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検察側冒頭要旨(上)しつこく食事に誘う被告、耳かき店長は出禁に」

事案の概要

 この事件は耳かき店従業員で被害者の江尻さんに一方的な恋愛感情を抱いた被告が、江尻さんに来店を拒否されたことから、店への出入りを許可してもらおうと、付きまとい行為をするようになった揚げ句、受け入れられなかったことから殺意を抱き、凶器を準備して江尻さん方に侵入したところ、江尻さんのおばあさんの鈴木さんに見つけられたため、江尻さん殺害の邪魔になると考えて、鈴木さんをまず殺害し、続いて江尻さんを殺害した、住居侵入、殺人、および銃刀法違反の事案です。

被告の身上、経歴等

 (1)被告は千葉市で生まれ、高校卒業後、電機関係の専門学校に進学し、卒業後、配電設備の設計などをする会社に就職しました。被告は犯行時も同じ会社で働いていたが、本件犯行を起こしたことで懲戒解雇されました。

 犯行時は41歳でした。

 (2)被告は、結婚歴がなく独身で、千葉市内で1人暮らしをしていました。

 (3)被告は、女性との交際経験が乏しく、女性と真剣に交際したことはありませんでした。

 (4)前科・前歴はありません。

江尻さんの身上、経歴等

 (1)江尻さんは、昭和63年7月、父、母、2人兄妹の妹として生まれました。高校卒業後、和菓子店に勤めましたが、腰を痛めたため退職し、平成20年1月から、耳かき店で接客担当のスタッフとして働いていました。被害に遭ったときは21歳でした。

 (2)江尻さんは生まれたときから、両親、兄、おばあさんの鈴木さんとともに、今回被害に遭った自宅で暮らしていました。

 (3)家族仲が良く、家族の写真を携帯電話に入れて持ち歩くなどしていました。

鈴木さんの身上、経歴等

 (1)鈴木さんは昭和5年12月、6人姉妹の3女として生まれました。

 (2)昭和27年に結婚し、今回被害に遭った家に住むようになり、長男、長女の一男一女をもうけました。鈴木さんの長女は、江尻さんの母親にあたります。

 (3)鈴木さんは、夫、娘夫婦と孫2人とともに暮らしていましたが、本件犯行の約1カ月前に夫を亡くしたばかりでした。

 (4)鈴木さんは被害に遭ったとき、78歳と高齢でしたが、健康で、平成17年には書きためていた趣味のエッセーや俳句を集めた本を出すなど元気に暮らしていました。

耳かき店の説明

 (1)江尻さんが働いていた耳かき店について説明します。

 (2)耳かき店は客に対して、耳かきと、耳ツボ、顔、手や肩のマッサージなどのサービスを提供するお店です。

 ただし、コースの内容にとらわれず、スタッフと会話を楽しんだり、飲食したりして自由に過ごしてよいことになっています。

 また、性的なサービスは一切なく、客がスタッフの体に触れることも禁止されていました。客がスタッフと店外で会うことも禁止されていました。規則を破った客は、出入り禁止となっていました。

犯行に至る経緯

 ■被告が江尻さんと知り合い、多数回指名していた経緯

 〈1〉被告は、平成20年2月ころ、インターネットで耳かき店の存在を知って興味を持ち、耳かき店に客として来店しました。

 〈2〉被告は、初めて来店したときに江尻さんに担当してもらい、派手でなく普通っぽい感じの江尻さんが気に入りました。

 被告は、次第に、来店回数や時間を増やしましたが、平成20年秋ごろには、長時間の指名予約を取るため、江尻さんから携帯電話のメールアドレスを聞き出し、江尻さんに希望の時間帯をメールし、江尻さんに予約を取ってもらうようになりました。

 被告は、このような特別扱いに加え、江尻さんからプライベートに関することを聞いたり、江尻さんが愚痴をこぼすことがあったことなどから、特別な客として扱ってくれていると思うようになりました。

 被告は江尻さんにのめり込み、平成20年秋以降、週に3〜4回来店して必ず江尻さんを指名し、長いときは一日7〜8時間もの長時間、店で江尻さんと一緒に過ごしていました。

 また、平成20年11月ころ、江尻さんは、系列店でも掛け持ちで働くようになりましたが、被告は、系列店にも通って江尻さんを指名し、時間を過ごしていました。

 〈3〉一方、江尻さんは被告への対応に苦慮することがありました。

 平成20年11月ころ、被告は江尻さんが働いている店から系列店に移動するときに、一緒に電車で移動したいと要求しました。

 これに対し、被告は江尻さんが、店の決まりで客と店外で会うことはできないからと断っても聞き入れず、店の店長に対し、大声で文句を言ってなかなか引き下がりませんでした。

 また、被告は江尻さんに手を握ってほしいと要求し、断られても聞き入れなかったことがありました。

 さらに、被告は長時間、しかも、希望の時間帯に、江尻さんの指名予約を入れようとして、江尻さんに対し、希望通りの予約が入らないのなら、もう店に行かないなどと言って強引に予約を入れていました。

 江尻さんは被告の態度に苦慮し、店長や同僚に相談して、店長は被告を出入り禁止にすることを考えていました。

 ■被告が店への出入りを断られた状況

 〈1〉被告は、江尻さんを長時間指名しているうちに、店の外で一緒に食事をしたいと思うようになりました。

 平成21年4月3日金曜日、被告は江尻さんに対し、店外で食事をしたいと誘いました。江尻さんは店の規則で、お客さんと店外で会うことはできないと言って断りましたが、被告は、断られているのに気付かない様子で誘い続け、翌日の4月4日も食事に誘い続けました。

 江尻さんは困り果て、被告に、涙声で「何で分かってくれないの」と断りました。

 〈2〉江尻さんは、被告の態度に困り、4月5日の閉店前、江尻さんが働いている店の店長に相談したところ、店長は、出入り禁止にすることにしました。

 〈3〉被告は、その日も耳かき店に来店して、江尻さんを食事に誘い続けたため、江尻さんは食事を断るとともに、その後の来店を断りました。

 その日、被告はいらだって、「じゃあ、もういいよ、来ないよ」などと捨てぜりふを吐いて店を出ていきました。

⇒検察側冒頭要旨(中)ペティナイフと果物ナイフで刺せば殺せる…