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(4)「憎しみの感情爆発、動機は理解可能」

【精神鑑定は不当だ】

 本件で実施された精神鑑定は、「歌織被告は各犯行当時、短期精神病性障害による情動および朦朧(もうろう)状態などであり、責任能力が欠けていた、あるいはその疑いがある」としています。

 鑑定は、歌織被告が鑑定の問診時に供述した異常な精神状態をもとにして、その結論を導き出しています。しかし、歌織被告の犯行の動機と犯行当時の精神状態は、普通の人が十分に了解可能であり、刑事責任能力に影響を及ぼすような異常性は認められません。ですから、歌織被告が問診で供述したような異常な精神状態は、歌織被告が犯行当時、実際に経験したものとはおよそ認められないのです。

 また、歌織被告のこのような供述は当初、被告人質問などには一切出てきておらず、鑑定人の問診時に突如として出てきたものであって、その供述の経過も極めて不自然なのです。従って、問診時の供述は信用性が極めて低いといわざるを得ません。しかも、問診時における供述から、直ちに鑑定の指摘するような精神症状を認定し、歌織被告を責任無能力と判断することも誤りなのです。

 以下、本件鑑定の概要を説明した上、問題点を詳細に述べ、鑑定が不当であることを明らかにします。

●1 鑑定の概要

(1) 鑑定の主文および理由

 歌織被告の犯行時の精神状態については、公判段階において、鑑定人2人による鑑定が行われ、両鑑定人とも「被告人が短期精神病性障害であった」と結論を同じくしています。

 鑑定の概要は以下のとおりです。

▼▼▼ 鑑定主文

 歌織被告は犯行時、短期精神病性障害に罹患(りかん)していた。

▼▼▼ 鑑定理由の本旨

 歌織被告には、祐輔さんを殺害する遅くとも数時間前から、情動、朦朧状態、幻覚や多幸感などの気分症状などが次々と生じ、殺人時には情動的な衝動性と朦朧状態にあった。また、遺体損壊および遺体遺棄時には、幻覚や多幸感などの気分症状の状態にあった。

 このような精神症状は犯行後、逮捕されるまで続いたが、逮捕後速やかに消失した。

(2) 鑑定の基盤・構成

 鑑定は、歌織被告に犯行時、幻覚や意識障害などの精神症状が認められたため、歌織被告が短期精神病性障害に罹患しており、心神喪失の状態であったと結論づけています。

 つまり、鑑定の結論を導く上で、最も重要でかつ基盤となったのは、歌織被告に犯行当時、幻覚や意識障害などの精神障害があったと認定したことなのです。この認定がなければ、歌織被告の精神状態として短期精神病性障害や心神喪失は認められなかったのです。

 そして、鑑定がこれらの精神症状を認定する基礎としたのは、問診時における歌織被告の精神状態に関する供述のみです。

 鑑定では、脳波やMRIなどの客観的な検査によって、歌織被告に精神障害を生じさせる原因となるような器質的な病態なども発見されませんでした。だから、この鑑定は、問診時の歌織被告の供述のみに依拠して精神症状を認定し、かつ短期精神病性障害であったと結論づけていることは明らかです。

●2 鑑定の問題点

(1) 鑑定が認定した歌織被告の精神症状は、動機や犯行態様などから認められる被告の精神状態と矛盾していること

 鑑定は、問診時における歌織被告の精神状態に関する供述に基づき、「歌織被告には犯行時およびその前後において情動、幻覚、朦朧状態、多幸感などの意識障害など、短期精神病性障害の発現とみられる各種の精神症状が認められ、現実感が混乱あるいは喪失し、夢を見ているような状態であったため、合理的な判断ができず、かつ行動を抑制することもできなかった」としています。

 しかしながら、動機や犯行の手段・態様、および犯行前後の行動状況には精神障害を疑わせる異常がまったくみられず、その行動は極めて合理的かつ目的にかなったものであり、犯行当時の精神状態は、普通の人において十分に理解可能なものであったと認められます。

 よって本件鑑定は、この証拠により認められる歌織被告の犯行当時の精神状態と明らかに矛盾しており、不当というほかありません。

 以下、鑑定が指摘する精神症状のうち、主要なものにつき個別に検討することにします。

(ア) 鑑定は、「殺人時に歌織被告は情動および幻覚を併発した朦朧状態にあり、非常に混乱し、かつ現実感のない夢を見ているような状態であったため、判断能力を十分に発揮する余裕がなく、行動を制御する能力もほぼなかった」としています。

 しかしながら、関係証拠によれば、歌織被告は被害者に対する憎しみの感情を爆発させて、その殺害を決意しました。この動機は普通の人において十分了解可能です。この意思決定の課程には、精神障害を疑わせる異常や飛躍はまったく見当たりません。歌織被告の精神状態が、現実感のない夢を見ているような状態であったということは考えられません。

 また、歌織被告は祐輔さん殺害にあたり、ワインボトルで頭部を殴打するという合理的な道具と手段を選択し、高い運動能力を保ったまま意識清明の状態の中で、祐輔さん殺害に向けた合理的で目的にかなった判断に基づいて、状況に応じた行動を取っていたのは明らかです。

 従って、歌織被告の精神状態が非常に混乱し、現実感のない夢を見ているような状態であったとは、到底考えられません。

(イ) 次に、鑑定は歌織被告が遺体損壊・遺棄時、幻臭や脅迫症、多幸感の気分症状、さらには祐輔さんの幻聴との対話をする状態にあり、現実感がなく、夢の中にいるかのような状態であって、行動を制御する能力がほぼなかったとしています。

 しかしながら、関係証拠によれば、歌織被告が極めて清明な意識下で、祐輔さん殺害の違法性を十分認識しつつ、周囲の状況を的確に把握した上で、遺体の投棄および自分の犯行の発覚防止に向けて、極めて合理的で目的にかなった判断をして、その判断に従って行動していたことが明らかです。このような歌織被告の精神状態に、精神障害を疑わせるような異常は認められません。

 さらに、歌織被告はさまざまな証拠隠滅工作を行ったほか、祐輔さんを殺害した翌日には、自分の父親と会い、一緒になって自分が住むマンションを探すなどしていました。このような被告人の精神状態が、現実感のない夢を見ているような状態であったというのは到底あり得ないのです。

(2) 問診時における歌織被告の精神状態に関する供述は、その供述経過が極めて不自然であり、その信用性に多大な疑問があること

 歌織被告は鑑定の問診時に、犯行当時、異常な精神状態であったことを供述しています。それまでは誰にもこのような供述をしていなかったのに、突如として問診時にこのような供述をするに至ったのです。

 また、その問診時においても、当初は異常な精神状態に関する話をしていなかったにもかかわらず、鑑定人による誘導的な質問に呼応する形で、まずは断片的に供述し、日に日に幻覚などの精神状態の話を具体的な内容に作り上げていったのです。その供述経過は極めて不自然であり、その信用性に多大な疑問を抱かざるをえません。

 歌織被告の生育過程で、被告が幻覚や意識障害を生じさせたという状況は一切認められません。また、犯行前後においても、歌織被告が幻覚などを生じさせているような異常な言動をしていたのを見聞きした人や、被告自身から異常な精神状態を体験したと聞かされた人はいませんでした。

 そして、被告は捜査段階から選任していた自分の弁護人に対してさえ、幻覚や意識障害などの精神状態に関する話を語っていませんでした。

⇒論告要旨(5)「かつてのDV、過度に考慮すべきでない」