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(11)「店員と客の関係超えた感情」 被告の心理を鑑定医が分析

東京・秋葉原の耳かき店店員、江尻美保さん=当時(21)=ら2人を殺害したとして、殺人などの罪に問われた林貢二被告(42)の裁判員裁判は、弁護側による林被告の精神鑑定を実施した鑑定医への証人尋問が続いている。

鑑定医は林被告の犯行時の精神状態について、意識を一つのことに向けていて、周りの物事に注意が向けられないことを意味する『意識強縮』という専門用語を交えながら説明した。

弁護人「(江尻さんの)家に入り込んで、玄関に上がる。私はそのときにはすでに犯行に踏み出していると考えていますが、被告は意識を集中している状態で間違いないですか」

鑑定医「…おそらく。間違いないと思います」

弁護人「意識強縮は何かへの関心を中心として意識を集中しすぎてそのほかが考えられない精神状態ということでよろしいでしょうか」

鑑定医「はい」

弁護人「この場合の関心とは美保さんのことですか」

鑑定医「たしかに美保さんのことは関心の中心にありましたが、玄関の扉を開けたとき、部屋のふすまを開けたときなど、一瞬一瞬で変わります」

江尻さんのことが犯行時、意識の中心にあったという鑑定医。弁護人は江尻さんの祖母で、無関係な祖母の鈴木芳江さん=同(78)=にまで手をかけた林被告の心理について尋ねていく。

弁護人「私自身は被告が家に入り込んだとき、気が緩む状態ではなかったと考えています。そういうときに予定外の人がポッと出てくると非常に驚く、被告人は『パニック』と供述していますが、それはどういう心理状況ですか」

鑑定医「被告がすごくびっくりしたと思いますが、そこで無目的なものからくる行動を取ったわけではないと思います。これから犯行(江尻さんを殺害)するという目的にある程度、しっかりした判断をしていたといえます」

時折間を置いて、一言一言、言葉を選んで慎重に答える鑑定医。右から2人目の女性裁判員は天井に目をやり、思案しながら証言に聞き入っていた。

弁護人はさらに、鈴木さんを殺害するに至った林被告の心理についての質問を続ける。

弁護人「美保さんへの殺意はあっても、憎しみの度合いの高くない人に対して、危害を加えたことはどのように説明しますか」

鑑定医「詳しいわけではありませんが、私なりに評価すると、美保さんへの意識が高かったのは確かだが、美保さんのことだけにとらわれて、ほかのことが見えなくなっていたわけではないです。ふすまを静かに開けるなどの配慮をすることができました」

弁護人「配慮?」

鑑定医「おそらく、(ほかの人に)見つからないようにしようと行動していました」

鑑定医は林被告が目的もなく鈴木さんを殺害したわけではないことを説明したいようだが、弁護側は改めてその点について確認していく。

弁護人「被告は鈴木さんを殺害するときに、とっさに生じた殺意で、勢い余ってやった。そういう風に考えられないでしょうか」

鑑定医「確かに、被告に芳江さんへの憎しみはありません。自分の(江尻さんを殺害するという)目的を達成するために被告にとって必要な行動だったのではないでしょうか」

弁護人はさらに、林被告の犯行後の行動から、犯行時に冷静さを失っていたことを証明しようと試みる。

弁護人「被告は手にたくさんの傷を負っていましたが、警察に行って初めて気付きました。平気でその手を洗っていました。これは犯行時に正常ではなく、冷静さを失っていたことになりませんか」

鑑定医「どんな人でも小さなけがを意識しないことはあります。例えば駅にいてそこでけんかが始まり、逃げるときにけがをしても気付かないことはあります」

弁護人「簡単な傷なら分かりますが、被告は40針を縫うけがをしています」

鑑定医「被告の場合は人を殺しています。殺人行為と相対的に考えると、バランスがとれています」

弁護人「芳江さんに対する殺害の後は、今おっしゃった意識の状態でしたか」

鑑定医「殺害はしているが、美保さんのことで意識は狭まっている。ほとんどの人は人を殺す体験はしないので、ものすごい精神状態になっていることは間違いないです」

他人を殺(あや)めた者の精神状態について聞き入る裁判員。右端の男性は時折、せわしく右手を動かし、メモを取った。

弁護人は続いて、江尻さんを殺害したときの林被告の精神状態について質問した。

弁護人「被告は美保さんを刺した後、再び、(江尻さんの部屋のある)2階に上がっています。こういう言い方は好ましくありませんが、続けざまに美保さんを刺そうと思えば、続けられた。どうして続けなかったのでしょうか」

鑑定医「推測になりますが、人が死んだかどうかは多くの人は正確に分かりません。また、母親が後ろに立っていることが分かって、我に返って逃げたのかもしれません」

弁護人「『我に返った』とおっしゃいましたが、その前は『我を失っていた』ということでしょうか。我に返ると失うの違いを説明してください」

鑑定医「一般論はうまく言えませんが、被告は我を失っていたときは美保さんを殺害することで頭がいっぱいですが、我に返ったときはそのことの重大さを考えることができるようになったのではないでしょうか」

証言を一言も聞き漏らすまいと集中しているのだろうか、左から3番目の男性裁判員は瞬きすることなく、鑑定医の言葉に耳を傾けている。

弁護人は江尻さんに対する林被告の心理についても聞いた。

弁護人「被告人は4月5日を最後に店に行けなくなって以来、『店に行きたい』とはいっているが、『個人的につき合いたい』とはいっていない。基本的に店の中だけのバーチャルで特別な恋愛感情があったのではないでしょうか」

鑑定医「正直、深く検討していませんが、ずーっと被告が言っていたのは、『店の店員と客という関係は常に意識していた』ということでした」

弁護人「でも、かなり長時間のめり込んでいたと思いますが」

鑑定医「被告は頭では理解していても、それを超えた感情を持っていたという印象を持ちました」

林被告は下を向いたまま微動だにせず、証言を聞いている。

この後、質問者が後列の男性弁護人に交代。この弁護人も林被告が江尻さんに対して抱いていた感情について尋ねた。

弁護人「自分の毎月の給料を美保さんに会うために使っても、何の苦でもない。どういう心理ですか」

鑑定医「美保さんと会うことが最も重要なことの一つだったのではないでしょうか。仕事もしていて破綻(はたん)していませんし、ある程度バランスがとれていたと思います」

弁護人「審理のなかで何度かストーカー、待ち伏せ被害に遭ったと出てきましたが、どうすれば防ぐことができたのでしょうか」

裁判長「それはここで聞くことではないでしょう」

さらに、江尻さんがストーカー被害を防げなかったことについても聞いた弁護人だったが、若園敦雄裁判長に制された。

弁護人「これで終わります」

この後、約30分間の休廷に入った。

⇒(12)犯行招いたのは「多様性認めない性格」鑑定医が証言