第5回公判(2010.9.10)
(12)「ふざけんじゃない」「その医者連れてこいよ」 検事の追及に猛烈な逆切れ
飲食店従業員、田中香織さん=当時(30)=に対する保護責任者遺棄致死などの罪に問われている元俳優、押尾学被告(32)の裁判員裁判第5回公判が続く。押尾被告の取り調べを行った男性検事が証人として出廷し、取り調べ状況の証言をしていく。
検察官「追及的な取り調べはいつから始めたのですか」
証人「(今年)1月18日の午後くらいからです。彼の言い分を聞き終えたので、それから疑問点をぶつけ始めました」
検察官「被告が一番反応したのはどんなことでしたか」
証人「死亡時刻です。墨東病院の先生にも話を聞いたのですが、(押尾被告に)『君が言っているのはおかしいんじゃないの』と言うと、押尾君がものすごい切れたというか『ふざけんじゃない』みたいな、『その医者連れてこいよ』と切れたのは覚えています」
検察官「検察官があらかじめ、ストーリーを作って誘導したといわれているのですが、そんな調べはしたのですか」
証人「一切していません」
証人ははっきりとした口調で答えた。
検察官「1月18日以前に録取した供述調書は、何の誘導も加えていない、(被告が)言いっぱなしとなっているわけですね」
証人「はい」
1月18日以降、追及的な取り調べを始めた検察官に対し、押尾被告は苦情の申し入れを始めたという。
証人「1月20日ごろだったと思いますが、連日、書面や口頭で苦情の申し入れを受けました。私が侮辱的な発言をしたとか、不適切な発言をしたとかです」
検察官「1月18日以前は苦情はありませんでしたか」
証人「ありません」
押尾被告は、手元の資料をじっくりと眺めている。
当時、弁護人から被疑者ノートを差し入れられた押尾被告は、取り調べ状況をノートにつけていたという。検察官が不適切と苦情を受けた取り調べについて尋問していく。
検察官「(あたなは)『自分も検事じゃなかったら、MDMAをやりたい』と言いましたか?」
証人「そう取られかねないニュアンスのことは言いました。押尾君に(MDMAの)薬効を聞いたら、『検事さんもやればどうですか』といわれたので、『検事だからできるわけないだろう』と言いました」
苦情の中には、当時の妻で女優、矢田亜希子さんに関するものもあったという。
検察官「興味本位で彼の私生活を聞いたり、事件と直接関係のないことを聞いたというのが苦情でありましたが?」
証人「雑談で、彼が奥さんのことを話したことはあったけれども自分でせんさくはしていません」
検察官「奥さんとの性交渉について聞きましたか」
証人「ドラッグセックスをしたことがあるのか、とは聞きましたがそれ以上はありません。薬物事犯はパートナーもやっていることがあるので、当たり前のことを聞いただけです」
検察官「押尾被告に対して、このままだと刑務所に行くというようなことは言いましたか」
証人「彼は、追及すると『弁護士さんにそう言われたから』とすぐ逃げるんですが、でも弁護士のアドバイスを受けてその結果、リスクが生じて実刑になった場合、刑務所に行くのは弁護士じゃなくて君だよ、とだから逃げないで答えるように言いました」
検察官は取り調べの時間が適切だったかについて詳しく尋ね、質問を終えた。男性弁護人が立ち上がり、質問を始めた。
弁護人「昨年の8月27日と28日に押尾さんから任意聴取しましたね」
証人「はい。調書の形にはしていませんが」
弁護人「(墨東病院の)先生からの聴取もやられていますね」
証人「はい」
押尾被告は、ボールペンを手に肩ひじをつき、手にもった資料を見ている。
弁護人「8月27、28日の参考人聴取では、死亡時刻が午後7時40分ごろと聞いたわけですか」
証人「はい」
弁護人「あなたはその時、(その死亡時刻に対して)評価を持っていましたか」
証人「いや、まったく持っていません」
弁護人「(押尾被告が)保護責任者遺棄致死で逮捕された、そのときの容疑事実の内容が、田中さんの容体についてどういう内容か覚えていますか」
証人「今はまったく覚えていません」
弁護人は手元にある資料を読み上げ始めた。被疑事実では、田中さんが『錯乱状態に陥った』と記されているという。
弁護人「あなたが弁解録取書を取ったときに、押尾さんが『錯乱状態に陥っていない』と否認したのを覚えていないのですか。(長々と田中さんの様子を書かずに)『錯乱状態を否認した』だけでいいんじゃないですか」
証人「私の前で押尾君が否認したんじゃないかというのは覚えていないですが、私は彼から聞いたことは一通り、弁録に落としているんですよ」
証人は、弁護人の質問の意図を図りかねているようだ。やり取りがかみ合わず、山口裕之裁判長が割って入った。
裁判長「弁護人が聞いているのは、(錯乱状態を否認したと言っているのだから)細かい話を聞くのがおかしいという議論じゃないですか」
弁護人「そういう調書を取ったときに『細かい事実を積み上げると錯乱状態になるんだよ』と聞いたのですか」
証人「記憶にないんですが、ありません」
弁護人「『エクソシスト』と『呪怨』のことについて聞きます」
冒頭陳述で、検察は田中さんが容体を急変した状態を映画のタイトルになぞらえ、白目をむき出しにした様子を「エクソシストの状態」、無表情でにらみつけ、うなり声をあげる状態を「呪怨の状態」と表現していた。
8月27、28日のときには「エクソシスト」が、1月5日の調書では「エクソシスト」に加え、「呪怨」という言葉が加わったという。
弁護人「エクソシストと呪怨について供述調書を取ろうとしましたか」
証人「はい。私も映像を見たのですが、彼が言っていたような、女の子の白目をむくシーンが(エクソシストには)いっぱいあるんですが、どこを特定するのかと。1カ所だけ似ているのがあったので、(被告から)『強いて言えば似ていますね』と言われたので、供述調書にしようとしたら、結局、署名を拒否されました」
なおも、エクソシストと呪怨の話を続けようとする弁護人に対し、山口裁判長がまたも割って入った。
裁判長「エクソシストも呪怨も、証拠になっていないので、あまり意味のある話ではないのでは」