第23回公判(2012.2.17) 【被告人質問】
(4)愛人契約リセットで収入減も生活変えられず
首都圏の連続殺人事件で練炭自殺に見せかけて男性3人を殺害したとして、殺人などの罪に問われた木嶋佳苗被告(37)に対する裁判員裁判の第23回公判(大熊一之裁判長)がさいたま地裁で続いている。弁護側の質問は、被告の摘発歴から、交友関係に移った。
北海道から上京後の生活や男性との関係について淡々と答えていく木嶋被告。
弁護人「平成6年ごろに交際していた●●さん(法廷では実名)とは結婚する気はありましたか」
被告「ありませんでした」
●●さんは当時、神奈川県在住。木嶋被告よりも10歳年上で、建設会社に勤務しており、別れるまで半同棲生活を続けていた。
弁護人「平成10年ごろに交際していた▲▲さん(同)は結婚対象と考えていましたか」
被告「考えていませんでした」
▲▲さんは木嶋被告が●●さんのあとに交際した男性。木嶋被告が設立した愛犬サークルで知り合った上智大生だ。
弁護人「その男性から結婚を申し込まれるようなことはありましたか」
被告「『結婚してほしい』と言われましたが、その時はあいまいに返事をしたと思います」
弁護人「その男性とはいつ終わりましたか」
被告「彼が大学院進学で京都に行くとき、『一緒にきてほしい』と言われましたが、断って別れました」
平成11、12年当時、木嶋被告には結婚願望がなかったことが示された。事件の背景について、弁護側は『木嶋被告は真剣に結婚願望を抱いていた』と主張している。結婚願望の変遷について明らかにする狙いだとみられる。
弁護人「その後、生活が変わったことがありましたよね。何がきっかけでしたか」
被告「北海道から8歳年の離れた妹が上京することになり、両親から『心配だから、同居してほしい』と頼まれ、一緒に住むことになりました」
弁護人「そのとき、どんなことを考えましたか」
被告「生活をリセットして、普通の生活をしようかなと思いました」
弁護人「男性とセックスして、お金をもらう生活をリセットしようとしたんですね」
被告「はい」
木嶋被告が都内で妹との同居生活を始めたのは平成13年。それまで木嶋被告は愛人契約やデートクラブで、男性から肉体関係の報酬や、子犬の仲介手数料などで平均150万円を稼いでいた。
弁護人「板橋に部屋を借り、妹さんと同居を始めたのは平成13年3月ですね」
被告「はい」
弁護人「リセットはできたのですか」
被告「はい」
弁護人「愛人契約のような、セックスして10万円くれる人たちは、リセット前は何人くらいいましたか」
被告「3人くらいいました。合う頻度は人ごとに違いました」
弁護人「どうやってその人たちと離れたのですか」
被告「『春から北海道に帰る』という口実で、終わりにしました」
弁護人「妹と同居生活のとき、手元にお金はいくらありましたか」
被告「意識して貯金はしていませんでしたが、100万円くらいありました」
弁護人「家賃はいくらでしたか」
被告「13万円くらいです。父からの仕送りで支払っていました」
弁護人「その頃の収入源は何でしたか」
被告「(愛犬サークル)『カインド』の手数料収入が主です」
弁護人「それまでは月150万円くらい使っていたそうですが、減らそうと思いましたか」
被告「頭の中ではやろうとしましたが、難しかったです」
弁護人「新たに収入を増やそうとしたことは」
被告「介護や介助の仕事をインターネットで探しました。実際に、朝病院に行って、病院の順番待ちカードを取る仕事などをしました。報酬は1回数千〜数万円くらいでした」
弁護人「介護に近い仕事もしましたか」
被告「寝たきり高齢者の体を拭いたり、着替えをさせたりする仕事もしました」
弁護人「お年寄りの体を拭くことなどは、嫌ではなかったのですか」
被告「まったく嫌ではありませんでした」
木嶋被告は高校時代にボランティア同好会の部長を務めていたこともある。弁護側は、被告の“献身的な性格”を示すことで、「殺人犯ではない」という印象を強めたい考えのようだ。
弁護側の質問は、平成14年から19年に70歳で死亡するまで5年間にわたり、木嶋被告に約7400万円を資金援助したパトロンの存在に移る。
弁護人「●■さん(法廷では実名)と初めて会ったのはいつですか」
被告「平成13年ごろです」
弁護人「出会ったいきさつは」
被告「インターネット掲示板で、お手伝いの求人があって…。最初は介助、介護で探していましたが、お給料が安く、●■さんの仕事は条件が合ったので」
弁護人「募集はどういう内容でしたか」
被告「『(●■さんは)リサイクルショップを経営していて、事務手伝い、副業手伝いをしてほしい。家事が上手で、昼食を作れる方』など条件が合って、月給20万円以上ということでした」
弁護人「(一般企業などに)就職しようとは考えなかったのですか」
被告「考えませんでした」
弁護人「なぜですか」
これまでスムーズに受け答えしていた木嶋被告が答えに詰まった。ここで初めて、自分の内面に迫る質問に直面したのかもしれない。
被告「それは…。これまで知り合った方からは『普通の女性とは違う』と評価してもらっていたし、自分も『普通の女性とは違う』と思っていたので、就職には向かないと思っていました」
弁護人「●■さんの仕事をやってみようと思ったのですか」
被告「家事が得意だったので、やろうと思いました」
弁護人「月給20万円という相場は、高い低いなど、どう思いましたか」
被告「そのときは拘束時間や頻度が分からなかったので、月に何度か行くだけでお金をもらえるのかな、と考えていました」
弁護人「愛人のような仕事だとは思いませんでしたか」
被告「そうかもしれない、とは思いました」
弁護人「実際に●■さんに合ってどう思いましたか」
被告「そういう話はまったくなかったし、雰囲気もありませんでした」
弁護側は大熊裁判長に「質問のきりがついたので、いったんここで…」と伝える。裁判長はうなずき、法廷は午後1時10分まで休憩に入った。