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(3)「幻覚・幻聴は不自然」 精神鑑定にも“ダメ出し”

女性検察官の論告読み上げは、歌織被告の遺体損壊・遺棄時の態様がいかに合理的であったかという点に的を絞り、さらに続いた。精神鑑定の結果と犯行態様がいかにかけ離れたものかを、これでもかと強調する。

検察官「被告は下半身をビニール袋から出していますが、発見されることを覚悟していたので、不合理というわけではありません。また、被告の供述を前提にすれば、自分の裸の写真が紛れている可能性があったため、ビニール袋から出して遺棄したということですから、これも目的に沿った行動といえるのです。左腕と右手も自宅とは別のゴミ捨て場に捨てているのですから、精神障害を疑わせる事情は一切ありません」

ここで、検察官の後方にあるスクリーンには、大きく『証拠隠滅工作』という文字が映し出された。女性検察官は、歌織被告が祐輔さん殺害後に祐輔さんの父親にメールを送ったり、祐輔さんの血がついた可能性があるのこぎりや布団を実家に送ったり、自宅の壁を張り替えたことなどを順を追って指摘した。

検察官「そもそも、証拠隠滅工作というのは、犯行が違法であることを認識している人間が行うものであって、精神障害による異常さは感じられません。歌織被告に、完全な責任能力があったことは明白です」

歌織被告はここで、左手を前髪に当てて目を閉じた。検察官はさらに、精神鑑定がいかに不当であったかについて読み上げを始めた。

検察官「鑑定は問診時に歌織被告が供述した異常な精神状態をもとにして結論を導き出していますが、(それまでの)歌織被告の動機や精神状態は普通の人には十分理解可能で、異常性は認められません。供述が実際に(歌織被告が)経験したものとは認められないのです。被告の供述は被告人質問などには一切出てきておらず、鑑定人の問診時に突如出てきたものであって、信用性はきわめて低いといわざるを得ません」

検察官は冷静に、鑑定の概要について、鑑定主文や鑑定理由の要旨を詳細に述べていく。歌織被告が犯行当時、幻覚や意識障害があり、短期精神病性障害に罹患していたという内容だ。

検察官「鑑定人が結論を導く上で基盤となったのは、犯行時に被告に幻覚や意識障害などの精神症状があったと認定したことにあります。鑑定は問診時の被告の供述のみに依拠して、短期精神病性障害だったと結論づけていることは明らかです」

「この鑑定が認定した被告の精神状態は、動機や犯行態様から認められる精神状態と矛盾しています」

歌織被告はここで、ひざに置いたメモ帳に緑色のペンで何かを書き始めた。検察官の言葉を急いで書き留めているようで、顔が頻繁に左右に動く。検察官はそんな歌織被告を気にも留めず、精神鑑定の信用性について切り込んでいく。

検察官「鑑定は、被告が犯行時とその前後に幻覚や朦朧(もうろう)状態などにあり、現実感が喪失し、夢を見ているような状態だったため合理的な判断ができず、行動が抑制できなかったとしています。しかし、犯行の手段や行動は合理的で目的にかなったもので、鑑定は証拠で認められる被告の精神状態と明らかに矛盾しており、不当です」

「証拠によれば、被告はワインボトルで頭を殴打するという高い運動能力を保った意識もはっきりした状態で、状況に応じた行動を取っています。被告の精神状態が混乱し、現実感のない夢を見ているような状態であったとは考えられません」

検察官の論告は、犯行後の歌織被告の精神状態についても、鑑定結果が疑わしいと指摘していく。

検察官「鑑定は、遺体損壊・遺棄時に幻嗅や幻聴の状態にあったというが、被告はさまざまな証拠隠滅工作を行ったほか、殺害翌日には父親と一緒に自分が住むためのマンションを探しています。現実感のない夢を見ているような状態であったというのは到底ありえません」

検察官のマイクに、書類をめくる音が入る。突然の雑音に驚いたのか、歌織被告が一瞬だけ顔を上げた。

検察官「被告は鑑定の問診時に異常な精神状態だったと供述していますが、それまでは誰にもこんな供述をしていませんでした。鑑定人による誘導的な質問に答える形で幻覚などの話を作り上げていったのです。その経過は不自然で、信用性には多大な疑問を抱かざるを得ません」

「証拠では、犯行前後に被告が幻覚などを生じているような異常な言動を見聞きした人はいません。捜査段階から選任していた弁護人に対しても、幻覚や意識障害などの話を語っていなかったのです。さらに、被告人質問でも幻覚や意識障害などの供述をしておらず、被害者の頭をねらってワインボトルを振り下ろしたことなどを認めていました」

検察官の論告が被告人質問での様子に及ぶと、歌織被告は苛立ったように顔を上げ、前髪をかき上げると、挑戦的に検察官を見つめた。

検察官「被告は裁判官から『ワインボトルで殴るまでの間、どんなことを考えていたのか?』などと質問され、幻覚などの精神症状を供述せず、『それ以外に頭に浮かんだことは?』と念押しされても『ない』と供述していました」

「裁判官から『祐輔さんが帰ってくるのを待っていた時間、どのような感情で過ごしたか?』『思うままに話せばいい』などと質問されても、『怖くて、部屋から見える代々木公園を見て、この世界に自分しかいないんじゃないかって思うくらい、怖くて仕方なかった』『あの生活を終わらせたいというか、全部を終わらせたい気持ちだった』などと供述するだけで、幻覚などについては供述していませんでした」

「被告が問診時で突如幻覚などの供述を始めたのはきわめて不自然です。問診時の供述も、日に日に具体化して内容が変わっており、きわめて不自然というほかありません」

自らが申請した鑑定人による鑑定結果を、ことごとく否定していく検察官の論告。被告人質問や精神鑑定時の矛盾点を指摘された歌織被告は、再び顔を上げて検察官の方を見た。口が渇くのだろうか。小さく唇をなめたが、それ以上の反応はせずにうつむいた。

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