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第5回公判(2010.9.10)

 

(1)「もっとしっかりしろ!」と怒鳴る被害者 ハングルのような言葉で文句も 医師はMDMAの症状と証言

押尾被告

 合成麻薬MDMAを一緒に飲んで容体が急変した飲食店従業員、田中香織さん=当時(30)=を放置し死亡させたとして、保護責任者遺棄致死など4つの罪に問われた元俳優、押尾学被告(32)の裁判員裁判の第5回公判が10日、東京地裁(山口裕之裁判長)で始まった。救命救急医療の専門医らが、争点となっている田中さんの救命可能性について証言する予定で、裁判は山場を迎える。

 また、この日は田中さんの両親も出廷。田中さんの母親は裁判前、「救急車で病院に運ばれて助からなかったとしたら納得もいく。なぜ放置したのか」と訴えていた。今回の裁判員裁判は娘を失った親の思いに答えるものになるのだろうか。

 母親は「ただ本当のことを言ってほしい。娘は亡くなり、何も言えないわけだから…」とも語っており、被告への思いをどのようにぶつけるのか。裁判員6人はどう受け止めるのかも注目される。

 まずは、検察側証人として専門医が証言台に立つ。検察側は、MDMAを飲んだ田中さんが、意味不明の言葉を発したり、歯を食いしばってうなり声をあげたりする異変を起こしたと主張。専門医は、こうした状況下で、田中さんの救命の余地があったかどうかについて証言する見通し。専門性の高い立証内容を医師はどう伝え、裁判員はどのような判断を下すのか。

 法廷はこれまでに引き続いて東京地裁最大の104号。午前10時3分、山口裁判長が声を発した。

裁判長「それでは入廷を」

 この指示で長身の押尾被告が向かって左側の扉から入ってきた。前回までと同じ黒いスーツに白のシャツ。青いネクタイを締め、長い髪はえり足がカールしている。弁護人の隣に座ると、続いて裁判員の男女6人が入廷した。

裁判長「それでは開廷します」

 10時5分、山口裁判長が開廷を告げた。ここで男性検察官が「進行の予定について意見があります」と裁判長に発言の許可を求めた。

検察官「今日の証人の証言は若干、専門的な説明になります。場合によっては時間のご配慮をお願いします」

 専門的な立証内容を裁判員に分かりやすく伝えるために時間がかかる場合があるということだろう。

裁判長「結構です。それでは、入ってもらってください」

 白髪混じりの髪にめがねをかけ、濃紺のスーツ姿の中年男性が証言台の前に進み出た。山口裁判長の指示で「証言にうそ偽りがないことを誓う」と落ち着いた声で宣誓を行う。男性検察官が質問に立った。

検察官「それでは、証人の経歴から質問します。昭和大学医学部教授で、救急医学講座主任でいらっしゃいますね」

証人「はい」

検察官「どういうお仕事を?」

証人「研究、診療、医学部生への教育の3つです」

検察官「現場で診療には携わっていらっしゃらないんですか」

証人「(大学病院の)救急医療センター長もしており、大学病院で朝の回診もします」

検察官「被害者が急性薬物中毒で亡くなったことは、鑑定書などをお読みになり、ご存じですね」

証人「はい」

検察官「では資料を示します」

 ここで田中さんがMDMAを飲み、死亡に至るまでの症状の変化を書いた資料が、法廷に設置された大型モニターに映し出される。「午後6時20分、突然、目を開いたまま、ベッドに倒れる」などの症状が時系列に従って書き込まれている。

検察官「症状変化についてうかがいたいと思います。(提示した資料には)『みけんにしわを寄せてハングル語のような言葉で誰かにブツブツ文句を言う』『掛け金が…』『もっとしっかりしろ!』と怒鳴り始めるとありますが、これはMDMAの症状といえますか」

証人「MDMAの効果の表れと考えられます」

「多い少ないの『多い』に幸福の『幸』と書いて『多幸感』といいますが、多幸感や気分の高揚だとかが期待される薬物が、より強く脳に作用することによって幻覚や妄想などの変動が起きます」

検察官「期待している多幸感を超えて妄想に陥ったということですか」

証人「脳に作用して気分がよくなったり、幸せを感じる作用が、より強く作用して幻覚の症状が出ます。見えないかもしれないものが見えたり、聞こえない声が聞こえたりしてしまいます」

 証人の医師は一言一言、言葉を選びながら答えていく。できるだけ裁判員らにも分かりやすいようにと苦心しているようだ。だが、裁判員らは聞き慣れない医学用語の登場に一様に険しい表情をしながら一心にメモを取っている。傍聴席から見て向かって右から2番目の男性裁判員はみけんにしわを寄せて聞いている。

証人「感情の変化…。感情の『情』に『動く』と書きますが、『情動』の変化が表れています」

検察官「(資料に)『歯をくいしばって、両手を上下する』とありますが、これもMDMAの効果の表れでしょうか」

証人「そのように考えてよろしいかと思います」

検察官「どのような効果でしょうか」

証人「情動の変化。幻覚妄想ということがありますが、『上下に両手を動かす』というのは、意識せずに勝手に動いてしまうものです。『付随運動』といってけいれんなどと同じものです」

 証人の医師は証言台に両手を組んで載せながら言葉を慎重に選び、落ち着いた声で証言を続けている。押尾被告はノートを開いたまま、メモを取ることもなく険しい表情で証言に聞き入っている。

⇒(2)拳振り上げ、白目むく…「普通は異変当初で119番」救急医が証言