Free Space

(3)小室さんのピアノ聞き(弁済費用の)工面を決意

弁護人からの主尋問が終わり、女性検察官からの反対尋問に移った。

検察官「先ほど事件については報道で初めて知ったと証言されましたが」

証人「はい」

検察官「今回証人として出廷するにあたり、事件のことを何か詳しく聞きましたか」

証人「かなり報道で出ていたので、資料を全部読みました」

検察官「平成18年当時、証人は小室被告と交流はありましたか」

証人「ほぼありませんでした」

検察官「小室被告の財政が逼迫(ひっぱく)しているのは知っていましたか」

証人「はい」

検察官「当時、どう聞いていましたか」

証人「スタッフからお金に困っているという話を」

検察官「事件前後に、小室被告サイドから証人にお金を貸してほしいとの申し入れはありましたか」

証人「事件の前ですか」

検察官「ではまず、事件の前はどうですか」

証人「ありましたが、貸せるスタッフがいなかったのでやめました」

検察官「スタッフがいないとは」

証人「僕たちが信頼できるスタッフがいなかったということです」

検察官「小室被告本人が作曲をしていませんでしたか」

証人「はい」

検察官「あなたはどう思っていましたか」

証人「人間、お金に困るとクリエーティブなことはできなくなるので、当然だと思っていました」

検察官「当時小室被告が才能を発揮できない状況であることについて、証人が対応することはなかったのですか」

証人「僕が対応する理由がありませんでした。周りの環境が悪いことに対して何か言う立場ではありませんでしたので、黙ってみていました」

検察官「先ほどプライベートでも仲がいいという話がありましたが、本人に直接、注意やアドバイスをすることは」

証人「仲が良かったのは疎遠になる前です」

検察官「犯行前後はアドバイスするような関係ではなかったと」

証人「そうですね」

検察官「平成18年の犯行後、平成18年から20年の間に、お金を貸してほしいとの申し入れはありませんでしたか」

証人「犯行後?」

検察官「犯行は平成18年8月ごろなのですが、そのころから報道される平成20年11月までの間にお金を貸してほしいとの申し入れはありましたか」

証人「あったと思いますが、スタッフがあまりにも信用できなさそうな人だったので、お金を貸すことはありませんでした」

検察官「小室被告本人から直接申し入れることはありませんでしたか」

証人「ぼくには言いませんでしたが、スタッフからは言われました」

検察官「直接は言われていないのですか」

証人「はい」

検察官「この事件が公になるまでは、直に話ができなかったのですか」

証人「はい」

検察官「あなたからそこまでする必要はないと思っていたのですか」

証人「はい」

検察官「大きな事件になり、裁判になってからお金を貸そうとしたのはなぜ」

証人「スタッフが一掃され、僕たちがスタッフとして参加できることが分かったからです」

検察官「事件はすべて、周りの人間のせいだと思いますか」

証人「すべてとは言いませんが、僕たちと一緒に仕事できるタイプの人たちではありませんでした」

検察官「小室被告自身がそういう状況を作ったとは思いませんか」

証人「小室さんというネームバリューやお金に寄ってきた人たちのようにしか見えませんでした」

検察官「証人自身が変えようとすることはなかったのですか」

証人「そのような立場にはなかったので、口出しする権利もなかったのでしておりません」

検察官「保釈後、直接会ってお金を貸すことを決めたとのことですが、6億円は一般の人にとって大金。あなたにはポンと出せる財力があったのですか」

証人「工面いたしました」

検察官「最初に決意したのはいつですか」

証人「先ほど申し上げた通り、小室さんが朝までピアノを弾いているとき、これまでのことを回想しながら決意しました」

検察官「何月ごろか分かりますか」

証人「1カ月ほど…2カ月くらい前ですかね」

検察官「2カ月の間にお金を工面したのですか」

証人「はい」

検察官「お金は会社のお金ですか」

証人「いえ、私個人です」

検察官「すべて証人自身の財産ということですか」

証人「はい」

検察官「誠意を見せるにはまずお金を、と先ほど言われましたが」

証人「はい」

検察官「社会での経験はあなたは小室被告以上に持っていると思います。もめごとを起こしたとき、お金も必要ですが、他に思いつきませんか」

証人「それはあると思いますが、被害者に謝るとか。テレビでもあれだけ報道されて社会的にも制裁を受けていると思いましたし、お金で始まっているので、お金を返すことがまず第一と考えました」

検察官「報道では被害者に対しても批判的な言動をする者もいましたよね」

証人「そうですか」

検察官「今回のことがなければ被害者はそういう思いをせずにすんだのではないですか」

証人「はい」

検察官「謝罪はされましたか」

証人「僕がですか」

検察官「小室被告でもいいです」

証人「今後も引き続き謝罪したいと思います」

検察官「小室被告がですか」

証人「僕も小室さんもです」

検察官「まずはお金を払って、それから謝罪ですか」

証人「お金を払えばいいとは思っていません。小室さんも謝罪していますし、まずはお金をと考えました」

検察官「あなたは小室被告が謝罪していると聞いたのですか」

証人「聞いています」

検察官「証人自身は特に被害者に一緒に謝ったことはありますか」

証人「僕はしておりません」

検察官「私からは以上です」

男性検察官が交代して尋問を始めた。小室被告は沈痛な表情で、証人の足下付近を見つめたまま身動きをしなかった。

検察官「被害者に対して手紙を書くとか謝罪した事実はありますか」

証人「僕ですか」

検察官「ではまず証人」

証人「僕は知りません」

検察官「ないということですね。小室被告が謝罪をした事実があるか、把握していますか」

証人「手紙は送っていないと思います。逆に、僕が聞いたのは、小室さんが被害者に裁判中にそういう形で会ったりすることは良くないことではないかと思っていたようです」

検察官「先方にも弁護人がついていますが、その後誠意を見せることは、あなたは監督者として考えたいですか」

証人「はい」

検察官「以上です」

裁判長「弁護人から何かありますか」

弁護人「証人の考えとしても、小室さんの方できちんと謝罪をするし、許しを請うようにしかるべき努力をするべきという考えだということでいいのですか」

証人「そうです」

裁判官からの質問に移る。小室被告はじっとしたまま、表情は変わらない。

裁判官「かなりの大金を貸したことになりますが、小室被告の経済状況をどう把握されていますか」

証人「小室さんの経済状況ですか。把握…」

裁判官「逼迫していますか」

証人「はい」

裁判官「返済の方法はどう考えていますか」

証人「昔のように、僕と千葉(副社長)と小室さんがタッグを組んで、新しいアーティストを発掘して世の中に出していきます。小室さんが活躍できる場所と環境を提供します」

裁判官「小室被告の経済状態を圧迫するような返済は求めませんか」

証人「はい」

裁判長「事件当時、エイベックスにも小室被告は7億円の負債がありました」

証人「はい」

裁判長「二重譲渡は806曲のうち793曲の著作権をお持ちですが、7億円の債務はどうしますか」

証人「原盤制作の前払いなので、楽曲制作によって償却します」

裁判長「もともとプロデュース契約で1億円だったということですが、CD制作を小室被告がしなかったので、7億円の負債になったのですか」

証人「はい」

裁判長「CDを作らなかったのは、小室被告の才能が枯渇したわけではないのですか」

証人「枯渇というより、経済が逼迫していればクリエイティブな仕事をするのはお金に追われていればできません。自分にも経験がありますが、小室さんも同じだと思いました」

裁判長「証人もアーティストだったのですか」

証人「金銭的に困っていた時期はありました」

裁判長「7億円の前の契約は残っているのですか」

証人「はい」

裁判長「小室被告の活動で解消するということですか」

証人「はい」

裁判長「793曲の著作権についてはエイベックスも被害者ですが」

証人「戻してもらえるように交渉しています」

裁判長「著作権は維持したいという考えですか」

証人「はい」

裁判長「原盤制作の前渡し金とはどういうこと」

証人「小室さんのギャランティーを500万円とすると、数百曲分で、一時1年間に数百曲以上作っていたので当時は妥当な額でした」

裁判長「小室被告は裁判中に楽曲を作っていますか」

証人「保釈されてから何曲か作っています」

裁判長「証人の目からみて使い物になりますか」

証人「非常に期待しております」

⇒(4)居候先の副社長証言「周囲に『よろしくない人たち』がはびこった」