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(2)明かされる遺体や傷の状況… うつろな瞳で聞き入る被告

加藤智大(ともひろ)被告(27)の犯行による被害者の傷の状況に関する証拠調べが続いている。村山浩昭裁判長ら3人の裁判官と、検察官、弁護人席に置かれたモニターには写真などが示されているが、傍聴席から見える大型モニターには、何も映し出されていない。

右胸を刺されて死亡したEさんに関する証拠の読み上げが始まった。加藤被告はうつろな瞳で、検察官を見つめている。

検察官「…その傷は、幅6センチ、前の右から後ろ側へ、深さは11・2センチ。肝臓や大静脈を貫通し、副腎なども損傷していました…。長さ11・2センチか、それ以上の刃物により形成されたと…」

ここで、遺体の写真がモニターに示されたようだ。計2枚。村山裁判長らは、厳しい表情でモニターに見入っている。

検察官「東京都文京区湯島の、東京医科歯科大学付属病院の医師に問い合わせた結果、Eさんの死亡が確認されたのは、平成20年6月8日の午後4時30分です」

8人目の被害者・Fさんは、後ろから背中を刺された。自ら携帯で「刺された、背中を刺された、息苦しい」と119番通報。その後、搬送先の病院で亡くなっている。

検察官「(Fさんの)傷は幅4・8センチ、左後ろから右前下方に向かって深さは10・9センチ。左肺を損傷しており、それが致命傷です」

「遺体の刺創部分の写真を1枚、示します…」

Fさんに続いては、胸を刺され、全治6カ月の重傷を負った△△さん(法廷では実名)、背中を刺されて全治3カ月だった○○さん(同)、腹を刺され全治3カ月のGさん…。検察官は淡々とした口調で、被害者の負傷状況の説明を続けていった。

検察官「(△△さんの傷は)右肺と横隔膜を貫通し、肝臓にまで達していました。胸腔内に血がたまり、血気胸になっていました…」

「(○○さんは)15分間は心肺停止状態で、蘇生(そせい)術を実施し、心肺再開後に開胸手術を行い…」

「(Gさんは)入通院中は精神科医によるケアを実施しています」

深刻な後遺症に苦しむ被害者の実状も明らかにされた。後ろから腰を刺されたHさんだ。

検察官「神経を包んでいる硬膜を損傷し、脳脊髄(せきずい)液が漏れ出ております…断裂された神経は再生せず…」

「負傷により、下肢まひが完治せず、排尿や排泄(はいせつ)には、おしめが必要です。装具なしには歩行できません。重篤な後遺症が残存するとしています」

日常生活に大きな影を落とすケガを負った被害者たち。加藤被告は背筋を伸ばし、証拠を読み上げる検察官を見つめている。

検察官は重軽傷を負った被害者2人や、亡くなった松井満さん=当時(33)=の負傷の状況などの読み上げに移っていく。

検察官「松井満さんの司法解剖の結果です。腹部刺創による動脈の切断…。傷は約6センチで、6センチ以上の刃器によるものとみられます。次にご遺体の腹部の状況を示します」

検察官は裁判官らのモニターに遺体の傷の状況を映し出す。傍聴席に向けて設置された大型モニターの電源は切られたままで、映像を見ることはできない。

検察官「松井さんが搬送された病院によると、松井さんの死亡確認は平成20年6月8日午後5時32分でした」

加藤被告は身じろぎせず検察官の方へ視線を送っている。表情は変わらないが、せわしなく瞬きを繰り返した。引き続き、検察官は全治約2カ月のケガを負ったIさんの診断などを読み上げた。

検察官「次に(亡くなった)Jさんの司法解剖の結果です。死因は前胸部の刺創です。傷跡は約12・5センチ、深さは約9センチで刃器によるものです。Jさんのご遺体の傷口の部分の写真を示します」

裁判官3人はモニターに鋭い視線を送っている。

検察官「Jさんは、搬送された病院で死亡が確認されました」

「次に、被害者のKさんの状況です。最初に治療を受けた病院の診断では左背部刺創…」

背後から加藤被告に刺されたKさんが、病院で診察を受けた際のCT画像や傷口の画像が小型モニターに映し出されているようだ。弁護側の長いすに座った加藤被告は、自身の前にモニターが設置されておらず、前をじっと見たまま微動だにしない。

検察官「Kさんが(平成20年)6月20日に退院した後、転院した病院で6月24日に初診を受けました。7月には右腎臓の損傷も完治し、8月6日にはそのほかの傷もほぼ完治しており、全治まで約2カ月間だったといえます」

Kさんの被害状況についての説明に続き、男性検察官は、加藤被告が犯行時に使用したダガーナイフに付着した血液などの鑑定結果について、報告書の説明を始める。

検察官「被害者のEさん、JさんのDNAと比較した結果、2人のDNA型を含んだ血液が付着していました」

証拠の読み上げを終え、男性検察官はゆっくりとその場に座った。読み上げられた証拠を受け取った村山浩昭裁判長は、分厚い資料にざっと目を通して確認する。

裁判長「今日の書証の読み上げは終了でいいですか」

村山裁判長は証拠調べの終了を確認した上で、午前11時10分まで休廷をはさみ、目撃者の証人尋問を行うことを告げた。加藤被告はいち早く、すっと立ち上がると左手の刑務官側を向き、手錠を付けるために素早く両手を差し出した。腰縄もされて退廷する際、傍聴席に青白い顔を向け、軽く一礼し、法廷を後にした。

⇒(3)「人がトラックにひかれ転がり…」 衝立の向こうで語られる生々しい証言