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第7回公判(2010.9.14)

 

(2)「すべきことは119番以外なかった」と語気強める検察官

押尾被告

 合成麻薬MDMAを一緒に飲んで容体が急変した飲食店従業員、田中香織さん=当時(30)=を放置し死亡させたとして、保護責任者遺棄致死など4つの罪に問われた元俳優、押尾学被告(32)への論告を男性検察官が読み上げている。検察官は手に青いファイルを持って証言台の横に立ち、裁判員を意識してか、ゆっくりとした口調で主張を読み上げていった。

検察官「田中さんは、保護を要する病者(人)でした」

 事件当日に、六本木ヒルズのマンションにいた田中さんに生じた異変について検察官は言及した。

検察官「8月2日午後5時50分から、田中さんが『怒りの状態』『無表情の状態』を繰り返したことは、田中さんが生命の危機に陥ったことを示しています。また、その後、『エクソシストの状態』になったことは、田中さんがさらに生命の危機に陥ったことを示します」

 「怒りの状態」とは、ベッドの上であぐらをかき、誰かをにらみつけるような様子で意味不明の言葉を発する状態を指す。田中さんは、「怒りの状態」と、ぼーっとした表情になる「無表情の状態」を2〜3回繰り返した後、両目を大きく見開き、黒目を左右にギョロギョロ動かして白目をむき出しにする「エクソシストの状態」に陥った−と検察側は主張している。

検察官「被告の供述には、実際に体験した者でなければ分からない迫真性があります。『(映画の)エクソシストに出てくる女の子のような』『(映画の)呪怨(じゅおん)に出てくる男の子のような』という表現は、(実際に異変を目撃した)被告でなければ思いつきません」

 検察側は、無表情で一点をにらみつけ、のどの奥から「うーっ」とうなり声を上げるという田中さんの症状を、「呪怨の状態」と名付けて説明していた。検察側が証拠提出した押尾被告の供述調書などによると、押尾被告は田中さんに起きた一連の異変を、映画の登場人物を挙げてたとえたとされるが、押尾被告は被告人質問で、「検事に映画を見せられ、似ている場面を指させと言われた」と、検察官の誘導があったと主張している。

検察官「被告は田中さんの容体の変化について、△△さん(法廷では実名)や□□さん(同)にも、同様の説明をしています」

 △△さんは押尾被告の元マネジャーで、事件当日に田中さんの携帯電話をマンション近くの植え込みに隠したとして、証拠隠滅罪で略式起訴され、罰金刑が確定している。□□さんは元チーフ・マネジャー。事件当日、押尾被告から田中さんの異変を知らせる電話を受けた2人は、現場マンションに駆けつけていた。

検察官「(被告が供述した田中さんの容体変化は)医学的見地から見ても、不自然ではありません。被告は田中さんとドラッグセックスをしていたのであり、田中さんの症状はMDMA中毒であり、田中さんは病者であると認識していました」

 押尾被告は、「田中さんが死亡するとは思わなかった」と主張しているが、検察官は「田中さんの容体変化は一度だけではなく、繰り返されています」として、被告が田中さんを病人と認識できたはずだと指摘した。続いて検察官は、119番通報についても言及した。

検察官「現場の2307号室は当時、被告がもっぱら使用していた部屋で、被告が誰かを呼ばなければ人は来ません」

 男性検察官は、裁判官席側の裁判員を見渡し、「被告には保護責任が発生します」と述べた。

検察官「弁護側は『2人が服用したMDMAは田中さんが持ってきたものだ』と主張しますが、そもそもMDMAは被告が田中さんに譲り渡したものであることは明らかです。また、2人はセックスの快楽を得るためにMDMAを使用したのであり、誰がMDMAを持ってきたかというのは、保護責任の成立を左右しません」

 検察官は「田中さんの死亡時刻は8月2日午後6時47分ごろから53分ごろです」と続けた。

検察官「6時32分から45分にかけて、被告は知人らに『女性の意識がない』と電話をしており、『死んだ』というような発言はしていません。6時45分以降に、知人らへ掛けた電話では『死んじゃってる』などと話していました。被告は6時47分ごろから53分ごろにかけて心臓マッサージや人工呼吸を行ったとみられ、田中さんの胸骨骨折の状況から、この間に死亡したとみられます。被告は6時43分から45分の電話で、Bさんから『できる限りのことをしなさい』と言われ、この後に心臓マッサージなどをしたとみられます」

 Bさんは元国会議員で、スポーツクラブで押尾被告と知り合ったという。公判でも証人として出廷し、田中さんの異変を知らせる連絡を押尾被告から受けた際に「119番通報をするよう何度も言ったが、押尾被告は『マネジャーがまだ来ていないので』などと言うだけだった」と証言していた。

検察官「田中さんの胸骨骨折の出血は軽微で、解剖医はこの直後に死亡したか、すでに死亡していたと指摘しています」

 男性検察官は「以上のことから、6時47分ごろから53分ごろに死亡したと考えるのが合理的です」と結論をまとめた。また、田中さんの救命可能性についても言及した。

検察官「MDMA中毒で肺水腫になってから死亡する場合、周囲が異変に気づく状況となってから死亡までに最低30分かかります。数分で死亡することは考えられません」

 「田中さんの異変から死亡までは長くて30分しかなく、急死だった」とする、弁護側の主張を否定した。

検察官「田中さんは119番通報以外で救命できる状態ではなかったのに、被告は仕事を失うことや、子供と会えなくなることを恐れ、119番通報をしませんでした。被告が119番通報をしなかったことは明らかに不保護にあたります。被告の手元には携帯電話があり、救命活動をしながらも通報することはできました」

 男性検察官は力強い口調でこう続けた。

検察官「田中さんの状態からみれば、被告が第一にすべきだったのは119番通報以外にはありませんでした」

 裁判員らは手元の資料をめくりながら、時折うなずいている。

⇒(3)「自己保身のため見殺し」「反省の情は皆無」検察の厳しい言及に被告は背中丸め