第8回公判(2010.9.17)
(2)「信用ならない」…被告の主張を次々と否定する裁判長
合成麻薬MDMAを一緒に飲んで容体が急変した飲食店従業員、田中香織さん=当時(30)=を放置し死亡させたとして、保護責任者遺棄致死罪などに問われた元俳優、押尾学被告(32)に対し、山口裕之裁判長が判決理由を読み上げている。押尾被告は背筋を伸ばし、裁判長の方をじっと見つめ聞いている。
裁判長「平成22年1月25日付の追起訴状に記載の公訴事実第1(保護責任者遺棄致死罪)については、保護責任者遺棄罪の限りで認定した」
最大の争点だった田中さんの救命可能性ついて、判決は認めなかった。
山口裁判長はまず、21年7月31日、押尾被告が六本木ヒルズで泉田勇介受刑者(32)=麻薬取締法違反罪で有罪確定=からMDMAの錠剤、約10錠を譲り受けたとされる麻薬取締法違反の事実について説明を始めた。
押尾被告は泉田受刑者から違法薬物を受け取ったことは認めているが、錠剤ではなく粉末だと主張していた。
この点について、泉田受刑者は譲り渡したのは錠剤10錠であったと明快に供述し、田中さんが服用して死亡したMDMAは、自分が押尾被告に渡したものだと説明している。山口裁判長は、泉田受刑者の供述については、薬物の入手先を明かさないなどの状況があり、信用性は慎重に判断しなければならないと前置きした上でこう指摘した。
裁判長「泉田は、押尾被告へのMDMAの譲渡で有罪になれば、実刑必至の中でこのような供述に及んだのであり、あえて自分に不利益な虚偽の供述をすることは考えにくい」
一方で、押尾被告の供述が信用できない理由を述べていった。
裁判長「被告は、田中さんとMDMAを服用し田中さんが死亡した後も、自分の犯跡を隠すために泉田に薬物の処分を依頼し、元マネジャーの△△さん(法廷では実名)らと口裏合わせに及び、その後捜査機関からの事情聴取の際も田中さんの死亡時刻に関し、弁護人から別罪の成立を示唆されると虚偽の供述をするなどしている。自己に有利な供述の信用性には、相当に疑問があると言わざるを得ない」
山口裁判長は淡々とした口調で、押尾被告の供述が信用ならないと切り捨てた。
続いて山口裁判長は、押尾被告が21年8月2日に泉田受刑者から空カプセルを買ってきてもらっており、押尾被告が譲り受けた薬物が粉末であったことに適合すると主張している点に言及した。
山口裁判長は、泉田受刑者が錠剤は強く押せばつぶれるものだったと供述していることや、押尾被告のドラッグセックスの相手で公判で証言に立ったKさんが、以前に違法薬物を飲んだ際にも押尾被告がナイフで錠剤をつぶしていたと供述していることを指摘した。
裁判長「被告が泉田から譲り渡された物を被害者(田中さん)に譲り渡し、被害者がこれを服用したことが認められ、被害者の体内からMDMAが検出されている事実からも優に認められる」
山口裁判長は、事件当日に押尾被告と田中さんが服用したMDMAは、押尾被告が用意したものだと認定した。「田中さんが持参した」という押尾被告の主張は切り崩された格好だ。
次に山口裁判長は、Kさんとともに、押尾被告のドラッグセックスの相手で、法廷で証言に立ったEさんとの関係について言及した。
裁判長「押尾被告は、2人に違法薬物を飲ませたことがあるという点について否認しているが、2人が自己の名誉を損なってまで虚偽の供述をするべき事情は見いだし難い」
またもや押尾被告の主張は否定された。
裁判員は朗読に聞き入る押尾被告を見つめている。
続いて山口裁判長は、押尾被告が泉田受刑者や田中さんに送信したメールについて説明を始めた。