第7回公判(2010.9.14)

 

(3)「自己保身のため見殺し」「反省の情は皆無」検察の厳しい言及に被告は背中丸め

押尾被告

 合成麻薬MDMAを一緒に飲んで、容体が急変した飲食店従業員、田中香織さん=当時(30)=に対する保護責任者遺棄致死などの罪に問われている元俳優、押尾学被告(32)の裁判員裁判の検察側による論告の読み上げが引き続き行われている。

 押尾被告は、いつもと同じように黒いスーツ姿。男性検察官が裁判員の方向を向き、ゆっくりと読み上げている。

 検察官は、検察官請求の証人、救命救急医と心臓専門医が、田中さんの救命可能性は「百パーセントに近い」などとした証言に触れた。

検察官「異なる専門分野を有する両証人の意見が一致しました。『救命可能性が百パーセントに近い』というのは、医療に絶対はない以上、救命の疑いがあるという意味で(百パーセントと)使っていないのは明らかです」

「田中さんは当時30歳と若く、特別な病気はない。田中さんの死亡は被告人と因果関係が認められます」

 押尾被告は、左手であごに軽く触れた。

 続いて検察官は、弁護側請求の証拠で、帝京大学医学部教授が通報時間と救命可能性について述べた意見書について触れた。

検察官「医学的救命可能性は、(昨年8月2日)午後5時50分通報の段階で60%、午後6時で10%から20%ですが、これは午後6時20分に死亡したことを前提に救急車内で心室細動を起こしたのが前提です」

「(意見書でも)単純に救命可能性でいえば、中毒を発症してから、心停止までに有効な手段があったかどうかが見解(の趣旨)でした」

 さらに、検察官は弁護人請求の証人で、福岡和白病院の救命救急医の証言に言及した。

検察官「(証人は)薬物であるMDMAを毒物と同視しました」

「心室細動の除細動の見解も、医学的標準のよりも著しく低い成功率を前提としています」

 押尾被告はうつむきがちで、ノートの上にはボールペンが置かれている。

 検察官は、田中さんが急変してから死亡するまでの時間を証人が「数分から10分」と証言したことに言及。さらに、田中さんほどの重症の肺水腫はどのくらいの経過で起こるのか臨床の経験を尋ねた際の証言を問題視した。

検察官「証人は『1、2分で死亡することもある』と証言しましたが、再度検察官から質問されると、(田中さんが発症したような重症な)肺水腫の形成は、『別の薬剤なら』とMDMAという事実をすり替えた形で証言しました。同一事象の証言も法廷内で矛盾しています」

「救命可能性も数値をあげるのが具体的に難しいとしながら、『本件は30%から40%』として、具体的な根拠はありません」

 裁判員は、資料に目を落とし、検察官の言葉を聞き逃すまいとしているようだ。

検察官「押尾被告が心臓マッサージをしたことに対して同情的な態度を取る一方、119番通報しなかったことに対しては『お答えできません』と話し、証人としての中立性に、はなはだ疑問を感じさせます」

「被告人が保護責任者遺棄致死の罪を負う証拠は十分であると思います」

 検察官は、裁判員の方を見ながらはっきりとした口調で話した。続いて、情状について述べ始めた。

検察官「本件の犯行は極めて悪質と言わざるを得ない」

 押尾被告が、以前にもドラッグセックスを行い、相手が気絶したことなど、被告がドラッグの常習であったことを指摘した。

検察官「被告人は自己保身のために田中さんを見殺しにするなど、悪質と言わざるを得ません」

 押尾被告は被告人質問で、119番通報しなかった理由について「(田中さんが)もう亡くなっていたので、薬を抜くのを優先した。薬物使用が発覚するのを恐れていた」と話している。

検察官「発生した結果が重大であり、田中さんの両親を始め、被告人に対する重い処罰を望んでいます」

「薬物事犯は再犯の恐れが強く、被告人と薬物は親和性がみられ、再犯の恐れも強い。こうした犯罪には予防的観点からも重罰に処す必要があります」

 押尾被告は、隣の席の弁護人に視線を移した。

 さらに、検察官は、押尾被告がMDMAを田中さんに譲渡したことを否定したことを「明らかなうそ」と指摘した。

検察官「(被告に)反省の情は皆無であると言わざるを得ません」

「最も、本件については、田中さんも自らの意志で違法薬物を服用していたことは否定できません」

 押尾被告は、みじろぎもせず、少し背中を丸め、法廷内に響く検察官の論告をじっと聞いている。

⇒(4)「被告に懲役6年を求刑します」と2度述べた検察官 被告は何度も弁護人を振り返り…