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(1)「生きてこその償いか、生きていてはいけないのか…」被告が犯行後に書いた手紙を弁護人が朗読

東京都港区で昨年8月、耳かき店店員、江尻美保さん=当時(21)=と祖母の無職、鈴木芳江さん=同(78)=が殺害された事件で、殺人罪などに問われた元会社員、林貢二被告(42)の裁判員裁判第3回公判が21日午前、東京地裁(若園敦雄裁判長)で始まった。午前、午後とも被告人質問が行われる予定で、裁判は大きな山場を迎える。

耳かき店の常連客だった林被告が、人気ナンバーワン店員だった江尻さんに一方的に恋愛感情を抱き、ストーカー行為の末、江尻さんだけでなく、祖母の鈴木さんまで殺害したとされる事件。林被告は19日の初公判で「間違いありません」と起訴内容を認めており、裁判の争点は量刑だけに絞られている。

2人を殺害していることから、昨年5月に導入された裁判員裁判で初めて、検察側が死刑を求刑する可能性があり、全国的な注目を集めている今回の裁判。仮に死刑が求刑された場合、被告の生死を左右する重大な判断を下さなければならないため、女性4人、男性2人の裁判員はこれまで、真剣な表情で審理に参加している。

20日の第2回公判では、江尻さんが勤めていた耳かき店の男性店長ら4人が検察側証人として出廷。林被告にたびたび待ち伏せされた江尻さんが、周囲に「怖い」と話し、催涙スプレーや防犯ブザーを持ち歩いていたことなどを証言した。

また同僚女性は、江尻さんが林被告から再三、食事に誘われ「怖いから店を出入り禁止にしたい」と話していたことや、事件直前の昨年7月には、自宅近くで待ち伏せされた江尻さんから「すごく怖くて走って逃げた」と連絡を受けたことも明かした上で、「言葉の謝罪はいらないから死刑になってもらいたい。死刑にならなかったら、私が代わりに殺したいぐらい」と涙ながらに訴えた。

この日の被告人質問で、弁護側は、林被告が耳かき店に通う中で、江尻さんと作り上げたという「人間関係」を明らかにした上で、犯行時にパニック状態だったことや、犯行後の反省状況などを示す証言を引き出し、裁判員に情状面を訴えるとみられる。

一方の検察側は、江尻さんらに落ち度はなく、林被告が一方的に恋愛感情を抱き、それが受け入れられなかったことから殺害したという、身勝手で自己中心的な犯行動機を際立たせるような厳しい質問を林被告にぶつけるとみられる。林被告は何を語るのか。

法廷は東京地裁最大の広さを誇る104号。午前10時、若園裁判長の指示で林被告が、向かって左側の扉から入ってきた。これまで同様の黒いスーツに白いワイシャツ、紺色のネクタイ姿。緊張しているのか顔をこわばらせ、傍聴席に目を向けることなく、向かって左側の弁護人席の横に腰を下ろした。女性4人、男性2人の裁判員も入廷し、10時2分、若園裁判長が声を上げた。

裁判長「それでは開廷いたします」

若園裁判長に促され、弁護人の男性が立ち上がった。

弁護人「公判前整理手続きで、(殺害された鈴木)芳江さんへの計画性については、検察官は主張しないと確認していたが、検察官の冒頭陳述で、誤解を招きそうな表現があったので、確認させていただきたい。削除していただきたい」

裁判官「特に考慮すべき情状の2と4の記載ですね」

弁護人「はい」

弁護人が指摘したのは、「林被告が江尻さんの家族が屋内にいることを認識し、障害(鈴木芳江さん)を排除してでも江尻さんを確実に殺害しようと考えていた」とされた記述と、「江尻さんの殺害の邪魔になると考えて、たまたま自宅に居合わせただけの何ら落ち度のない鈴木さんを殺害した」という記述のようだ。検察官が反論する。

検察官「これは、障害を排除してでも確実に殺害しようとしたことを述べたもので、芳江さんの殺害を計画していないとする主張とまったく矛盾しないと思います」

弁護人は納得したようだが、後列に座っていた別の弁護人の男性が、なおも反論する。

弁護人「これは証拠に基づかない冒頭陳述ではないか。家族を排除してでも殺害しようという意志まではありません。証拠に基づいて主張してほしい」

検察官「証拠から合理的に認められるものです」

弁護人は、納得したようだ。続いて、検察官が、林被告が事件当時所持していたバッグを新たに証拠申請した。弁護側が冒頭陳述で、包丁をむき出しのまま入れたことを情状の理由に挙げていたため、「バッグの構造や生地の厚さについて取り調べる必要がある」と主張。裁判官は、午後以降に採否を留保した。

続いて、弁護側の証拠調べに移る。男性弁護人が、林被告が勾留(こうりゅう)中に書いた手紙2通を読み上げていく。

起訴状によると、林被告は平成21年8月3日午前8時50分ごろ、東京都港区の江尻さん方に侵入し、1階にいた鈴木さんをハンマーで殴り、首を果物ナイフで刺すなどして殺害。また、2階にいた江尻さんの首をナイフで刺し、約1カ月後に死亡させたとされる。

弁護人「平成21年9月4日、金(曜日)。今は申し訳ない気持ちと、後悔の気持ちで毎日を送っています。これから私に何ができるのか、何をしたらいいのかを考えています。死んでおばあさん(芳江さん)にお詫びしたいと考えましたが、生きて一生懸命働いて償うことがいいのかとも考えました。今の自分に何が、これからの自分に何ができるのか、毎日考えています」

林被告は時折、口をもごもご動かすほかは、目線を落とし、無表情のまま、自身が書いた手紙の朗読を聞き入っている。

「あんなひどいことをしてしまい、何をしても取り返しのつかないことは分かっています。それでも何かお詫びがしたい、償いがしたいと思っています。今の願いは、美保さんが早く回復されることを祈って毎日手を合わせています。どうか早くよくなってください。助かってください」

弁護人は続けて2通目を読み上げる。これは事件から約10カ月後の今年6月4日に書かれたものだ。

弁護人「外の様子が分からないのと同様、外からも拘置所の中がまったく分からないと思います。ご家族の方はどのようにされているか、とても心配していますが、お詫びに行くことはおろか、自分で確かめることも許されない状況です。許すことのできない憎しみの対象である犯人、私が何を思い、どのようにしているか、私は少しでも自分の気持ちを伝えようと、このように毎日手紙を書き続けています。2人のことを思い、ご家族のことを思い、自分の行動を思い返し、心が締め付けられる日々を送っています」

「どのような償いをしていくかを考えていますが、時々、あまりにも重大な結果を招いてしまったことに、何か押しつぶされそうになり、何も考えられなくなることもあります。生きてこそ、償いができるという思いと、生きていては、いけないのではないかという両方が頭に共存しているというのが、素直な思いです」

次に弁護人は、林被告が勤務していた上司の供述調書を読み上げていく。この上司は林被告と2回、同じ職場で勤務したといい、林被告の人柄について、「まじめな人という印象。黙々と仕事をこなし、人が嫌がる現場でも進んで仕事をしてくれるので、問題ない部下だと思っていました。金銭や女性のトラブルもなく、最近も変わった様子はなく、なぜこんな事件を起こしたのか考えられません」と話していたという。

林被告は、無表情のまま、耳を傾けていた。

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