(2)「白っぽい上着の男に注目してください」再現される被告の行動
検察側の証拠調べは、亡くなった中村勝彦さん=当時(74)=や川口隆裕さん=当時(19)=ら3人が、加藤智大(ともひろ)被告(27)のトラックにはねられた状況に触れていく。検察側は、法廷に設置された大型モニターに証拠品を映し出しながら、ゆっくりとした口調で説明してきたが、途中から、証拠となる画像に被害者が写っているためか、大型モニターの電源を切った。傍聴席には、画像が示されないまま検察官の説明が続く。
検察官「トラックが(事件現場の交差点)中央に移動しました。トラックの後方に川口さんが倒れている姿が確認できます。直後の画像では、交差点内に川口さん、横断歩道上にAさん、Fさん、Gさんが倒れている姿が確認できます」
Fさん、Gさんはトラックにひかれたのではなく、加藤被告に切りつけられた被害者だ。画像が別の防犯カメラで撮影されたものに移ったようだ。撮影されたのは、平成20年6月8日午後0時33分30秒だ。
検察官「中央やや上の丸印にトラックが止まっています」
傍聴席からは見えないが、裁判官席などの小型モニターでは、そのときの防犯カメラの画像が拡大されているようだ。
検察官「1と書かれた矢印の先に、白っぽい上着の男が見えます。Vの矢印の先に写っているのがDさんです」
Dさんは、トラックから降りた加藤被告にダガーナイフで背後から刺された被害者だ。画像が秒単位で切り替えられているようだ。弁護人席前に座っている加藤被告には、モニターの映像は見えていないようだが、検察側が続ける説明を微動だにせず聞き入っている。
検察官「白っぽい上着の男やDさん、同伴者の女性が写っています。直後の画像では、同伴者の女性がDさんを抱えている様子が確認できます」
画像はDさんが女性に支えられて歩いている姿に変わったようだ。しかし、大型モニターは消えているため、傍聴席からは見えない。さらにその後の画像に移っていく。
検察官「Dさんが女性に支えられて、外神田3丁目交差点に歩いている姿が確認できます」
検察側の冒頭陳述などでは、Dさんは、トラックから降りた加藤被告にダガーナイフで背後から刺され、全治半年の重傷を負ったという。刺された直後、息苦しさのあまり歩道上に座り込んだDさん。突然の惨劇がDさんやこの女性に与えた影響はいかほどだっただろうか。次は、はねられた被害者の救護に駆けつけ、刺されたという○○さん(法廷では実名)が路面に倒れるなどした状況の説明に入る。
検察官「画像は(平成20年6月8日の)午後0時33分43秒です。中村さん、△△さん(法廷では実名)、○○さん、Gさんの姿が確認できます。あとでビデオを再生するときに、このところを注目してください」
大型モニターは引き続き消されたままだ。傍聴席から防犯カメラの画像は確認できないが、次々に切り替わっているようだ。
検察官「男が交差点中央に向かいます。男が○○さんのすぐ近くにまで接近しているのが分かります」
画面には、加藤被告が、さらにGさん、Hさんに次々と接近する姿が映しだされているようだ。△△さんや○○さんが倒れている姿も映し出されているようだ。さらに続く画像には、亡くなった松井満さん=当時(33)=も映し出されているようだ。
検察官「目撃者が撮影したデジタル写真では、松井さんがカラーコーンを抱えて座っています。時間は午後0時34分19秒。防犯カメラの映像でも、しゃがんでいる人がいますが、松井さんと確認しました」
続いて、甲127号証、ソフマップ秋葉原本館の防犯カメラの解析を行った捜査報告書について、検察官が説明する。時間が進むに連れ、加藤被告の背中が徐々に丸まってきた。
検察官「防犯カメラで写した映像を写真95枚にし、午後0時33分00秒から0時33分59秒までを64枚の写真で順次、映していきます」
画像が、1枚3秒間隔でスライドショーのように映し出されているようだ。3人の裁判官は、それぞれの目の前に設置された小型のモニターを食い入るように見ている。村山浩昭裁判長はあごに手を当てて、考え込むように目線をモニターに送る。
検察官「午後0時33分43秒。左に白っぽい上着の男が映ります。このあと33分59秒まで3秒間隔で映していきますので、白っぽい上着の男に注目してください」
白っぽい上着の男とは、加藤被告のことのようだ。検察官はここまで防犯カメラの画像を写真形式で説明してきたが、ここからはビデオテープを流しながら、説明するという。映像には被害者の様子が含まれているため、大型モニターは依然として消されたまま。傍聴席では、裁判の進捗(しんちょく)状況がよく分からないためか、厳しい表情になる人が目立ち始めた。説明を続ける男性検察官は、緑色の封筒からビデオテープを取り出し、デッキに入れた。