第16回公判(2012.2.6)

 

(6)「コンロや練炭見たことない」と長男 体内からは11倍の睡眠薬

木嶋被告

 首都圏の連続殺人事件で練炭自殺に見せかけ男性3人を殺害したとして、殺人などの罪に問われた木嶋佳苗被告(37)に対する裁判員裁判。休憩を挟んで千葉県野田市の安藤建三さん=当時(80)=の長男に対する弁護側質問が始まった。

弁護人「証人は平日は仕事で外へ出ていますか。時間は何時から何時ぐらいまでですか」

証人「午前8時ちょっと前に出て、午後6時ぐらいに帰宅しています」

弁護人「安藤さんは年金生活で、証人と同居していましたが、互いの生活には干渉しなかったのですか。生活のリズムも異なるし」

証人「はい」

弁護人「安藤さんは2カ月で約26万円の年金をもらっていましたが、それを知っていましたか」

証人「事件後に知りましたが、それまでは月6〜7万円と思っていました」

 弁護側は、同居しているものの、それぞれの私生活については息子もよく知らないことを裁判員に印象付けようとしているのだろうか。

弁護人「日中の出来事について、安藤さんと話すことはありましたか。また、婚活サイトに登録していたことは?」

証人「ほとんどありませんでした。サイトに登録していたことも知りませんでした」

弁護人「木嶋被告とどこで知り合ったか、知っていましたか」

証人「聞いていません」

弁護人「火災があった日に安藤さんの口座から年金約180万円が引き下ろされましたが、年金の金額は知っていましたか」

証人「よく分かりません」

 この後、弁護側は火災の原因について、安藤さんの長男から証言を引き出そうと試みる。

弁護人「安藤さんはたばこをよく吸っていましたが、1日20本から40本ぐらいですか」

証人「たぶんそれくらいだと思います」

弁護人「安藤さんは10月と12月に病院に運ばれましたが、木嶋被告からの電話で知りましたか」

証人「10月はそうでしたが、12月は病院からの連絡だったと思います」

弁護人「安藤さんは4畳半で昼寝をしたりすることはありますか」

証人「はい」

弁護人「灰皿は8畳間と風呂場、トイレにありましたが、4畳半で見たことは」

証人「ありません」

 弁護側は、安藤さんが4畳半の部屋のベッドで寝たばこをしていて火災になったとの印象を裁判員に与えようとしているようだ。

 長男の証言などによると、安藤さんは木嶋被告と知り合って4カ月が経過した平成20年10、12月、翌21年3、4月の計4回、宿泊先のホテルや自宅で意識を失うなどしている。

弁護人「20年10月末に意識喪失で病院に行ったとき、医師から安藤さんが脳梗塞の疑いがあることを告げられましたか」

証人「はい」

弁護人「火災の後、警察や消防からこんろや七輪が自宅にあったかどうか聞かれた覚えはありませんか」

証人「聞かれたが、以前からあったかどうかは分からないと答えました」

弁護人「6〜7年前に安藤さんから木炭を片付けてくれと言われたことはありますか」

証人「はい」

 弁護側は安藤さんの長男から、こんろや七輪はもともと自宅にあったもので、木嶋被告が安藤さんを殺害するために準備したものではないとの証言を得ようとしているようだったが、長男は6〜7年前の木炭は捨てたと証言した。

 続いて検察側が再び尋問を始めた。

検察官「6〜7年前に捨てたのは、木炭だけ?」

証人「はい」

検察官「練炭こんろや七輪は自宅で見たことはありませんか」

証人「ありません」

検察官「火災が起きた5月に暖房が必要だったと思いますか」

証人「思いません」

 検察側は5月に練炭やこんろを使う必要性がないことを改めて強調する。ここで別の検察官が尋問を引き継ぐ。

検察官「捨てた木炭はどんな形状ですか」

証人「直径10センチくらいの円柱を4つぐらいに割ったものでした」

検察官「練炭は(木炭とは違って)いくつもの穴が開いたものでしたが」

証人「(自宅で)見たことはありません」

 検察側は長男が安藤さんから指示を受けて捨てた木炭が現場の自宅4畳半の部屋から見つかった練炭とは全く別であることを証明していく。この後、約30分休憩し、午後3時20分から再び開廷。裁判官が質問する。

裁判官「安藤さんは灰皿の中身(の吸い殻)をどのくらいの間隔で捨てていましたか」

証人「あふれ出るようなことはありませんでした」

裁判官「山盛りではなかった?」

証人「はい」

裁判官「安藤さんの煙草が原因で火災になりそうになったことは」

証人「ありません」

 ここで、安藤さんの長男に対する証人尋問が終了。引き続き、女性検察官が安藤さんの長男の供述調書を読み上げる。安藤さんが意識喪失に陥った20年10月28日と12月26日のことについて、警察の事情聴取に対し、長男が供述した内容だ。

 長男は、2回とも木嶋被告に会った直後に安藤さんが意識喪失していることに疑念を抱いていたという。また、安藤さんは長男に対し『栄養ドリンクを飲んだら意識をなくした』と話していたことを明らかにした。

 引き続き検察側証人として、安藤さんの血液中の睡眠薬の量を測定した大学教授が証言台に立った。

検察官「安藤さんの遺体からは2種類の睡眠薬の成分が検出されましたが、睡眠薬の量を教えていたただきたい」

証人「過去のデータと安藤さんの血中濃度を比較すると、安藤さんは少なくとも高齢者が1日に摂取する睡眠薬の量の11倍にあたる11錠近くを飲んでいたことになります」

 検察側は、木嶋被告から手渡された可能性が高い栄養ドリンクの中に、多量の睡眠薬が混入されており、安藤さんがこれを飲んだことによって意識喪失した、との主張をしたい考えのようだ。

⇒(7)抹茶オレやビーフシチューに入った睡眠薬は気付かない 大学教授が証言