(7)「交際や結婚をしたいとは思っていない」 検察指摘の「恋愛感情」真っ向否定
東京都港区で昨年8月、耳かき店店員の江尻美保さん=当時(21)=と祖母の鈴木芳江さん=同(78)=を殺害したとして、殺人などの罪に問われている元会社員、林貢二被告(42)が、男性弁護人の質問に答えている。弁護人は、耳かき店で林被告と江尻さんがどのように過ごしていたのかを詳しく聞いていく。
弁護人「美保さんとは敬語で話していたのですか」
被告「初めのうちは敬語でしたが、途中から友達のような口調になりました」
弁護人「それはいつごろのことですか」
被告「平成20年8月ぐらいだったと思います」
弁護人「それについて、どう思いましたか」
被告「私は肩がこらないし、気楽ですから、その方がよかったです」
弁護人「新宿東口店であなたはほとんど寝ていたということですが、秋葉原店ではどうでしたか」
被告「たまに寝ていました」
江尻さんは耳かき店の秋葉原店で働いていたが、20年11月から系列店の新宿東口店でも掛け持ちで働くようになっていた。林被告は新宿東口店にもたびたび訪れていたという。
弁護人「あなたが寝ている間、美保さんはどうしていましたか」
被告「起きていたと思います」
弁護人「美保さんが寝ていたことはありますか」
被告「2、3回あります」
弁護人「そのとき、林さんはどうしているのですか」
被告「私も寝てますから。私が起きていたのは1回ぐらいです」
弁護人「夕方から閉店まで店にいるとき、食事はどうするのですか」
被告「特に決めていません」
弁護人「何も食べないのですか」
被告「そういうこともあるし、何か買っていくこともあります」
弁護人「美保さんに何か買ってくるよう頼まれたこともありますか」
被告「よくあります。一番多かったのはケンタッキーで、次はお菓子やお弁当です」
弁護人「お菓子を持っていって文句を言われたり、言ったりしたことはありますか」
被告「けんかのようなことはないですが、頼まれたものを買っていったら『さっき食べちゃったからおなかいっぱい』って言われ、『何それ』っていうのはありました」
第2回公判に証人として出廷した江尻さんの同僚女性は、このやり取りの際、「林被告が泣いていたようだ」と証言していた。
弁護人「弁当を買っていって文句を言われたことはありますか」
被告「私が言われたものと違うものを買ってきたことがありました」
弁護人「具体的には?」
林被告は「具体的にですか…」とつぶやいた後、「海鮮丼のイカとタコが違う」と続けた。
弁護人「イカ(入り)を頼んだのに、タコ(入り)を買ってきたということですか」
被告「はい」
弁護人「他には何かありますか」
被告「予約の時間がちょっとかぶったとき、『前回は向こうの人が譲ってくれたから、今回は譲ってくれ』と言われたことがあります」
男性弁護人は、予約方法についても尋ねた。
弁護人「(店で)口げんかをしても、(次回の)予約をして帰ることはありましたか」
被告「それがほとんどでした」
弁護人「予約しないで帰ることもありましたか」
被告「はい」
弁護人「そのとき、次回予約はどうするのですか」
林被告はこういった場合、当日の深夜か翌朝に、江尻さんから「さっきは言い方きつくてごめん」「次回の予約確認をしたい」というメールが来ると説明した。
弁護人「予約の調整や、予約しないで帰ったとき以外に、美保さんとメールしたことはありますか」
被告「(予約した日に)私が早めに(秋葉原に)到着しているので、『30分早めにどうですか』とメールが来ることはありました。開いていれば、早めに行っていました」
弁護人「現在、メールの履歴を見ることはできますか」
被告「できないと思います。私は用事が済むと(メールを)削除してしまう習慣なので、今は見られないと思います」
弁護人「(一緒にいるときに)ほかの人から美保さんにメールがくることはありましたか」
被告「友達からよくメールが来ていたようでした。その場で返信していました」
弁護人「美保さんは、林さんのことをいくつだと思っていたようでしたか」
被告「実際より5歳くらい若く見ていたと思います」
弁護人「それはなぜですか」
被告「最初か2回目のときに『30代前半?』と聞かれ、若く言ってくれたのであえて否定しなかったからです」
弁護人「あなたの月収についての話はしましたか」
被告「何回か聞かれました。給料はいくらくらいか聞かれ、私は答えたくないので言わなかったら、(江尻さんは)指を示しながら『これぐらい? これぐらい?』と聞いてきて、私は『うんうんそれぐらい』と適当に答えていました」
弁護人「指を1本、2本と示して聞いてきたということですね? 最少の数字と最大の数字はどのくらいでしたか」
被告「最少で10万、最大で70万くらいあったと思います」
弁護人「美保さんの本名はどうやって知りましたか」
被告「下の名前は普通に教えてくれました。名字は、高校時代の話か何かをしていたときに、美保さんが思わず口走りました」
弁護人「下の名前を聞いたのはいつごろですか」
被告「平成20年8月ごろです」
弁護人「美保さんのことは何と呼んでいましたか」
被告「源氏名です。まりな」
江尻さんは耳かき店では、「まりな」と名乗って働いていた。
弁護人「店から電話を受けたことはありますか」
被告「はい。『前のお客さんがちょっと押しちゃってるんで、15分くらい(予約を)遅らせてくれないか』という電話が2回くらいありました」
弁護人「掛けてきたのは誰ですか」
被告「1回目は前の店長で、2回目はきのう来ていたXさん(法廷では実名)です」
Xさんは秋葉原店の男性店長で、第2回公判に証人として出廷。林被告を出入り禁止にした経緯などを説明していた。
弁護人「美保さんの手を握ったことはありますか」
被告「あります」
弁護人「初めて握ったのはいつごろですか」
被告「平成21年の年明けぐらいだと思います」
弁護人「どうして握ったのですか」
被告「私は金、土、日のうち1回は頭や肩のマッサージをしてもらっていました。肩こりがひどいので。あと、ハンドマッサージのときにマッサージしないでいいから手を握ってほしいといいました」
弁護人「美保さんの反応は?」
被告「『いいよ』っていってました」
弁護人「ずっと握っているのですか」
被告「3分くらいです」
弁護人「それは最初の1回ですか」
被告「ずっとそういう感じでした」
弁護人「手のマッサージ以外で、美保さんの手を握ったことはありますか」
被告「ありません」
弁護人「店の外で手を握りたいと思ったことは?」
被告「ありません」
弁護人「『手を握ってくれないともう店には来ない』と言ったことは?」
被告「ありません」
検察側は冒頭陳述で、林被告が江尻さんに手を握ってほしいと要求し、断られても聞き入れなかったことがあったと指摘しており、林被告はこれと食い違う主張を見せた。
弁護人「あなたは定期預金を解約して、お店の支払いに充てたことはありますか」
被告「ありません」
弁護人「利用時間がのびて迷惑にならないか、最後に美保さんに確認したのはいつですか」
被告「平成21年の1月か2月くらいです」
弁護人「金曜日もお店に行くようになり、他の平日も来てほしいといわれたことはありますか」
被告「あります。『平日の方がお店が空いているので、平日にも来てほしい』といわれ、『仕事に支障が出るのでそれはできない』と断りました」
質問は、核心となる江尻さんへの恋愛感情にも及んだ。
弁護人「これまでに何人の女性と交際したことがありますか」
被告「3人ぐらいです」
弁護人「その人たちと結婚したいと思ったことは?」
被告「特に思いませんでした」
弁護人「美保さんと交際や結婚をしたいと思っていましたか」
被告「思っていません」
弁護人「それはなぜですか」
被告「歳が離れているので、そういう対象として見ていませんでした」
検察側は冒頭陳述で、「林被告は江尻さんへ一方的に恋愛感情を持っていた」と指摘しているが、林被告はこれを真っ向から否定した。
弁護人「美保さんは林さんのことをどういう風に思っていたと思いますか」
被告「お店の常連のお客さんという認識だったと思います。ただ、メールアドレスを教えたことや、予約の特別な計らいをしてくれたことなどを考えると、人として信用はしてくれたのかなと…。人間性は信用してくれたのかなと思います」
弁護人「あなたは先ほど、結婚するつもりはないと話していましたが、それはどうしてですか」
被告「私の持病の膠原病はいつ再発するか分からず、再発すれば入退院を繰り返すことになります。一家の大黒柱がそういうことになれば、悲しむ人を作ることになるので、私は結婚しないと決めていました」
ここで、若園敦雄裁判長が休廷を告げた。約1時間20分の休憩をはさみ、午後1時半から再開する審理では引き続き、弁護側の被告人質問が行われる予定だ。