬乗りになったのですね」
被告「はい」
検察官「美保さんはどんな声をあげましたか」
被告「『どうしたの』といわれたような気がします」
検察官「ほかにはどんな声を聞きましたか」
被告「『やめて』という声を聞いたと思います」
検察官「あなたは『声を出すな』と言いましたか」
被告「分かりません」
検察官「捜査段階の供述調書では『声を出すな』と怒鳴ったとありますが」
被告「怒鳴った…、それは違うと思います」
検察官「『やめて』と言ったのは1回ですか」
被告「何回かです」
検察官「美保さんを見て(殺害を)やめようとは思わなかったのですか」
被告「(顔を)のぞきこんだわけではないので、そこまでは分かりません」
さらに、林被告はベッドから落ちた江尻さんに馬乗りになった状況を説明。男性検察官の質問は江尻さんの殺害状況に入っていく。
検察官「右手にペティナイフを持っていたのですね」
被告「そうです」
検察官「美保さんを刺しましたか」
被告「刺しました。肩か首あたりです」
検察官「どうしてそこを刺したのですか」
被告「理由というのはありません」
検察官「殺害しに来たんですよね」
被告「はい」
検察官「(殺害するのに)効果的だから刺したのではないですか」
被告「効果的なんですか」
検察官「(殺害するために首を狙うのは)常識ではないのですか」
被告「知りませんでした。やったことはありませんでしたから」
検察官「美保さんは抵抗しましたか」
被告「手を出して防ごうとしました」
検察官「あなたの刃物をつかんだのですか」
被告「手をつかまれた記憶があります」
右端の男性裁判員は左手をほほにあてて考え込むように林被告の説明に聞き入っている。
検察官「抵抗されてどうしましたか」
被告「…」
林被告は数秒、沈黙し、か細い声で話した。
被告「そのまま…」
検察官「そのまま刺したのですね」
被告「はい」
検察官「どこを刺しましたか」
被告「分かりません。首か肩だと思います」
検察官「刺したときに、手応えはありましたか」
被告「手応え? どういう手応えなんでしょうか」
抵抗する江尻さんを容赦なく刺し続ける様子を説明する林被告。傍聴席からすすり泣く声が聞こえた。