第23回公判(2012.2.17) 【被告人質問】

 

(5)月収20万円程度では毎日出勤しない 「息子の嫁に」と言われ

木嶋被告

 首都圏の連続殺人事件で練炭自殺に見せかけて男性3人を殺害したとして、殺人などの罪に問われた木嶋佳苗被告(37)の裁判員裁判。第23回公判(大熊一之裁判長)の午後の審理が始まった。

 午後も引き続き弁護側の被告人質問が行われる。審理再開までの時間、証言台に座った木嶋被告は足を交差させ、いすを左右に回転させた。余裕があるようにも見える。

 定刻になり、大熊裁判長が審理再開を告げる。木嶋被告は足をほどき、きちんと座り直した。

 男性弁護人は、午前中の審理で尋ねた千葉県松戸市のリサイクルショップ経営者の●■さんとの関係について、引き続き質問を重ねていく。

 ●■さんは、平成14年から19年に70歳で死亡するまで、5年間にわたって木嶋被告に計約7400万円を資金援助した人物だ。

弁護人「●■さんと会ったのは平成13年の何月ごろでしたか」

被告「はい。6月ごろだったと思います」

 ●■さんはインターネットの掲示板で、副業の手伝いをする人を募集していた。条件は月給20万円以上。13年に妹との同居を機に愛人関係やデートクラブで肉体関係の報酬を受け取るのを辞めた木嶋被告は仕事を探していた。●■さんに連絡を取った。

弁護人「最初に会いに行く時、面接だと思いましたか」

被告「はい。履歴書を持ってくるように言われたので」

弁護人「●■さんから、仕事について説明がありましたか」

被告「掲示板よりも詳しい説明がありました。まず、名刺を渡されて。(名刺には)ご自身が経営されているリサイクルショップの住所などが書かれていました」

 木嶋被告は常に丁寧な言葉使いをする。敬語の使い方もなめらかだ。

弁護人「●■さんは副業もしていましたね」

被告「はい」

弁護人「具体的には?」

被告「リサイクルショップのほかに、引っ越し業務や、不動産関係、株取引をしていると聞かされました」

弁護人「あなたに頼まれた仕事内容は?」

被告「個人的な仕事のお手伝いをしてほしいということでした。主に株取引の手伝い、副業の不動産業務、事務所の掃除とか、食事を作ってほしいということでした」

弁護人「採用は?」

被告「その場で、『今まで何人も断ってきたけど、あなたは希望の条件に合っているので、ぜひ手伝ってほしい』と言われました」

弁護人「そして、松戸に通い始めた」

被告「はい」

 ●■さんの事務所に通い始めた木嶋被告。●■さんの指示に従って、インターネットの株取引や、昼食の世話をするようになる。

弁護人「食事の用意をするとき、お金はもらっていましたか」

被告「はい」

弁護人「いくらでしたか」

被告「2人分で千円でした」

弁護人「どういう感想を持ちましたか」

被告「うーん。千円でどうやって食事を作ったらいいかわかんなくて…。千円で食事を作った経験がなかったので」

 千円で2人分。庶民感覚から言えば十分ともいえる額だが、木嶋被告にとっては違うようだ。この後のやりとりで、木嶋被告の異様な金銭感覚がさらに示されることになる。

弁護人「最初に松戸に行った次の日、出勤はしましたか」

被告「しませんでした」

弁護人「なぜ」

被告「うーんと、月収20万円程度だったので、週1回ぐらい行けばいいのかなと思ってました」

 週1回勤務なら、単純計算で日給5万円となる。木嶋被告は平然と言葉を重ねていく。

弁護人「●■さんは(勤務日は)平日の日中と言ってましたよね」

被告「毎日だとは思いませんでした」

弁護人「一般の金銭感覚とはずれていると思いませんでしたか」

被告「●■さんから、指摘されました。次の日、●■さんから『あなた、なぜ来ないの』と電話があって。『自宅にいる』と言ったら、すごく驚いてました。『平日の日中来てくれるんじゃなかったの』と。『20万円も出すんだから、毎日来るのは当然でしょ』と」

弁護人「それで、あなたはどう答えましたか」

被告「いや、毎日行くことが条件だったら、通えませんと言いました。●■さんは私を気に入ってたから、『しょうがない』と。なので、次に行ったのは翌週です」

 ●■さんは木嶋被告の「毎日は行かない」という要求を受け入れた。

弁護人「その後、どれぐらいの頻度で?」

被告「週1回ぐらいですけど、●■さんがすごく忙しい時は、2、3回行くこともありました」

弁護人「なぜ、●■さんに気に入られたと思ったのですか」

被告「わりと初期の段階で、ご自身に息子さんがいらして、30代で独身なので、佳苗さんに嫁さんになってほしいと言われました」

弁護人「●■さんは冗談のつもりだったのでは?」

被告「いえ、冗談ではないです。まじめな調子で」

弁護人「どう思いましたか」

被告「考えさせてほしい、と暗に断るような返事をしました」

弁護人「乗り気ではなかった?」

被告「そうですね」

 「息子の嫁に」と言われるほど、●■さんの心をつかんだ木嶋被告。要求はエスカレートしていく。

弁護人「給料は」

被告「お約束したとおり、20万円もらいました」

弁護人「仕事を始めて2ヶ月目、何か●■さんに言いましたか」

被告「20万円では生活できない。他の仕事もしないといけないので、来れなくなるかもしれないわ、と言いました」

弁護人「●■さんは何と」

被告「うーん、『20代の女性なら、20万でやりくりできると思うんだけど、どれぐらい必要なの』と聞かれました。正直に100万円とは言えないので、50万円ぐらいと答えました」

弁護人「使い道は聞かれたか」

被告「説明しました。若いころからぜいたくに慣れているので、生活の質を落とすことはできないと。(●■さんは)最初はしぶしぶでしたけど、私を気に入っていたので、『足りない分は出すから仕事を続けてほしい』と」

 木嶋被告は2カ月目から、給与の他に30万円、計50万円をもらうようになる。

弁護人「●■さんは資産家だと思っていましたか」

被告「お金に関わる仕事をしていたので、口座にどれだけ残高があるかは知っていました」

弁護人「●■さんの証券口座にはどれぐらいありましたか。今覚えている範囲で」

被告「2、3千万円でした」

弁護人「資産があるな、と」

被告「はい。あくまで趣味なのに、数千万円を動かせる人なんだなという印象はありました」

 木嶋被告の収入は●■さんからの給与50万円と愛犬サークル「カインド」の運営ということになる。

弁護人「収入は?」

被告「多少減りましたね」

弁護人「支出は」

被告「一生懸命節約しても、(月の生活費が)100万円を切ることは難しかったです」

弁護人「足りない分は、●■さんからもらっていたと」

被告「そうです」

弁護人「給与は最初現金だったが、銀行振り込みに変わっている。これはなぜ」

被告「一時期、私が体調を崩して行けないことがあって、(●■さんが)生活に困るだろうから、口座番号を教えなさいと」

弁護人「どうして●■さんはそこまであなたを援助してくれたのでしょう」

被告「うーん…」

 これまでよどみなく答えていた木嶋被告だが、この質問については慎重に言葉を選んだ。

被告「(最初の)面接の時、(●■さんが木嶋被告を)素朴で地味だと思っていたつもりが、実際雇ってみたら世間一般の価値観から離れた特殊な女性だと分かって、それが楽しかったんじゃないかと」

弁護人「実際言われたのですか」

被告「こんな奔放だと思わなかった、と言われました」

 木嶋被告の見せる「意外性」に●■さんはどんどん引き込まれていったのだろうか。

弁護人「最初は、息子さんの嫁にと言われましたね。その時はどこが気に入られたのでしょうか」

被告「たぶん、仕事ぶりを見て。私も家事が好きですし、甲斐甲斐しくお世話をする家庭的な面を見て、嫁にしたいと思った、と●■さんに言われました。20代半ばでしたけど、お化粧もしたことがない、派手な格好もしなかったので」

 奔放な女、家庭的…。●■さんの言葉を借りながら自分を表現する木嶋被告。自信を持って答えている。

 ●■さんとの関係について一通り質問を終えると、弁護人は新たな木嶋被告の摘発歴を明らかにする。

 木嶋被告は平成11〜13年にかけて、窃盗容疑などで警視庁や埼玉県警に計3回摘発されたことが午前の法廷で明らかにされている。

弁護人「平成15年3月、詐欺容疑で逮捕されましたね」

 平成13年1月から2月にかけて、インターネットオークションで詐欺をしたというのだ。この事件で木嶋被告は有罪判決を受けている。

弁護人「(犯行に使ったとされる別人名義の)口座の存在を知っていましたか」

被告「知りません」

弁護人「自分は詐欺をした覚えはないと」

被告「はい」

 木嶋被告は、実際に詐欺を行ったのは、当時木嶋被告が雇っていたカインドのスタッフだと主張した。検察官は視線を落とし、やり取りを聞いている。

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