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第8回公判(2010.9.17)

 

2 「自らの欲望の充足のため」ドラッグセックス厳しく指弾

押尾被告

 死亡した飲食店従業員、田中香織さん(被害者)の容体の推移の時間的経過は時計を見て確認したといった裏付けのあるものではなく、押尾被告の感覚によるものである。

 押尾被告は平成21年8月2日午後6時32分に知人のAに電話をかけたのを皮切りに、同日午後6時47分まで立て続けに知人や友人に8本の電話をかけるなどし、同日午後6時35分のAとの電話では、被害者の容体を「シャワーを浴び、出たら女が意識がなくて倒れた」などと話した。

 同日午後6時59分の△△(押尾被告の元マネジャー)との電話では、「部屋で友人が死んでいる」などと話した。

 そのころ押尾被告は被害者に心臓マッサージを施しており、その時点では被害者は死亡直前か、すでに死亡していた。被害者の肋骨(ろっこつ)に心臓マッサージによると考えていい骨折があり、出血が軽微であったからである。

 そうすると、押尾被告は8月2日午後6時32分に電話をかけ始め、午後6時35分の電話で被害者が意識を失ったことを知人に伝えているので、同日午後6時半ごろには被害者が意識障害に陥り、そのころから押尾被告が心臓マッサージを始めたころまでの間には心肺停止状態に至ったと認めるのが相当である。

 本件捜査段階では、被害者が錯乱状態に陥り始めたときから心肺停止状態に至るまでの時間は、30分程度だったと(押尾被告が)供述していることなどを総合すると、被害者が錯乱状態に陥ってから、心室細動、頻拍の状態に至るまでは、少なくとも30分はあったと認めるのが相当である。

 以上の事実を前提に検討すると、錯乱状態に陥った被害者が、保護責任者遺棄(致死)罪でいう、生存に必要な保護を要する「病者」に該当したことは明らかである。被害者の錯乱状態は、合成麻薬MDMAという違法薬物の摂取によって出たものであり、その状態が生命に危機をもたらす恐れのある状態であることはみやすい道理で、故意に欠けるところはないというべきである。

 被害者はMDMAの服用による急性中毒症状で「病者」に該当するに至り、被害者が服用したMDMAは押尾被告が譲り渡したものであること、押尾被告と被害者はともにMDMAを服用して性交に及んでいること、当時、23階の部屋は密室状態で、押尾被告以外に生存に必要な保護を加えられる者はおらず、119番をして救急車を呼ぶことは押尾被告にとって極めて容易であったことから、押尾被告には被害者を保護すべき責任があったことは明らかである。

 押尾被告がそのころ119番通報をした場合、通報から医療行為に及ぶまでに要する時間は、10数分程度と認められる。その場合の救命可能性は一定程度あったことは、医師らも認めている。

 そうすると、押尾被告には被害者の生存に必要な保護をすべき責任があり、119番通報していれば被害者を救命できる可能性があったのに、そのような行為に及ばなかったのだから、押尾被告に保護責任者遺棄罪が成立することは明らかである。

 保護責任者遺棄致死罪が成立するには、犯人が生存に必要な保護に及べば、救命が確実であったことが合理的な疑いを入れない程度に立証されることが必要である。

 被害者の救命可能性の程度については、専門家である医師の間でも見解が分かれている。結局、被害者が錯乱状態に陥ってから数分が経過した時点で押尾被告がただちに119番通報したとして、救命が確実であったことが合理的な疑いをいれない程度に立証されているとは、いえないということになる。従って、保護責任者遺棄致死罪の成立は認められない。

【量刑の理由】

 本件は、押尾被告はMDMAを知人から譲り受け、これを別の知人女性に譲り渡し、合成麻薬TFMPPを所持したという麻薬取締法違反と、押尾被告とMDMAを服用した被害者が、重篤な急性麻薬中毒症状を発現したにもかかわらず、生存のために必要な保護をしなかったという保護責任者遺棄の事案である。

 押尾被告はMDMAを共に服用して女性と性交をすることを繰り返していた。押尾被告の一連の行為は自らの欲望の充足のためには、法規範の無視もいとわないというものであり、誠に身勝手で悪質な犯行である。TFMPPの所持の所持も、同様に悪質である。

 押尾被告は入手したMDMAをともに服用した被害者が重篤な急性MDMA中毒症状を発現させ、生命に危険な状態を生じさせたにもかかわらず、自らの麻薬使用発覚を恐れて119番通報せず、生存に必要な保護をしなかった。押尾被告は芸能人としての地位や仕事、自らの家庭を失いたくないという自己保身のため、自らに責任がある必要な保護をしなかったというに尽きるのであって、酌量の余地はみじんもない。

 押尾被告は過去にも同様にMDMAをともに服用した女性と性交したところ、相手が変調をきたしたことを目の当たりにし、自らも変調をきたした経験を持っており、MDMAが人の生命、身体に重大な影響を及ぼす危険性があることを十分に認識していながら、安易にMDMAの服用を続けた。

 その意味で上記状況(田中さんが死亡した事件)は起こるべきして起こったものであり、この点でも強い社会的非難を免れがたい。押尾被告には被害者の死亡について致死罪の責任を問うことはできないというのが裁判所の判断ではあるが、押尾被告が速やかに119番通報を行っていれば、被害者の救命可能性は相応にあって、対象者が死亡しなかった事案とは犯情を異にするというべきである。

 被害者の両親が「押尾被告が119番通報してさえくれていれば娘を失わずに済んだのでは」との思いから、押尾被告に厳罰を求めているのも心情として理解できる。にもかかわらず、押尾被告は遺族らに何らの慰謝の措置を講じていないどころか、田中さんへのMDMA譲り渡しを否認した上、押尾被告に保護責任がないと主張するなどしており、真摯(しんし)な反省の情は皆無である。

 加えて押尾被告は各種罪証隠滅行為に及んでおり、そのために事件発見が困難になったという面も否定できず、犯行後の情状は甚だ不良である。

 このように押尾被告の刑事責任は重いと言わざるを得ないが、被害者が自らMDMAを服用する遺憾な面があったことは否定できないこと、すでに約9カ月間身柄を拘束されて芸能生活を休止する社会的制裁を受けていることなど、押尾被告のために考慮すべき事情もある。

 この事情を十分考慮しても、保護責任者遺棄の悪質性にかんがみると、刑の執行を猶予すべき事案であるとはいえず、主文の通り実刑を科するのが相当である。

⇒裁判員会見 1