第23回公判(2012.2.17) 【被告人質問】
(7)福島・裏磐梯に年間50日滞在 交際相手には精力剤カプセル
首都圏の連続殺人事件で練炭自殺に見せかけて男性3人を殺害したとして、殺人などの罪に問われた木嶋佳苗被告(37)に対する裁判員裁判の第23回公判(大熊一之裁判長)がさいたま地裁で続いている。弁護側の被告人質問は木嶋被告が精神科などで処方された抗うつ剤や睡眠導入剤についてに移った。
木嶋被告は平成17年3月、体の倦怠(けんたい)感や不眠などの症状を訴え、精神科クリニックを受診。鬱病と診断され、3種類の抗うつ剤と睡眠導入剤「レンドルミン」などを処方された。
弁護人「服用の指示は?」
被告「レンドルミンは就寝前に飲むように指示されました」
弁護人「指示された通りに服用していましたか」
被告「はい。飲み出して、短い時間ですが寝られるようになりました」
約2週間後にも木嶋被告はクリニックで受診。睡眠の症状が改善されないことから前回の3種類に加え、睡眠導入剤「ハルシオン」が処方されたという。
レンドルミンとハルシオンの成分は木嶋被告が殺害したとされる千葉県野田市の無職、安藤健三さん=当時(80)=と東京都千代田区、会社員、大出嘉之さん=当時(41)=の体内から検出されている。
木嶋被告が平成21年1月に殺害したとされる会社員、寺田隆夫さん=当時(53)=は司法解剖が実施されていないが、検察側は、「何らかの方法で睡眠状態に陥らせた」として起訴している。
弁護人「ハルシオンは毎日? それとも調子が悪いときに服用するよう指示されましたか?」
被告「ドクターからは必ず就寝前に、と指示を受けました。長時間寝られるようになりました」
ただ、木嶋被告はそのわずか6日後、「いつまで経ってもよくならない」との理由から、以前皮膚科で受診したことのあるクリニックに行き、別の睡眠導入剤の処方も受けている。
弁護人「別のクリニックに通っていて、薬を処方されていることは先生には伝えましたか」
被告「はい、ドクターには伝えました。その上で、(クリニックで処方された薬と)合わせて飲んでも問題ないと言われました」
弁護人「17年7月に(最初に受診した)クリニックへの通院を終えているが理由は?」
被告「先生との相性がよくないと感じました。薬を変えてくれない。悩みを具体的に聞いてくれなかったので、別の専門医を探そうと」
同8月、木嶋被告は別のクリニックで抗うつ剤の処方を受ける。
被告「抗うつ剤は症状が改善しても毎日飲まないと行けないと説明を受けたので、切らさないように処方してもらいました」
弁護人「うつ症状は?」
被告「治ってはいませんでした」
弁護人「この病院には信頼できる先生がいましたか?」
被告「はい」
弁護人「この時期にお父さんが亡くなっていますね」
被告「8月30日です」
弁護人「(病気への)影響は?」
被告「はい。突然だったので落ち込みました。長女だったのでがんばらないと、と責任を感じ、しんどかったです」
弁護人「(最初に受診した)クリニックで処方されたレンドルミンやハルシオンは?」
被告「残っていません。処方された分は飲みきりました」
3カ月の期間を空け、17年11月にさらに別のメンタルクリニックで受診し、うつや不眠の症状を訴えた。レンドルミンなどを処方されたという。
弁護人「レンドルミンは前にも使っていたが効果は?」
被告「(期間があいていたため、)最初は効果があったが、夜中に目が覚めてそのまま眠れなくなることが多くなったので、ドクターに睡眠を取りたいと伝えました」
医師を「ドクター」と呼び、質問に答える。常に丁寧な言葉遣いをするのが木嶋被告の特徴だ。
このクリニックで処方された別の睡眠導入剤を服用したところ、「夜中に目覚めることはほとんどなくなった」という木嶋被告。18年6月でうつや不眠の症状は治ったという。
弁護人「処方された睡眠薬は指示通り飲んでいましたか?」
被告「睡眠導入剤はできるだけ飲まないようにしていました」
弁護人「18年7月に手元に睡眠薬はありましたか?」
被告「多少ありました。最後に処方されたレンドルミンだと思います」
19年の年末に再び体の不調を感じた木嶋被告は精神科を受診。抗うつ剤や睡眠導入剤「ハルシオン」などを処方され、年明けには症状は治まったという。
被告「(20年の年明け時点で)抗うつ剤は飲みきらず捨てました。ハルシオンは残っていなかったと思います」
弁護側の意図は、木嶋被告が「処方された睡眠導入剤は手元にない」と陳述することで、「木嶋被告が自ら手に入れた睡眠薬で男性らを殺害した」とする検察側の構図を崩そうという点にあるようだ。
弁護人「ところで、薬をすりつぶして飲んでいましたか?」
被告「はい」
弁護人「一番初めは?」
被告「平成17年ごろだと思います」
弁護人「当時処方された薬全部ですか?」
被告「すべてです」
弁護人「何のために?」
被告「福島県の裏磐梯に旅行に行った際、すりつぶしてオブラートに包んでいました」
弁護人「○○さん(法廷では実名)とですね」
被告「はい」
○○さんは木嶋被告が平成15年ごろから交際していた男性だ。ただ、木嶋被告は偽名で付き合うなど、いびつな交際だったとされる。
弁護人「何のためにすりつぶしたのですか?」
被告「理由は裏磐梯の施設は家族経営のペンションだったのですが、頻繁に訪れ気心が知れていました。(経営者の)家族が部屋に来ることもあり、ゴミ箱を交換する際などに、(服用していた薬の)空のパッケージを見られるのが嫌だったからです」
睡眠導入剤などをすりつぶした理由をこう説明した木嶋被告だが、錠剤をパッケージから出して直接持ち運ぶ方法などもあり、疑問の残る答えとなった。
弁護人「(すり鉢やすりこぎは)普段はどのような使い方を?」
被告「料理でごまをするときに使ったりしていました」
弁護人「裏磐梯にはどれくらい行っていましたか」
被告「年間50〜60日です」
木嶋被告は当初、すりつぶした薬をオブラートで持ち運んでいたが、カプセルに変更。数種類の薬をカプセルに入れて持ち運んでいた。うつ症状が改善した平成18年6月以降も、ビタミン剤や漢方薬をすりつぶしてカプセルに入れていたという。
弁護人「調剤した薬を誰かに飲んでもらうことは?」
被告「ありました。○○さんです」
弁護人「どんな薬ですか?」
被告「私の飲んでいるビタミン剤や精力剤です」
木嶋被告は18年11月に薬の調剤目的で、専用の乳鉢を購入したことを明らかにした。
一連の事件後、木嶋被告が北海道の母親に送ったすり鉢とすりこぎからは睡眠導入剤の成分が検出されている。
審理再開から約45分が経過。休廷に入った。