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(4)「背中を刺された。息苦しい」…被害者の“声”にも被告は無表情

加藤智大(ともひろ)被告(27)は秋葉原無差別殺傷事件に使ったダガーナイフ以外にも、複数のナイフを所持していた。検察官は、それを一本一本、本人に示して確認していく。

検察官「続いて折りたたみナイフを示します」

検察官が透明のプラスチックケースに収められたナイフを加藤被告に向けて掲げる。

検察官「このナイフに見覚えがありますか」

加藤被告「はい」

加藤被告は消え入りそうな小さな声で答えた。

検察官「事件当時、このナイフは、あなたが着ていたジャケットの内ポケットに入っていたということでよろしいですね」

加藤被告「はい」

検察官「続いてユーティリティーナイフを鞘と一緒に示します。ナイフも鞘も見覚えがありますね」

加藤被告「はい」

検察官「現場では靴下の中に入れて所持していましたね」

加藤被告「はい」

検察官「あなたの物ということで間違いないですね」

加藤被告「はい」

検察官はさらに加藤被告が、トラックの中に置き残したナイフ2本を示す。検察官が、加藤被告がナイフの所有者だということを確認すると、加藤被告は無表情で「はい」とのみ答える。

検察官「これまで示したナイフと鞘は、あなたが所有権を放棄して、検察庁に処分を任せるということでよろしいですか」

加藤被告「はい」

続けて村山浩昭裁判長ら裁判官3人が、プラスチックケースに入ったナイフ5本を順番に手に取り、丹念に眺めた。

ここで検察官は、加藤被告のトラックが秋葉原の交差点に突入した直後、交差点へ向かっていった被害者のEさん、Fさんの様子などをモニターに映し出すと宣言する。

2人は加藤被告に刺され、死亡した被害者で、現場近くの防犯カメラで撮影された映像とみられる。しかし、法廷の大型モニターの電源は落とされているため、傍聴席からは見えない。裁判官、検察官、弁護人それぞれの席に設置された小型モニターにのみ映像が映し出されているようだ。

検察官「平成20年6月8日、午前11時からEさんの状況を写したものです。右側の赤い矢印で示されているのがEさんです」

映像には、Eさんが大型家電店の出入り口から出たり入ったりするなどしている姿が写っているようだ。

検察官「続いて店外に設置されていた防犯カメラの映像を示します」

大型モニターの電源は落とされたままで、法廷内は水を打ったような静けさに包まれている。

小型モニターの映像にはEさんとFさんが、現場交差点に突入した加藤被告のトラックを見て驚いている様子や、交差点方向に向かっている姿などが映し出されているようだ。

検察官「これまで示したのが(加藤被告のトラックが秋葉原の交差点に突っ込んだ直後の)午後0時33分30秒ごろまでの映像です」

ここで再び、証拠書類の調べに戻る。

検察官「次に(加藤被告に刺された)Fさんが平成20年6月8日午後0時30分ごろにした119番通報の内容を明らかにしたものを示します」

「『刺された、背中をナイフで刺された。○○電機(秋葉原の電機店の実名)の近く。私が刺された。息苦しい』」

生々しいFさんの声が読み上げられる。Fさんはその後、失血死している。息をのんで検察官の読み上げを聞いている傍聴人たち。しかし、加藤被告は相変わらず無表情で前方を見つめたままだ。

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