第4回公判(2010.9.9)
(2)「アゲちゃんはうなり声をあげるだけで…」 異変に「非常に緊急度高い状態」と救急隊員判断
証人として出廷しているのは、元俳優の押尾学被告(32)と一緒に合成麻薬MDMAを一緒に飲んだ飲食店従業員、田中香織さん=当時(30)=が死亡した東京・六本木のマンションに近い麻布消防署の男性救急隊員。男性は救急車内で心臓マッサージなどの救護措置を行うことができる救急救命士の国家資格を持っているという。女性検察官は、119番通報を受けた後、患者を病院に搬送するまでの一般的な手順について尋ねていった。
検察官「東京都では、傷病者の搬送先の医療機関をどのように分けているのですか」
証人「傷病者の重症度、緊急度によって1次救急、2次救急、3次救急があります」
検察官「3次救急とはどういうものですか」
証人「3次救急は重症度、緊急度が最も高い傷病者を運ぶ病院です」
検察官「具体的にはどんなところですか」
証人「救命救急センターです」
救命救急センターは、重篤な患者に対して高度な医療技術を提供する医療機関のことで、今年7月1日現在で全国に計232施設ある。
検察官「搬送先の医療機関は誰が探すのですか」
証人「総合指令室です」
検察官「2次救急はどういうものですか」
証人「比較的、重症度、緊急度が高くない患者を運ぶ医療機関です」
検察官「具体的にはどんなところですか」
証人「都が2次救急に指定している医療機関です」
検察官「2次救急の場合は、誰が搬送先を探すのですか」
証人「救急隊長です」
検察官「傷病者の容体はどのように判断するのですか」
証人「観察カードというのがあり、それに基づいて判断します」
検察官「観察カードというのは、東京消防庁が作成しているものですか」
証人「はい」
検察官「どのようなカードですか」
証人「呼吸などの項目があり、これが色分けされています」
検察官「患者の意識や呼吸、脈などといった項目があるということですか」
証人「はい」
検察官「どんな色分けがされているのですか」
ここで証人が「今、カードを持ってきていますが…」と申し出た。しかし、女性検察官は「(カードは)証拠(採用)になっていないので、とりあえずいいです」と、質問に答える形で証言するよう求めた。
証人「赤枠に囲まれたものが1個あれば、重症と判断されます。青枠に囲まれたものが2個あれば、これも重症と判断されます。緑の枠に囲まれたものがいくつかあると、総合的に見て重症と判断されます」
続いて女性検察官は、「具体的事例について尋ねます。119番通報を受けて、麻布救急が六本木ヒルズレジデンスに行く場合です」と、事件現場のマンション名を上げて、質問を切り出した。いよいよ、事件当日の救命可能性について言及するようだ。
女性検察官が「証拠番号46番、別紙2の『田中香織の容体悪化について』と題する書面を証人に示したい」と述べると、山口裕之裁判長がこれを許可した。法廷内の大型モニターにも、書面が映し出された。
書面には、「両目を大きく開き、黒目を左右にギョロギョロ動かし、白目をむき出して、映画『エクソシスト』みたいになった」「アゲちゃんの肩をゆすったり、頬を叩いたりしながら『おい、しっかりしろよ』と声をかけたが、『うーっ』とうなり声をあげるだけで会話はしなくなった」といった表現が並ぶ。「アゲちゃん」とは、田中香織さんが勤務先の飲食店で使っていた「アゲハ」という源氏名をもじったものとみられ、どうやら表示されているのは、押尾被告の供述内容をまとめた書面のようだ。
検察官「オレンジのマーカーをひいた部分には、『歯を食いしばり、うなり声をあげ、両手を上下に動かした』と書かれています。これはどういった状態ですか」
証人「不穏状態と言って、非常に緊急度、重症度が高いものです」
検察官「不穏状態とは、どういうことでしょうか」
証人「意味のない行動をすることです」
検察官「さきほどの観察カードでいうと、どの色にあたりますか」
証人「緑の枠の状態です。これだけでは、重症とは判断されません」
検察官「書面で緑のマーカーをひいた部分があります」
検察官は、「エクソシストみたいだった」とする部分を読み上げ、「どういった状態だと思いますか」と尋ねた。
証人「オレンジ(のマーカー部分)よりさらに意識障害が進行しているとみられ、カードでは青枠にあたり、さらに救命救急センターへの搬送の必要性が高まります」
検察官「それは、3次救急になるということでしょうか」
証人「これだけではなりませんが、さきほどの緑の枠に加えて青枠がついたことで、総合的にみて3次救急となります」
さらに検察官が「この女性が裸だった場合、どのようなことを想定しますか」と質問すると、証人ははっきりとした口調で「経験的に薬剤の可能性を疑います」と述べた。「薬剤」とは、違法薬物のことを指すようだ。
検察官「すると、現場にいた押尾にも事情を聴くことになりますか」
証人「はい」
検察官「薬物使用も疑いますか」
証人「もちろん、聴きます」
検察官「MDMA使用を認めた場合、どうなりますか」
証人「麻薬は(観察カードの)赤枠にあたるので、一発で救命救急センター、つまり重症と判断されます」
押尾被告は、証人が答える様子をじっと見つめている。
検察官「六本木ヒルズレジデンスだと、どの救命救急センターに搬送されることになりますか」
証人「一番近いのは、日赤医療センターです」
検察官「搬送中は、どのような措置をとりますか」
証人「呼吸と循環の管理です。具体的には、呼吸が止まれば人工呼吸を、心臓が止まれば心臓マッサージを直ちに行います」
検察官「心肺停止した場合はどうでしょうか」
証人「直ちに人工呼吸と心臓マッサージに着手します」
検察官「センター到着後は、どのようなことをしますか」
証人「傷病者の状態や、隊員がこれまでに行った措置を(医師に)説明します」
検察官「2次救急と3次救急(の医療機関)では、どのような違いがあるのでしょうか」
証人「格段に違います。3次救急には高度な機材があり、救急医療の専門医が必ずいます」
証人は強い口調で述べた。
検察官「医療機関を選定するスピードも、3次救急の方が速いのでしょうか」
証人「早くなります」
ここで検察官は質問を変え、事件後に現場で行われた検証実験について尋ねた。証人はこの検証に立ち会ったという。
検察官「検証では、どのようなことを行いましたか」
証人「(一般の)現場で行う救急活動と同じことを行いました」