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(8)ネットのなりすまし続発に「人間関係乗っ取られた」と怒り

東京・秋葉原の無差別殺傷事件で殺人罪などに問われた加藤智大(ともひろ)被告(27)の被告人質問が約1時間半の休憩を挟んで再開した。

裁判長「それでは被告が入廷します」

白いワイシャツに黒いスーツ姿の加藤被告が再び東京地裁104号法廷に入った。加藤被告がいつものように傍聴席に一礼し、弁護側の前の長いすに座ると、村山裁判長が再開を告げた。

裁判長「午後の審理を始めます。引き続き被告人質問を行います。被告は前へ」

加藤被告は証言台前の席に着き、午前中に引き続いて男性弁護人が質問を始めた。

弁護人「午前中の話では当初、インターネットの掲示板に牧師をイメージしたキャラクターで『自分がブサイクだ』と書き込んでいたとのことですね」

加藤被告「はい」

加藤被告は午前中の審理で、「世の中のブサイクを幸せに導く教会の牧師をイメージした書き込みをしていた」と証言していた。

弁護人「それが何でもかんでも『自分がブサイクだ』との書き込みに変わっていったとのことですね?」

「実際に自分の見かけをどう考えていたのですか」

加藤被告「いいか、悪いかといわれれば、悪い方と感じていましたが、掲示板の書き込みのようにどうしようもないブサイクと思っていたわけではありません」

加藤被告はややうつむきがちに前を向いて淡々と答えていく。

弁護人「では、書き込みの内容を示したいと思います」

証言台に掲示板の書き込みを印字した資料が置かれ、それが法廷内の大型モニターに映し出される。資料には細かい字でびっしり書き込み内容が記され、傍聴席からは判読できない。

弁護人「この書き込みの意味は?」

加藤被告は弁護人が指し示した個所を読み上げた。

加藤被告「先輩に合コンに誘われました。引き立て役に私が必要だったのでしょう。お金が必要ないとのことで、お酒を飲み、1人が帰ったので、私も帰りました。いまごろ、私のことで盛り上がっているのではないでしょうか」

弁護人「この内容は?」

加藤被告「これもネタです。実際にはやっていないけど、『自虐ネタ』として書き込んだものです」

加藤被告はこれまでの審理で、掲示板の話題を盛り上げるため、本当の話ではないが、自分が「ブサイク」だというイメージに合った話題を書き込んでいたと証言していた。

弁護人が平成20年4月の別の書き込みを示し、被告に読むようにうながした。

加藤被告「ゴールデンウイークに田舎に戻りました。楽しい1人旅です。ラジオだけが友だちです」

「旅行の計画をしているときは幸せな気がします。0泊3日の強行軍です」

弁護人「これは実際の話ですか」

加藤被告「いえ、実際は友人と2人で青森に行きました」

弁護人「なぜ、なかったことをわざわざ書き込んだのですか」

加藤被告「ブサイクキャラでやっていたからです。ブサイクは友だちができないということに合わせて現実に起きたことを書き換えて紹介したということです」

弁護人が別の資料を加藤被告に示した。被告の書き込み部分は黄色い蛍光ペンで線が引かれている。

弁護人「あなたが書いたものですね」

加藤被告「はい」

弁護人「別の人があなたのブサイクの程度を質問したことへの返信ですね。どう書きましたか」

加藤被告「『あなたが想像できるブサイクさ以上のブサイクです』と書きました」

弁護人「なぜこう書いたのですか」

加藤被告「実際に思っているように『ちょっとブサイクです』と書いてもおもしろくない。ネタとしておもしろくするために書いたものです」

弁護人が次々に加藤被告自身の書き込みを示しながら読み上げていく。

弁護人「『1人でカラオケです。5人は入れる部屋です』。これもあなたが書いたものですね」

加藤被告「はい」

弁護人「これもあなたのものですね。『1人で焼き肉を食べてきました。慣れって怖いですね』『フリータイムが終わったので帰宅です。充実した1日でした。1人でなかったらどんなによかったか』…」

「実際はどうだったのですか」

加藤被告「実際は5人で行きました。これも自虐ネタです。ブサイクは友だちができないと書いたので、1人で行ったように書き換えました」

弁護人がまた別の書き込みを示した。

弁護人「これはハンドルネーム(ネット上で使う名前)を書いていませんね。ほかの人からどう見えたと思いますか」

加藤被告「牧師キャラに合わせ、『です、ます』調を使っていたので、ハンドルネームがなくてもほかと区別されるように工夫しました。大勢の『名無し』(ハンドルネームがない書き込み者)とは別の1人の人と認識されていたと思います」

弁護人「しかし、自分がブサイクだとはあなただけが書き込んでいたわけではないですね」

加藤被告「掲示板でよくある話題の1つでした」

弁護人が資料の中から加藤被告が書いたものではない、掲示板の書き込みを示していく。「おれはブサイク。涙が出る」「写メ(携帯電話のカメラ)で自分の顔を撮ったらブサイクが写っていた」…といった書き込みがみられる。

弁護人「これはあなたが書いたものではない?」

加藤被告「はい」

弁護人は「自分はブサイクだ」ということをテーマにした書き込みを次々に示していく。

弁護人「これも違う?」

加藤被告「はい」

弁護人「これも?」

加藤被告「はい」

次々に資料をめくっていた弁護人が額の汗をふき、ふーっと息をはき、別の質問に移った。加藤被告は前を見すえたまま、鼻の下をかいた。

弁護人「掲示板に『荒らしに遭った』とか、『なりすましをされた』と書いていましたね。『なりすまし』とはどういうことですか」

加藤被告「私以外が私になりすまして書き込んでいたということです」

弁護人「それによってどうなりましたか」

加藤被告「自分が掲示板上で存在しなくなる。自分とそれ以外の境界があいまいになりました」

弁護人「それはどういうこと?」

加藤被告「ほかの人から見れば、私が書いたものが私のものととらえられなくなったり、ニセ者が書いたものを私のものととらえられてしまったりしました」

弁護人「それによって掲示板上の人間関係はどうなりましたか」

加藤被告「人間関係を乗っ取られ、奪われたという状態になりました」

弁護人「具体的にいってどういうことですか」

加藤被告「例えば、自分の家に帰ると、自分とそっくりな人がいて自分として生活している。家族もそれに気付かない。そこに私が帰宅して、家族からは私がニセ者と扱われてしまうような状態です」

なりすましに対する怒りを証言する加藤被告。だが、声の調子は平坦(へいたん)なまま、前を見すえて淡々と答えていった。

⇒(9)「私を殺したのはあなたです」…掲示板で怒り爆発させた被告