(9)「私を殺したのはあなたです」…掲示板で怒り爆発させた被告
加藤智大(ともひろ)被告(27)が書き込んでいたインターネットの掲示板で、「自分はブサイクだ」ということをテーマに、加藤被告の書き込みをまねて書き込む「なりすまし」が現れたことについての質問が続いている。
男性弁護人は法廷内の大型モニターに、加藤被告やなりすましが書き込んだ内容を映し出した。加藤被告は証言台のモニターに映った書き込み内容を見ながら質問に答えていく。
弁護人「これがなりすましの書き込みですか」
加藤被告「はい」
弁護人「どうなりすましたのか説明してもらえますか」
加藤被告「この人はあえて(自分と同じように)『です、ます』調にしているのと、改行を文に入れているのをまねしていることからなりすましといえます」
弁護人「今までにあなたが書いたのに似せて書かれたんですか」
加藤被告「はい」
書き込み記録に記された、誰がどの端末から書き込んだのかなどの情報が判別できる「ユーザーエージェント」という項目や、インターネット上に書き込む際に改行などを行うタグについて加藤被告が詳しく説明する。インターネットへの精通ぶりがうかがわれる。
弁護人「ほかの人たちは(加藤被告の)ニセ者が書いているのに気づいていなかったのですか」
加藤被告「はい」
弁護人「『不細工(ブサイク)でごめんなさい』という書き込みはなりすましですか」
加藤被告「はい、そうです」
弁護人「その次に『うぜえよ。不細工、不細工って。そんなことわかっているから』とあり、それに対して『ごめんなさい。不細工だからしかられるのですね』などとありますが、なりすましがほかの人とやりとりをしているということですか」
加藤被告「はい、そうです」
モニター画面から表示が消え、弁護人は弁護人席に戻り質問を続けた。
弁護人「なりすましの人と荒らしはどういうものがありましたか」
加藤被告「やり方はいろいろありますが、大量に改行を書かれることで掲示板が見づらくされたりしました。正常な人とのやりとりがやりづらくなる行為です」
弁護人は荒らしの手口の1つである、書き込みで改行を繰り返す行為の意味を質問していく。1ページの表示が限られている携帯電話のインターネットでは、改行を繰り返すことにより、何も書かれていない空欄が表示されてしまうのだという。
弁護人は再び大型モニターに掲示板の記録を映し、具体的な荒らしの書き込みを示した。そのとき傍聴人席から「もう少し大きく表示してください」との声が上がった。表示が小さな字で表示されるため、傍聴人席からは非常に見づらい。
弁護人「実際の書き込みで説明してください」
加藤被告「『<br/>』というのがある分だけ改行されるので、記録では4行だけですが実際の掲示板では50行ぐらい改行されてしまいます」
弁護人「それ以降も同じようなのが続きましたか」
加藤被告「はい。続きました」
弁護人「荒らしが続いた後はほかの人の反応はどうでしたか」
加藤被告「ほとんどなくなりました」
弁護人「そういう状態をどう思いましたか」
加藤被告「非常にいやな思いでした。怒りがあったといえます。それまで良好な人間関係を奪われた怒り…」
荒らしに掲示板での正常なやりとりを妨害されたことの怒りを思いだしてか、加藤被告は怒りと言って少し言いよどんだ。弁護人は掲示板で書き込んだ人と、掲示板外で交流したかったのかを質問していく。
弁護人「書き込みをしてきた人と直接連絡をとったりして友人をつくりたいと思いましたか」
加藤被告「いえ、それはないです」
弁護人「『GREE(グリー)での名前教えて』という書き込みがありますが、これはどういう意味でしょうか」
加藤被告「GREEというサイトがあり、個人のページを持つようなサイトなんですが、そこに行けばもっとなれ合い的に友達をつくったりできるところなんです。そこでの名前を教えてくれと言われたということです」
弁護人「『お断りします』と書き込んでいますが、なぜ断ったのですか」
加藤被告「別にネットを使って現実でメールをやりとりする友達を求めていたわけではなかったからです」
弁護人は、加藤被告が行った、なりすましや荒らし対策について質問していく。
弁護人「こういったなりすましや荒らしにはどう対応しましたか」
加藤被告「(書き込みをする元になる)スレッド(テーマ)を編集して『なりすましがいる』とか書き込んだりしました」
弁護人「収まりましたか」
加藤被告「収まりませんでした。なりすましに対する我慢の限界に来たので、荒っぽい口調に変えました。なりすましに対して怒っている意志を表示するためです」
弁護人「『何かが壊れました。私を殺したのはあなたです』と書いていますが、これはどういう気持ちですか」
加藤被告「なりすましの人を指して、私は怒りましたという表現を示しました」
弁護人「次は『みんな死んでしまえ』と書いていますね。これは?」
加藤被告「私は怒っているんだということを意図して書きました。なりすましや荒らしを本気で嫌がっていてやめてほしいと思って書きました」
弁護人「スレッドを編集してなりすましがいると書いたことでなりすましは減りましたか」
加藤被告「いえ、減りませんでした」
弁護人「その後、『主? 偽?』とか『主じゃないね。主は書き込みが雑じゃないから』とか書かれています。その次にはこれはあなたの書き込みですかね。『本物は偽物扱い』と書いています。」
「また、ほかの人が『偽は消えろよ』と書いています。この書き込みの意味を説明してくれますか」
加藤被告「私が口調を変えたので、偽物扱いされるのも今考えれば仕方ないんですが、当時は私の書き込みを本物と認識できないのに憤慨している様子が表れています」
弁護人「別の人が『少し見ないうちに何があったんだ?』と書いています。またほかの人が『主どうしたの? ついに狂った?』『なんだこれ? 主はどれだ?』と書いています。この3つの書き込みは?」
加藤被告「口調が変わっても私だとわかる人もいたようだが、一方で偽物がいてわけがわからなくなっている人もいたという様子です」
弁護人「あなたがなりすましに対応するために口調を変えても収まらなかったんですね」
加藤被告「はい」
次に弁護人の質問は荒らしやなりすまし対策として、掲示板の管理人に加藤被告がコンタクトした様子に移る。
弁護人「あなたが直接荒らしに連絡したことはありましたか」
加藤被告「それはありません。私には権利はありません。管理人が唯一あります」
弁護人「具体的にはどう対処するんですか」
加藤被告「荒らしの書き込みをする人を『レス(レスポンス、返信の意味)禁』にしてくれとメールで送りました」
モニターには、荒らしの対処のために加藤被告が管理人に送ったメールの内容が映し出された。