Free Space

(1)見えてはいけない映像が傍聴席に丸見え? 急にモニターずらす弁護人

東京・秋葉原の無差別殺傷事件で殺人罪などに問われた加藤智大(ともひろ)被告(27)の第3回公判が5日午前9時59分、東京地裁で始まった。

前回公判では、事件の目撃者が証人尋問に立ち、当時の様子を「真っ赤な血の海が…」「戦場そのものだった」などと生々しく語った。今回も、検察側の証拠調べ後、平成20年6月8日の事件当日に秋葉原にいて事件を目撃した男性に対する証人尋問が行われる予定だ。証人の希望で、加藤被告と顔を合わせることがないよう、遮蔽(しゃへい)措置が取られることになっている。証人は、事件について何を語るのか。

午前9時58分、東京地裁104号法廷。職員が「傍聴人はすべて入廷しました」と告げた。

ほどなくして、向かって左側の扉が開き、加藤被告が入廷してくる。これまでの公判同様、黒いスーツに白いシャツ姿。いつものように傍聴席近くで被害者や遺族らが座っている方向に向け一礼し、被告席に着くと村山浩昭裁判長の方にも軽く一礼した。

加藤被告が座った長いすの前には、テーブルがあり、紙とボールペンが置かれている。加藤被告がメモを取るために用意されたようだ。

村山裁判長が、自分の腕時計を見た。時刻は午前9時59分だ。

裁判長「若干早いですが、開始しましょう」

こう告げた村山裁判長は、まず、公判進行上の手続きについて、いくつかの説明を始めた。どうやら、検察側の証拠に誤記があったため、改めて証拠を提出し直すようだ。

通常、公判前整理手続き終了後に、新しい証拠が出されることは少ないが、検察官によると、誤記によって、ほかの証拠類と矛盾が生じてしまうという。村山裁判長は、弁護側に証拠採用に異議があるか尋ねた後、「では採用します」と告げた。

ここから、予定されていた証拠調べに入った。村山裁判長らのやりとりを、加藤被告は軽く背中を丸めながら聞いている。

検察官「では、甲号証の取り調べに入ります。本日は、被告に襲われてお亡くなりになった方々、けがをされた方々の被害の状況について説明します」

「ご遺体の写真や、けがをされた方の写真がありますので、大型モニターの電源を落とさせていただきます」

検察官はこう告げると、手元の書類に視線を落とした。

検察官「まず、中村勝彦さんの司法解剖の経過からです」

最初に説明するのは、加藤被告が運転するレンタカーのトラックにはねられて殺害された中村勝彦さん=当時(74)=の被害の状況だ。

検察官「死因は右肺臓挫傷、胸部大動脈破裂および肝破裂でした」

その後、細かく被害の状況を説明する検察官。

検察官「では、ご遺体の写真を示します」

法廷内の大型モニターは真っ暗なままだが、裁判官や検察官、弁護人、加藤被告の前にあるモニターには遺体の写真が映っているようだ。加藤被告は、表情こそ変えないものの、瞬きが早くなった。

検察官「次に被害者Aさんの証拠について…」

続いて、中村さんと同様、加藤被告の運転するトラックにはねられ殺害されたAさん、川口隆裕さん=当時(19)=の傷の状況について説明していく。

検察官「次は被害者Dさん…」

検察官がトラックから降りた加藤被告に、ダガーナイフで背中を刺されたDさんのけがの説明をしている最中、別の男性検察官が、なにやら体を動かし始めた。その体の動きはどんどん大きくなり、ついには、軽く立ち上がりかけるまでに。どうも、向かい合っている弁護人の方に合図を送っているようだ。

検察官の動きに気付いた弁護人が、急に手元のモニターの角度を変えた。モニターは、傍聴席に見えないよう、角度をつけておかれているが、どうやらその角度が甘く、傍聴席からモニターが見えるのを懸念した検察官が、見えないように措置するよう、合図を送っていたようだ。

加藤被告はそんな出来事を特に気にする様子もなく、モニターをじっと見つめている。

⇒(2)明かされる遺体や傷の状況… うつろな瞳で聞き入る被告