(2)「性風俗店に毎週のように通った?」 検察官の質問に「関係あるのか」と反論する被告
東京・秋葉原の耳かき店店員、江尻美保さん=当時(21)=と祖母の無職、鈴木芳江さん=同(78)=を殺害したとして、殺人罪などに問われた元会社員、林貢二被告(42)への検察側の被告人質問が続く。落ち着いた口調で問いかけを重ねる男性検察官。一方、林被告は両膝に手を置いて、うつむきながら、つぶやくように質問に答えていく。
検察官「美保さんが何時ごろ、耳かき店に出勤するか知っていましたか」
被告「えーと…。11時半ごろですかね」
検察官「通勤にどの程度時間がかかるか知っていましたか」
被告「30分ぐらいだと思います」
検察官「あなたは普段、6時30分ごろ起床していましたか」
被告「はい」
検察官「家を出るのは何時ごろでしたか」
被告「7時ごろです」
検察官「会社に到着するのは?」
被告「8時10分ごろでした」
検察官「あなたは、(事件当日)美保さんが家にいると分かっていましたね」
被告「その日、いるかは分かりませんでした」
検察官「でも、あなたは美保さんの出勤時間と通勤時間を知っていましたね」
語気を強める男性検察官に対し、林被告の声は消え入りそうなほど小さい。
被告「その日いるかどうかは…。分かりませんでした」
検察官「何時ごろに出勤するか知っていれば、家にいるか分かりますよね」
被告「普通であれば、そうかもしれません」
検察官「あなたは、(事件の日に)8時52分ごろ、美保さんの家に入っていますね。美保さんのお父さんが勤めをしている人だと知っていましたか」
被告「はい」
検察官「耳かき店で、美保さんのお父さんの仕事について聞いていましたか」
被告「トラック運転手と聞きました」
検察官「朝が早いということは聞きましたか」
被告「そういうことは聞いていません」
検察官「月曜の午前9時ごろは、美保さんがいて、お父さんはいないと思っていたのではありませんか」
被告「それは違います」
向かって左端に座る女性裁判員は硬い表情で林被告をじっと見やりながら、ときおり手元のメモにペンを走らせる。男性検察官は林被告が犯行の際に持っていたとされる凶器について、質問を続けた。
検察官「あなたは、3つの凶器をショルダーバッグに入れていましたね」
被告「はい」
検察官「ペティナイフはむき出しのまま?」
被告「はい」
検察官「普段、あなたはそういうことはしませんね」
被告「普段は、ナイフをかばんに入れること自体しませんから…」
検察官「(刃物を)そのままバッグに入れるようなことはありませんね」
被告「必要があれば、何かに巻くと思います」
検察官「巻かないと、どうなりますか?」
被告「自分を切ったりすることになると思います」
検察官「ペティナイフが突き抜けて、誰かを傷つけることもありえますね」
被告「そういうこともあるでしょう」
検察官「ショルダーバッグの生地の厚さや、素材は分かっていましたね」
被告「はい。簡単に(刃物が)突き抜けるようなことはないと思います」
右から2番目と3番目に座る女性裁判員は、林被告と検察官を交互に見やりながら、真剣な表情で質問に聞き入っている。検察官は、林被告が犯行前に江尻さん宅の前でとった行動について質問を続ける。
検察官「あなたは、事件の日、新橋駅から美保さんの家まで歩いて向かいましたね」
被告「はい」
検察官「美保さんの家の前を何度も通りかかっている?」
被告「はい」
検察官「通行人を気にして、何度も往復したのではありませんか」
被告「人がいたとは思いますが…。(人の目を気に)したようなことは特にありません」
検察官「どうして(通行人がいたか)覚えていないのですか」
被告「目の前でぶつかりそうな状況はなかったので」
検察官「それでは、今から防犯カメラの画像の一部を映します」
手元のパソコンを操作する検察官。傍聴席からも見える大型モニターに江尻さんの自宅前の様子が映し出される。
検察官「あっ! しまった!」
大型モニターで動画が再生された瞬間、男性検察官があわてて再生を止める。本来は傍聴席側の大型モニターには映さない予定だった画像を映してしまったようだ。
検察官「すみません、それではいったん質問を変えます。話はガラッと変わりますが、あなたはこれまで、真剣に交際した女性はいましたか」
被告「いません」
検察官「弁護人によると、あなたは過去、3人の女性と真剣交際したということでしたが、それは違いますね」
被告「はい」
検察官「女性に告白されたり、あなたから告白したりしたことはありましたか」
被告「いいえ」
検察官「いわゆる性風俗店に行ったことは?」
被告「あります」
検察官「風俗店で同じ女性をいつも指名していましたか」
被告「いつもではありませんが、あります」
検察官「繰り返し、同じ女性を指名したことは」
被告「あります」
検察官「気に入った女性が店を辞めたため、別のお店を探したり、ということがありましたか」
被告「ありません」
検察官「性風俗店に毎週のように通って、気に入った女の子が辞めるとお店を変えて、新しい風俗店を探すことがありましたか」
被告「そのことは、何か今回のことと関係あるのですか」
林被告は検察官の方に顔を向けると、語気を強め検察官に質問の趣旨を問いただした。
検察官「あなたは、マッサージが受けられる風俗店をインターネットで探したことになっていますが」
被告「それは違います。それは(調べの時に)言われたことです」
検察官「分かりました。それでは、犯行当日の防犯カメラの画像を映したいと思います。モニターを見てもらえますか」
証言台のモニターに、事件当日の江尻さん宅周辺の様子を映した防犯カメラの画像が再生される。林被告は少し前屈みになり、モニターを見つめる。
検察官「美保さんの家の前を映しているのが分かりますね」
被告「はい」
検察官「ご自分は映っていますか」
被告「映っています」
検察官「今、あなたは左斜め後ろを振り返っています。通行人を見ませんでしたか」
被告「…。この人を見たわけではないと思います」
検察官「あなたは、今、Uターンをしようとして止めましたね。進行方向から人が来るのが見えたので、Uターンを止めたのではないですか」
被告「人は見えませんけど…」
検察官「あなたは今、画面の奥から手前に来た人とすれ違った後、Uターンしていますね。あなたは、すれ違った人の瞳を気にして、Uターンしたのでありませんか」
被告「違うと思います」
検察官「あなたは今、左側をちらっと振り向きましたね。通行人がいないことを確認しているのではありませんか」
被告「分かりません」
検察官は画像のひとつひとつを確認しながら、林被告に質問を繰り返していく。林被告は口調を変えず、淡々と答えている。
検察官「あなたは今、右手で(江尻さん宅の)玄関のドアに手をかけましたね」
被告「はい」
検察官「ドアをいったん開けて、閉めましたが?」
被告「はい」
検察官「あなたは今、ショルダーバッグに手をかけて、チャックを開けましたね」
被告「このときかどうかは分かりません」
検察官「侵入前にチャックを開けましたか」
被告「開けたと思います」