初公判(2012.1.10)
(1)40代の独身男性、次々手玉に
首都圏の連続殺人事件で練炭自殺に見せかけ男性3人を殺害したとして、殺人などの罪に問われた木嶋佳苗被告(37)に対する裁判員裁判の初公判(大熊一之裁判長)が10日、さいたま地裁で始まった。
婚活サイトを利用し結婚願望の強い男性に近づいて現金を奪ったとされる木嶋被告。料理自慢のしおらしい女性を装い、40代の独身男性を標的にして、結婚をエサに現金をせがんでいたとみられる。
そして、結婚詐欺が発覚して現金返済を迫られると練炭自殺に見せかけ、ためらうことなく殺害…。司法解剖も行わせない遺体もあったほど巧妙に自殺を偽装し、警察も欺く完全犯罪の構図を一度は築いたとされる。一連の事件は大きな注目を集めた。
木嶋被告が問われているのは、3つの殺人事件に加え、詐欺や詐欺未遂、窃盗など計10件の罪に及ぶ。
事件ごとに別々の裁判員が担当する区分審理も認められているが、今回は事件の共通点が多いことなどから一括審理が採られた。
4月13日の判決言い渡しまでは100日間と過去最長。予備日を含め38回の公判が予定されており、裁判員が裁判所に足を運ぶのは8週間にわたり週4日のペースが続き、大きな負担が予想される。
こうした実情から、呼び出し状を送られた249人のうち辞退が認められたのは191人。辞退の率は76%に達した。
日程に加え、死刑求刑の可能性もあり、難しい判断も強いられる。木嶋被告は事件について黙秘を続けており、遺体が司法解剖されていないなど物証に乏しいためだ。
検察側は状況証拠を積み重ね、木嶋被告以外に犯行はあり得ないと立証するとみられるが、弁護側は詐欺の一部は認めるものの殺人や窃盗などに関しては無罪を主張する見通しだ。
裁判長「それでは開廷します」
予定より、5分遅れて開廷した。木嶋被告はブルーのカーディガンに、ベージュのスカート姿。弁護人の横に座っている。
拘置所では、ストレスのためか、三度の食事に加え、菓子なども食べているという木嶋被告。少しふくよかな体形に変わっている。
裁判長「では、被告人前へ」
木嶋被告は、ゆっくりと証言台の前に立つ。
裁判長「名前は」
被告「木嶋佳苗です」
消え入るような声が法廷に響く。続いて大熊裁判長は、生年月日や本籍地、職業などを尋ね、検察官に起訴状の朗読を促した。
木嶋被告が問われている罪は計10に及ぶ。
検察官「多数ありますので、順に読み上げていきます」
検察官は、まず婚活サイトを利用していた○○さんと△△さんの男性2人(法廷では実名)に結婚をちらつかせ、それぞれ130万円と319万円をだまし取った詐欺事件の起訴状を読み上げる。そして「補足」として、木嶋被告と男性のメールのやりとりの要旨を読み上げた。
やりとりからは、木嶋被告が、通ってもいない栄養女子大の学費などが足りないとして、男性に現金をせがんでいた実態が浮かびあがった。そして…。確実に入金を促すためか、肉体関係をちらつかせたやりとりも検察官は読み上げる。
検察官「『いつまでも子どものようなデートばかりをしていても…』」
「『子どもがほしいと思っています。すてきなホテルに連れて行ってほしい』」
生々しいやりとりが紹介された後で、大熊裁判長が詐欺罪についての事実関係を木嶋被告に確認する。
裁判長「どこか間違っていることはありますか」
被告「結婚のことを考えてお付き合いしていたことはうそではありません」
手元の紙に目をやりながら、木嶋被告は、はっきりと答える。
裁判長「弁護人の意見もお伺いします」
弁護人「現金送金を受けたことや電子メールを送ったこと、大学に在籍しておらず授業料が必要とする部分が虚偽で詐欺罪の成立は認めます。しかし、木嶋さんは結婚を真剣に考え、○○さんや△△さんと交際していました」
長い長い裁判が始まった。