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(7)「私を殺すつもりね」 抵抗しながらリンゼイさんが発した一言

英国人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=に対する殺人と強姦(ごうかん)致死、死体遺棄の罪に問われた無職、市橋達也被告(32)の裁判員裁判の第3回公判。約15分間の休廷を挟み、傍聴席から見て左側の扉から市橋被告が入廷した。リンゼイさんの両親に目を向けることなく、足早に証言台の前に立ったあと、ずり下がったジーパンを手で腰まで引き上げた。午後2時半から審理が再開した。

男性弁護人は、リンゼイさんが市橋被告の部屋に入ってからの状況を質問した。

弁護人「あなたの部屋にリンゼイさんが入ったあと、あなたはどうしましたか」

市橋被告「入ったあと、私は手を伸ばしてリンゼイさんの後ろから抱きつきました」

リンゼイさんの父親のウィリアムさんは険しい表情をしている。

弁護人「なぜ、抱きついたのですか」

この質問に市橋被告は、しばらく沈黙する。

市橋被告「彼女とハグ(抱き合うことを)したかったからです」

弁護人「場所はどこですか」

市橋被告「玄関です」

弁護人「そのとき、リンゼイさんはどのような反応だったのですか」

市橋被告「リンゼイさんは強く拒絶しました」

弁護人「それでどうしたのですか」

市橋被告「私は誘惑に負けました。…(しばらく黙ったあと)、私はリンゼイさんを廊下に押し倒しました」

リンゼイさんの母、ジュリアさんは、唇をかみしめている。

弁護人「リンゼイさんはもちろん抵抗しましたよね?」

市橋被告「しました」

弁護人「あなたはどういう行為をしましたか」

市橋被告「抵抗するリンゼイさんを押さえつけました」

泣いているのか、市橋被告がはなをすする音が法廷に響く。

弁護人「どういう体勢でリンゼイさんを押さえつけたのですか」

市橋被告「リンゼイさんは廊下にあおむけになり、私はその上にまたがるように乗りました」

弁護人「具体的にはどういうことですか」

市橋被告「リンゼイさんの手足を私が押さえつけるようなかたちです」

弁護人「リンゼイさんの着ている服を破ったりしていますか」

市橋被告「してます」

弁護人「顔面を殴ったり、頸部(けいぶ)を圧迫したりしましたか」

市橋被告「それはしていません」

弁護人「リンゼイさんはどのくらい抵抗しましたか」

市橋被告「数分間、抵抗しました」

傍聴席から見て、右端から2番目の5番の男性裁判員は市橋被告をじっと見つめている。

弁護人「あなたは(抵抗するリンゼイさんに対して)どうしましたか」

市橋被告「手首と足首に、結束バンドをはめました」

弁護人「その後どうしましたか」

市橋被告「リンゼイさんを姦淫(かんいん)しようとしました」

ジュリアさんは目を覆って泣いている。

弁護人「あなたはすぐに姦淫することができましたか」

市橋被告「できませんでした」

市橋被告は、リンゼイさんを乱暴しようと、避妊具の装着を試みたが、うまくいかなかったため、避妊具をそのままゴミ箱に捨てたという。

右から3番目の男性裁判員が首をかしげている。

弁護人「それからどうしましたか」

市橋被告「私はリンゼイさんを姦淫しました」

男性弁護人は質問を変えた。

弁護人「結束バンドは何の目的で持っていたのですか」

市橋被告「私の部屋の配線コード類をまとめて、壁に掛けるために、前年(平成18年)、ホームセンターで買いました」

弁護人「結束バンドはどこにありましたか」

市橋被告「玄関の靴箱の上、壁際にある収納棚にまとめて置いてありました」

男性弁護人は、計画的に結束バンドを準備したわけではなかったと主張したいようだ。

続いて、男性弁護人は法廷内に設置された大型モニターに市橋被告の部屋の見取り図を示して、姦淫した場所の確認をした後、別の男性弁護人に交代した。

弁護人「あなたがしたことは、リンゼイさんの気持ちを踏みにじった強姦行為だと分かっているのですか」

市橋被告「…はい」

弁護人「強姦した後、どのような行動をしましたか」

市橋被告「私は寝室に置いてあった、テンピュール(低反発)のマットレスを廊下に持ってきて、廊下で横になっているリンゼイさんの下に敷きました」

一言一言区切るように話す市橋被告。はなをすする音がますます大きくなった。

弁護人「なんでそんなことをしたのですか」

市橋被告「彼女に申し訳ない気がしたので…」

弁護人「それは冷たい床で横たわっているリンゼイさんをいたわる気持ちからですか」

市橋被告「はい」

ジュリアさんは目を見開いて、「ふん」と鼻で笑うような仕草をした。

弁護人「あなたが脱がしたリンゼイさんの服はどこに置きましたか」

市橋被告「彼女のそばに置きました」

弁護人「布団の上ですか」

市橋被告「そうです」

弁護人の質問に対して市橋被告は、リンゼイさんが失禁した事実を述べた。ジュリアさんは手で顔を覆っている。

弁護人「あなたはどうしましたか」

市橋被告「リンゼイさん(の体)を洗おうと思いました」

弁護人「どこに連れて行こうと思いましたか」

市橋被告「浴室です」

市橋被告は、リンゼイさんを抱きかかえて浴室に連れて行こうとしたが、抵抗されたことを話した。

市橋被告「リンゼイさんを抱きかかえて風呂場に連れて行こうとすると、リンゼイさんは『私を殺すつもりね』と言いました。リンゼイさんが風呂場に行くことを強く拒否したので、連れて行けませんでした」

弁護人「あなたはその後、リンゼイさんをどこに連れて行こうとしましたか」

市橋被告「リンゼイさんを抱きかかえたまま、和室に運びました」

弁護人「その後どうしましたか」

市橋被告「結束バンドを切りました」

弁護人「どうして切ったのですか」

市橋被告「そのときリンゼイさんは裸でした。私のグレーのパーカをリンゼイさんの上半身に着てもらうためです」

弁護人「実際に着せたのですか」

市橋被告「はい」

男性弁護人は、市橋被告がリンゼイさんに着せたというパーカを大型モニターに映し出した。

弁護人「これですね」

市橋被告「はい」

弁護人「その後、あなたは灰色のパーカを着せたまま、リンゼイさんを浴槽に入れたでしょう?」

市橋被告「はい」

弁護人「その後、さらに上に何か掛けたでしょう」

市橋被告「はい」

弁護人「何を掛けましたか」

市橋被告「私が着ていた茶色のジャケットを彼女の上半身に掛けました」

男性弁護人の指示により、大型モニターに茶色のジャケットが映し出される。

弁護人「リンゼイさんの服をそばに置いていたのに、なぜそれを掛けなかったの?」

市橋被告はリンゼイさんが失禁したためだと答えた。男性弁護人は小さくうなずいた。

弁護人「さっき敷いていたマットレスはどうしたの?」

市橋被告「…。外のベランダに掛けました」

弁護人「あなたが逃走したあと、ベランダに掛かっていたマットレスですね」

答えを考えているのか数秒黙ったあとでこくこくとうなずいて答えた。

市橋被告「そのはずです」

弁護人「一度外した結束バンドをその後、どうしましたか」

市橋被告「もう一度、彼女の手首にはめました」

弁護人「リンゼイさんの体はどうしましたか」

市橋被告「黒いパーカとバスタオルを持ってきて掛けました」

市橋被告の口から詳細な犯行状況が赤裸々に語られる中、リンゼイさんの両親はうなだれている。

⇒(8)「痛いから足首の結束バンド外して」 被告は冷たく「できない」