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(7)リンゼイさんの傷跡「1つ1つがメッセージ」遺族代理人が懸命訴え

英国人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=に対する殺人と強姦(ごうかん)致死、死体遺棄の罪に問われた無職、市橋達也被告(32)の裁判員裁判の論告求刑公判。休廷中、検察官らには笑顔が見えた。論告求刑を終えたことから緊張がほぐれたようだ。リンゼイさんの両親も通訳の女性を交えて談笑している。

午後2時40分、公判が再開した。被害者遺族参加制度に基づく、遺族の代理人弁護士が意見陳述を始めた。法廷両側に設置された大型モニターには、陳述の要点が映し出された。

代理人弁護士「遺族は推移を見守るため、英国から来ました。リンゼイさんは最後にどのような状態だったのか。真相を知るためです。悲しみが、いかほどだったのか知ってもらい、正義に基づいて判決を出してもらうためです」

「被告は初公判で『事件の日に何があったか知っているのはリンゼイさんと私しかいません。これからの裁判で話していくことが私の義務だ』と言っていたが、公判での被告の態度は両親を失望させました。説明は信用できません」

リンゼイさんの父、ウィリアムさんも8日の証人尋問で、市橋被告の態度を「ショーを演じるために(言動を)練り上げている」「証言は計算されつくし、リハーサルされたものだ」などと非難している。

代理人弁護士「(市橋被告の発言は)刑を軽くするための虚偽の証言であり、(検察側の)質問に『もう1度』などと言って、長々と独自の主張を繰り返した」

「(市橋被告は)真相を語ろうとしなかった。時間の引き延ばしは(2年7カ月間にわたって)逃走を続けたことと何ら変わらない。これは被告人の戦略だ」

遺族の代理人弁護士は、身ぶり手ぶりを交え、裁判員に向かって話し続ける。紙を読み上げるため、口調が次第に早くなっていく。

代理人弁護士「被告は罪と正面から向き合うべきです」

代理人弁護士は今回の事件を、逮捕直後から容疑者の自供が得られるケースと比較。市橋被告からの細かな自供はなく、起訴直前で大まかな説明をしたにすぎないと批判した。

代理人弁護士「事件の真相がどこにあったのか。代理人として申し上げる。事件には、11個のポイントがあると考えます」

「1つめは遺体の状況です。リンゼイさんの遺体には痛ましい傷跡があります。これは暴行のすさまじさを表しています。傷跡1つ1つがリンゼイさんのメッセージです」

代理人弁護士は裁判員らに、証拠提出されたリンゼイさんの傷跡が撮影された写真をもう1度見てほしいと呼びかけた。そして、弁護側の主張する「暴行の経緯」について、疑問を呈した。

代理人弁護士「(弁護側の主張は)まったく不合理で、ひどく殴る理由はない。被告の供述はもともと信用していないが、仮に供述を前提としても、『関係を修復したい』としながら、顔を殴る行為はまったく合理的でない」

市橋被告は7日の被告人質問で「リンゼイさんを強姦した後、人間関係を作ったら、許してもらえるんじゃないかと思いました」と証言している。

代理人弁護士「犯行現場の玄関にあった被告とリンゼイさんの靴には、リンゼイさんの血痕が残されています。コートにも残されています。(血痕が付着する)タイミングとして考えられるのはいつでしょうか」

代理人弁護士はこう訴え、リンゼイさんへの殴打が強姦時に行われたとする検察側の主張を支持した。

代理人弁護士は、リンゼイさんを拘束するために使用された結束バンドについても言及。リンゼイさんが身長176センチ、体重63キロで、女性としては大柄だったことを挙げ、「(バンドで拘束するために)どうやって自由を奪ったのか」と述べた。

代理人弁護士「両親は日々の公判終了後、ホテルに帰りミーティングをして、分からなかった点について話し合っています」

「足首を拘束したバンドについても、30センチの結束バンドが輪っかにされていたが、その理由について説明はない。小さな(30センチの)バンド1つで両手首を連結(拘束)することは簡単にできるのでしょうか。協力的であるか、動かない状態でなければできません」

代理人弁護士は、裁判員らに対し、残された物証や市橋被告の供述をもう一度精査するよう、疑問形で言葉を投げ掛ける。

代理人弁護士「(結束バンドがあった)収納棚は床から、高いところにあった。片手でリンゼイさんを押さえて、バンドを取ることは不可能です。リンゼイさんが無抵抗でなければ…。説明が不自然です。さらに前の年に買った結束バンドを急に使うことも不自然です」

「(リンゼイさんの顔を巻いた)粘着テープも、コンドームなどの重要な物証とともに捨てられていました。時間が経過すれば、(ゴミとして出されて)捨てられていた可能性もある。これは(市橋被告が)重要だったと考えていたことにほかならない」

代理人弁護士は室内にあったリンゼイさんの尿斑(尿の跡)にも言及した。

代理人弁護士「尿斑はパンティーやタイツ、スカートなど股間部分に集中してあった。これは服を着たままで失禁して…」

「異議あり」。ここで、市橋被告の弁護人が大声を上げた。弁護側は公判前整理手続きで、尿斑と強姦の関係性について検察側が立証しないと決定したことを挙げ、尿斑についての意見陳述をやめるよう主張した。

弁護側は「検察官、いかがですか」などと挑発。検察官が「証拠に入っているでしょ」などと応じたところで、堀田真哉裁判長が「直接議論しないで」と両者をいさめた。

堀田裁判長は陪席の裁判官らと協議し、「理由がない」として弁護側の主張を退けた。リンゼイさんの母、ジュリアさんが大きくうなずいた。代理人弁護士はこうしたやり取りの後、リンゼイさんがマットレスに寝かされた状態で用を足したと市橋被告が説明している点に触れた上で、次のように続けた。

代理人弁護士「リンゼイさんは事件後、トイレに行きたいと言って(トイレに)行っている。(市橋被告の説明は)極めて不自然で、つじつま合わせだ」

代理人弁護士は「これから遺族が考える事件の真相を説明する」と宣言。意見陳述を続けていく。

⇒(8)「日本の正義を示せ」「最高刑を」遺族の思いを代弁