(3)「馬乗りになってナイフで首や肩を狙った」 祖母殺害状況を語る被告
東京・秋葉原の耳かき店店員、江尻美保さん=当時(21)=ら2人を殺害したとして殺人などの罪に問われた元会社員、林貢二被告(42)の裁判員裁判第4回公判は、検察官の被告人質問が続いている。美保さん宅に侵入した当時の状況について検察官が追及していく。
検察官「どうして右手でショルダーバッグに引っかけたのですか」
被告「分かんないです」
検察官「凶器をバックから取り出しやすいと思ったからですか」
被告「分かりません。チャックを開けていたのかもしれないです」
検察官「右手をショルダーバッグ、左手でドアに触ったのですか」
被告「はい」
検察官「左手でドアを開け閉めして中へと入ったということですか」
被告「はい」
若園敦雄裁判長と検察官が質問の進め方について相談しているようだ。
検察官「あなたは玄関に侵入して靴を脱ぎましたか」
被告「はい。脱ぎました」
検察官「どうして靴を脱いだのですか」
被告「特に理由があるわけではないですが…」
林被告は検察官の質問に対し、小さな声で答えていく。
検察官「靴を履いたままだと足音がたつとは思いませんでしたか」
被告「そういうことは思っていません」
検察官「中の音が外に聞かれるとか?」
被告「それは違います」
はっきりと答える林被告。
検察官「玄関から靴を脱いで上がった後はどうしましたか」
被告「廊下みたいなところに上がって、おばあさんに見つかりました」
おばあさんとは、美保さんの祖母で、林被告に殺害された鈴木芳江さん=当時(78)=だ。
検察官「おばあさんはどんな様子でしたか」
被告「座ったままでした」
検察官「おばあさんを見てどのように思いましたか」
被告「びっくりしました。そしておばあさんに向かっていきました」
検察官「どうして向かっていったのですか」
被告「とっさでした」
向かって左側の男性裁判官がほおづえをつきながら林被告の表情をじっと見つめる。
検察官「向かった後はどうしたのですか」
被告「凶器を使って、あまり覚えていませんが、ハンマーを使ったのは覚えています」
検察官「ハンマーでどうしたのですか」
しばらく無言を続ける林被告。右から3番目の女性裁判員は眉間(みけん)にしわを寄せ、次の発言を待っているようだ。
被告「たたいたのだと思います」
検察官「何回たたきましたか」
被告「分かりません」
検察官「右手でしたか、左手でしたか」
被告「左手だったと思います」
検察官「どんな体勢になりましたか」
被告「覚えていません」
検察官「ハンマーでたたいたときはどんな位置関係にありましたか」
被告「位置関係ですか…。おばあさんに馬乗りになりました」
検察官「どのようにして馬乗りになったのですか」
被告「覚えていません」
被害者をよく知るとみられる傍聴人が、涙を流している。
検察官「体のどのあたりに馬乗りになりましたか」
被告「胸のあたりだったと思います」
検察官「首は押さえつけていましたか」
被告「覚えていません」
検察官「ハンマーでたたいたとき、芳江さんは抵抗しましたか」
被告「手を前に出して防ごうとしていたと思います」
検察官「声は上げていましたか」
被告「声というか、アッとかウッとかいう感じです」
検察官「抵抗は強かったのですか」
被告「強かったです」
検察官「ハンマーでたたいた後はどうしましたか」
複数の裁判員が林被告から視線をそらさずにいる。
被告「刃物を出しました」
検察官「どうしてですか」
被告「分かりません」
検察官「刺すためではないのですか。ハンマーでは足りなかったのですか」
被告「分かりません」
検察官「刃物とはナイフですか。どのように握ったのですか」
被告「右手だったと思います」
検察官「あなたは捜査段階ではどのように握ったかについて覚えてないと答えていますが…」
被告「はい」
検察官「どこを狙ったのですか」
被告「首とか肩とかです」
検察官「どうしてですか」
被告「理由は覚えていません」
検察官「刺すのはどこでもよかったのですか」
被告「手がいったところでしたから…」
検察官「殺害しようと思って刺したのではないのですか」
検察官が語気を強めて質問する。
被告「そうです」
検察官「効果的に刺そうと思って首を刺しているのでは?」
被告「そこまで余裕はありません」
検察官「刺したのはどうして1回や2回ではなかったのですか」
被告「それは分かりません」
検察側の証拠によると、鈴木さんの頭や首などには計22カ所の傷があったとされる。
検察官「刺されているときに芳江さんは抵抗しましたか」
被告「したと思います。手を出して防ぐように…」
検察官「首を振ったり体をよじったりはしましたか」
被告「そこまでは覚えていません」
殺害現場の見取り図が法廷のスクリーンに映し出された。殺害状況について検察官がさらに質問を続ける。