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(1)「隠れていたもの爆発、亜澄さんの挑発で」

東京都渋谷区の短大生、武藤亜澄さん=当時(20)=が殺害、切断された事件で、殺人と死体損壊の罪に問われた次兄の元予備校生、勇貴被告(22)の第4回公判。実妹を殺してバラバラにするという衝撃的な事件の公判は、昨年7月に東京地裁で始まった。しかし、勇貴被告の精神鑑定のため、昨年9月5日を最後に、半年間にわたって中断されていた。

弁護側席には3人が、対する検察側席には2人が座っている。報道機関による廷内撮影が終了すると、午後2時36分、秋葉康弘裁判長が開廷を告げた。

半年ぶりに姿を見せた勇貴被告は、紺色ズボンに白いシャツ姿。その上に紺色のVネックのセーターを着ている。とぼとぼと歩いて入廷すると、角刈りの頭を小さく曲げて着席した。少しやせた印象で、実年齢より幼く見える。

裁判長「それでは、鑑定書と補充説明書を取り調べることにする。裁判所の方で、要旨の告知をしたい」

弁護側が請求した精神鑑定を担当したのは、東京女子大の牛島定信教授(精神医学)だ。牛島教授は、鑑定人尋問のためすでに入廷している。裁判長は、牛島教授が作成した鑑定書の要旨を読み上げ始める。

裁判長「1月4日付け鑑定書による、勇貴被告の犯行時から現在までの精神状態について。主文は、勇貴被告は生来性アスペルガー障害に罹患しており、中学時代から強迫性障害になった。犯行時から現在も、この状態は続いている。さらに、犯行時には解離(かいり)性障害を発症し、現在も続いている」

弁護側はこれまで、勇貴被告は対人関係をうまく築けないなどの症状が現れる「広汎性発達障害」で、犯行時には「心神喪失か、心神耗弱状態だった」と主張している。鑑定書の主文は、こうした見方を強める形になっている。裁判長は、アスペルガー障害についての説明を読み始めた。

裁判長「アスペルガー障害は、目と目で見つめ合ったり身振りをするなどの対人的相互反応の著明な障害だ。発達途中に仲間を作ることの失敗があり、限定された興味に熱中する。習慣や儀式にこだわったり、手をパタパタさせるなどの反復的な動きをする」

裁判長が鑑定書を読み上げる間、勇貴被告は被告人席に背筋を伸ばして座ったまま身動きしない。両手はグーの形に固く握りしめられ、膝の上に置かれている。その両腕は、不自然にピンと突っ張っている。

裁判長「続いて2月21日付けの補充書面を読み上げる」

補充書面では、強迫性障害と解離性障害についての説明が書かれている。

裁判長「強迫性障害とは強迫が次々と浮かんでくる状態。手を洗っても細菌が付いているという考えに圧倒され、生活に支障をきたす。背後には、完全主義や規則にこだわる性格があるとみられる」

「次に解離性障害についてだが、一般的に意識障害は脳の意識混濁(こんだく)と心因性の意識狭窄(きょうさく)がある。解離性障害は後者である」

被告人席の勇貴被告は、ずっと目を閉じたままだ。裁判長は再び、鑑定書の本文に戻って、読み上げを始める。

裁判長「小学校低学年までは周囲と適応できていたが、青年期になって社会性のなさが出てきた。犯行時には社会から分離された状態にあった。学校の成績は落ち、自分の世界に没頭する。4度目の大学受験を控えても、プレッシャーを感じることなく、被害者の亜澄さんとの間でも、関係がうまく築けなかった」

「亜澄さんが挑発的態度を取ると、人格内部に隠れていたある部分が爆発した。しかし、本人に(隠れていた部分の)認識はなく、事件現場の記憶はよみがえらないままである」

勇貴被告に表情はなく、裁判長の言葉を聞いているのか、いないのか判断がつかない。静かな法廷には、裁判長の声だけが響いている。

⇒(2)トラブル続きの亜澄さんも「反抗挑戦性障害」