(2)「一緒に電車で」「手をにぎってほしい」…エスカレートする付きまとい行為
耳かき店の女性店員へのストーカー行為の末に2人を殺害したとして殺人などの罪に問われた元会社員、林貢二被告(42)の裁判員裁判は、男性検察官による冒頭陳述の読み上げが続いている。起訴事実を認めた林被告は、正面を見つめたまま検察官の朗読に耳を傾けている。
男性検察官は、死亡した耳かき店店員、江尻美保さん=当時(21)=が勤務していた店が、性的サービスは行わないことや、店外で客と会うことは禁止されていたことなどを説明。被告が犯行に至るいきさつを述べていった。
検察官「被告は平成20年2月に、インターネットで美保さんが勤務していた耳かき店を知りました。初めて来店した際、派手ではなく、普通っぽい雰囲気の美保さんを気に入りました」
以降、林被告は頻繁に来店するようになっていった。長時間にわたって店に居座り、江尻さんのメールアドレスも聞き出したという。江尻さんに直接メールを送って予約を取ってくれるよう頼むこともあったようだ。
検察官「被告は、プライベートな話や、愚痴をこぼすこともあった美保さんから、特別な客として扱ってもらっていると思い、美保さんにのめり込んでいきました」
20年秋ごろには、週に3〜4日は店に通い、必ず江尻さんを指名。長いときで、1日7〜8時間も店にいたこともあった。
20年11月には、江尻さんは新宿にある店も掛け持ちするようになったが、林被告はそちらにも通い、江尻さんを指名したという。
検察官「20年11月ごろ、美保さんが秋葉原の店から移動する際、被告は『一緒に電車で移動したい』と頼んだが、美保さんは断りました。しかし被告は聞き入れず、大声で文句を言ったりしました」
林被告は、江尻さんに「手をにぎってほしい」と言うなど、次第に要求がエスカレートしていったようだ。江尻さんは被告のことを店長や同僚に相談。店長は、被告を出入り禁止にすることを考えはじめたという。
林被告が江尻さんへ執着を深めていく様子を、淡々と述べる男性検察官。裁判員は、手元の資料を真剣な表情で読み込んでいる。続いて検察官は、林被告が江尻さんを頻繁に食事に誘うなどしたため、店から出入り禁止を言い渡された状況を説明し始めた。
検察官「21年4月3日、被告は美保さんを店外で食事をしようと誘いましたが、美保さんは『店の規則で禁止されている』と断りました」
それでも林被告は、断られていることに気がつかないかのように、翌日も江尻さんを誘い続けた。
検察官「美保さんは困り果て、涙声になりながら『なんで分かってくれないの』と訴えました」
店長は4月5日、林被告を出入り禁止にすることを決めた。しかし被告はその後も来店し江尻さんを食事に誘い、再び来店を断られたという。
検察官「被告は『じゃあもういいよ。来ないよ』と捨てぜりふを吐き、店を出ていきました」
その後、被告は江尻さんに「また店に行くから」とメール。江尻さんは拒む内容の返信をしたが、被告は自分の態度を謝れば、店に戻れると思っていたという。
5月初旬、秋葉原駅近くで江尻さんを待ち伏せ、自宅の近くで呼び止めた。江尻さんは、防犯のためのブザーを持ち歩くなどして警戒していたという。
検察官「被告は、店での美保さんとの会話の中で断片的に自宅の場所を聞き、自宅のそばの様子を写したメールのデータを見せてもらったことなどの情報をつなぎあわせ、美保さんの自宅を突き止めました」
許してもらえなければ、江尻さんとの安らぎの時間が失われてしまう。林被告は思い込みをさらに強くしていったようだ。林被告は時折、下を向いたりしているが、終始落ち着いた様子で座っている。
検察官「被告は7月19日夜、美保さんを自宅近くで待ち伏せしました」
「眠れないほど悩んでいる。店に行きたい」などと江尻さんに告げた被告。江尻さんはコンビニに逃げ込み警察に通報した。
林被告は失望とともに、江尻さんに怒りを抱くようになった。江尻さんに送ったメールは受信されず、避けられていると感じた林被告は、この先もう会えなくなってしまうのではと追いつめられていった。
検察官「被告は美保さんに憎しみの感情を抱き、殺してやりたいと考えるようになる一方で、許してもらって耳かき店に再び通いたいという希望も持っていました」
しかし、8月1日、江尻さんがいつもの時間に帰宅しなかったことから林被告は避けられていると思い、憎しみが大きくなり、殺意を抱き始めたという。
検察官「8月2日、被告は1日中、美保さんを殺すかどうかを考え続けていました」
このころ、林被告は、平日の早い時間なら江尻さんは家にいるだろうなどと、殺害について具体的に考えをめぐらせていたようだ。店での会話の中で、江尻さんの部屋が自宅の2階にあることも、さりげなく聞き出していたという。
検察官「8月3日、怒りや憎しみがわいてきた被告は、殺害を決めました」
続いて検察官は、犯行状況の説明を始めた。裁判員は厳しい表情で資料に見入っている。
検察官「8月3日朝、被告はペティナイフや果物ナイフのほかに凶器になるものはないか探し、工具箱の中からハンマーを取りだし、電車で美保さんの家に向かいました」
犯行前、いったん江尻さん方の玄関に近づき、鍵がかかっていないことを確認した。
検察官「被告はショルダーバッグのチャックを開け、いつでも凶器が取り出せるようにして玄関の扉を開け、中に入りました」
検察官は、江尻さんの祖母、鈴木芳江さん=当時(78)=と、江尻さんを殺害した状況の説明に入った。
検察官「被告は玄関の扉を閉め、靴を脱いであがろうとすると、芳江さんにみつかりました」
鈴木さんを殺害しなければ江尻さんを殺せない、とその場で鈴木さんの殺害を決心。ハンマーで殴ったりナイフで刺して、鈴木さんを殺害した。
その後、林被告は2階へ上がり、江尻さんを探し、ベッドで寝ている江尻さんに馬乗りになろうとした。江尻さんは「やめて」と何度も叫び抵抗したが、林被告は「この野郎」などと怒鳴りながら、ナイフを突き刺した。
騒動に気づいた江尻さんの母親ら家族が家の外に出て、大声で助けを求めた。林被告は駆けつけた警察官に逮捕された。