初公判(2012.1.10)
(4)木嶋被告、「性交渉の不一致」で次々別れる
首都圏の連続殺人事件で練炭自殺に見せかけ男性3人を殺害したとして、殺人などの罪に問われた木嶋佳苗被告(37)に対する裁判員裁判の初公判(大熊一之裁判長)は、2度目の休憩を挟み、弁護側の冒頭陳述が始められた。
起訴状によると、木嶋被告は、(1)平成21年8月、埼玉県富士見市の駐車場で駐車中のレンタカーの車内で練炭を燃やし、薬物で眠らせた交際相手の東京都千代田区、会社員、大出嘉之さん=当時(41)=を一酸化炭素(CO)中毒で殺害した。
(2)21年1月、東京都青梅市のマンション室内で、こんろ6つに入れた練炭を燃やし交際相手の会社員、寺田隆夫さん=当時(53)=を殺害。
(3)21年5月には、ホームヘルパーとして自宅に出入りしていた、千葉県野田市の無職、安藤健三さん=当時(80)に睡眠導入剤を飲ませて眠らせた上でこんろを使って練炭に火をつけて殺害した。
3つの殺人事件に加えて、詐欺、詐欺未遂、窃盗など計10の罪に問われている。
弁護人は、大型モニターを使いながら、裁判員にも分かるように、ゆっくりとした口調で陳述を始めた。
弁護人「弁護人は、この公判で2つのこと明らかにしていきます。ひとつは木嶋さんが本気で(男性らと)結婚を考えていたことです」
「もう一つは、3人の男性を殺害していないということです」
弁護側は徹底抗戦の構えで、木嶋被告の生い立ちからの説明に入る。
それによると、木嶋被告は昭和49年に北海道で生まれた。妹2人と弟1人の4人兄弟で、高校卒業と同時に上京し、さまざまな職についたという。転機は平成14年で、千葉のリサイクル会社に勤めたとき。株の取引の手伝いや掃除や買い物などをこなすうちに、経営者から気にいられたという。
弁護人「息子の嫁になってくれといわれたこともあった」
そして、給料だけではなく、生活費の面倒もみてもらうようになった。
弁護人「木嶋さんは、そのころ、円形脱毛症など悩まされていたが、診察費も面倒をみてもらっていた。次第に甘えが出るようにもなっていた」
カードでの買い物も頻繁に行い、エステ通いやタクシーを使うこともあったという。ただ、平成19年に経営者が突然体調を崩して死亡。支援者を失う。
弁護人「平成20年、33歳になった木嶋さんは、将来のことを考え、結婚相手を見つけたいと思うようになった」
弁護人は続ける。木嶋被告は同年5月、婚活サイトに登録。長年の甘えから経済的に頼れる人を探し3人の男性と交際をスタートさせた。最初に知り合ったのが寺田さんだった。
弁護人「美術館巡りなどの趣味が共通していたことや、50歳を超え、落ち着いていて包容力があると感じたという」
3人の中から、21年1月ごろに、本命に絞ったのは、経済的に援助してもらえる寺田さん。しかし、21年1月30日に別れた。
弁護人「交際中は性交渉がうまくいかず、年への不満もあり、寺田さんにぶつけた。寺田さんのマンションに練炭やコンロを持ち込んだこともなく、寺田さんの死は2月4日に警察からの電話で知った」
続いて、弁護人は安藤さんについての説明を進める。木嶋被告は安藤さんとも婚活サイトで知り合った。
弁護人「80歳を超えているので、驚きを感じたが会ってみると、気の合うおじさんで話も面白かった」
安藤さんとは宿泊旅行もいき、家にも行くなど交際相手ではないが、関係を深めていったという。
そして、弁護人によると、片づけもするうちに学費を援助してもらうこともあったが、安藤さんも生活が苦しいと感じ、逆に援助をすることもあったという。
起訴状によると、安藤さんは5月15日に火事に見せかけて、木嶋被告に殺害された。弁護側は当日の様子を詳細に説明していく。
同日は、安藤さんの年金還付でまとまった現金が入金される日だった。弁護側は、これまでの援助していた「100万円を返す」と安藤さんからいわれたと主張。木嶋被告はキャッシュカードを預かり、自らの口座に入金した上に、残りを安藤さんのところに持ち帰り、安藤さんと別れたとする。火事はその後に起きたもので、木嶋被告とは無関係と主張した。
最後に、弁護側は大出さん事件についての陳述を始める。
大出さんとも婚活サイトで21年7月に知り合ったという。都心に住んでいることやさわやかな点にひかれた。しかし、結婚を考え直すようになる。
弁護人「性交渉がうまくいかなかったためだ」
別れを切り出すと、大出さんは、木嶋被告の自宅にあった、練炭とコンロを譲ってくれといったという。練炭とコンロは料理が趣味の木嶋被告が豆などを煮る際に使うために購入していたと弁護人は主張する。
そして、練炭とコンロを持ち、2人は車で出かける。車内でも別れる気持ちに変わりがないことを大出さんに告げると、どこかの駐車場で下ろされたという。
弁護人「(別れ際に大出さんから)1万円を渡されて、タクシーで帰った」
弁護人は、いずれの殺人事件も否認。最後に裁判員に向けて、「疑わしきは被告人の利益に」と強調するなどして、冒頭陳述を終えた。
続いて、大熊裁判長が今後の裁判の流れなどを説明し、午前の審理を終えた。木嶋被告の表情は終始変わることはなかった。