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(2)貯金は1千万円「説明する責任がある」と自殺を思いとどまった被告

耳かき店店員、江尻美保さん=当時(21)=ら2人を殺害したとして殺人などの罪に問われた林貢二被告(42)の裁判員裁判第3回公判は、弁護人の証拠調べが続いている。弁護人は、林被告の上司から聞いた林被告の勤務態度や性格などをまとめた陳述書を読み上げる。

弁護人「林を一言で言えばまじめな男で、思いつきで行動する男ではありません。とても頼りになります。進んで仕事をすることから同僚や後輩からは信頼がありました。酒は飲めないため、会社の飲み会などでは、ウーロン茶などを静かに飲んでいました。最近も変わった様子はなく、林は相変わらずクールでまじめでした。まじめな林がこんな事件を起こすなんて思いませんでした」

読み上げ後、弁護人は平成20年4月から21年8月までの江尻さんの報酬を証拠提出。弁護人によると20年12月の報酬は65万4250円にも上ったという。続いて林被告が遺族にあてた手紙の写しも提出された。

弁護人の証拠調べが終わり、いよいよ被告人質問に移る。若園敦雄裁判長に促された林被告はうつむいたままゆっくりと証言台に立った。男性弁護士が質問を始める。

弁護人「林さんは今回2つの殺人事件を起こしました。罪を犯したことに対してと遺族などについてどのように思っていますか」

被告「被害者にとてもひどいことをしてしまって申し訳ない気持ちです」

林被告は今にも消え入りそうな声で答える。

女性4人、男性2人の裁判員の視線はうつむいたままの林被告に集まる。

弁護人「事件後に自殺を考えましたか」

被告「はい」

弁護人「なぜ思いとどまったのですか」

被告「今回の事件では私しか知り得ないことがほとんどですから、説明する責任を果たさないといけないと思いました」

弁護人は林被告の生い立ちから質問を始める。

林被告は千葉県千葉市生まれで、公立の中高を卒業し、電気系専門学校を経て、事件当時まで務めていた会社に入社する。

弁護人「事件当時の財産はいくらありましたか」

被告「1千万ぐらいです」

弁護人「どうやってためたのですか」

被告「20年間働いてきた中で少しずつ…」

林被告の声が小さくて聞こえにくいため、裁判長がマイクを近づけるように促す。

弁護人「借金やローンはありましたか」

被告「ありません」

弁護人「趣味は?」

被告「特にありませんが本を読むのが好きです」

林被告は26歳のころに膠原(こうげん)病を発症したと証言。若いころは結婚を考えたこともあったが、病気になってからは再発の恐れもあるため、結婚は考えなくなったと答えた。

弁護人「いつから1人暮らしですか」

被告「28歳からです」

弁護人「林さんの事件当時と今の体格について教えてください」

被告「身長は169センチで体重は事件当時は63キロ。今は46キロです」

裁判員はメモを取りながら真剣な表情で林被告の言葉に耳を傾けている。

弁護人「今の背広は自分のですか」

被告「はい」

弁護人「大きいように感じますが、昔は(サイズが)合っていましたか」

被告「はい」

弁護人「前科前歴はありますか」

被告「ありません」

弁護人「事件当時はどんな仕事をしていましたか」

被告「配電設備の設計という仕事です」

弁護人「仕事上の肩書はありましたか」

被告「設計主任です」

弁護人「部下はいましたか」

被告「部下というよりも4人で1つの担当区域があり、そのチームの責任者でした」

弁護人「主任はどんな仕事をするのですか」

被告「各メンバーに仕事を振り分けたり、仕事の相談を受けたりです」

林被告は土日はほとんど休みで、残業は週に1〜2時間程度だったと話す。耳かき店に行くようになってからも勤務態度は変わらなかったと説明。1人暮らしを始めてからは朝6時に起き、午後11時から12時までの間には寝ていたと話した。

弁護人は耳かき店での江尻さんとの出会いについて質問を始めた。

弁護人「××耳かき店(法廷では実名)には20年2月にインターネットで知ったのですね」

被告「はい」

弁護人「何を検索していてですか」

被告「マッサージです」

弁護人「××耳かき店に行こうと思ったのはなぜですか」

被告「見たことのない店だったのでどんなところかと思って」

弁護人「最初に行ったときに美保さんが担当したんですね」

被告「はい」

弁護人「美保さんの印象はどうでしたか」

被告「適度に会話もできる感じで、比較的好印象でした」

初来店で江尻さんから1時間のサービスを受けた林被告。2、3週間後に再び来店し、江尻さんを指名した。

弁護人「美保さんを指名したのはなぜですか」

被告「1度目が好印象だったので、分からない人よりは安心だと思いました」

弁護人「4、5回目までは1時間の利用ですよね」

被告「はい」

弁護人「どうしてその後、時間が長くなったのですか」

被告「話をしていたら時間があっという間に過ぎていって、(江尻さんから)『だったら長くできますよ』と言われました」

弁護人「20年5、6月は1回どのくらい利用していましたか」

被告「3時間ぐらいだと思います」

弁護人「美保さんの手帳によると、20年5月4日から土日に2回行くようになっていますが、きっかけは何ですか」

被告「土曜に行ったときだと思いますが、『翌日も休みでしょ。なんかやることありますか』と聞かれたので『ない』と言ったら『来れたら来てください』といわれたので」

林被告は、耳かき店に入り浸りになっていったきっかけについて、ぼそぼそと答え始めた。

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