(8)高校入学最初の試験「ビリから2番目」 車買う約束反故で進学拒否
東京・秋葉原の無差別殺傷事件で殺人罪などに問われた加藤智大(ともひろ)被告(27)。1時間半の休憩を挟み、午後1時半から弁護側の被告人質問が再開された。
白いシャツに黒いスーツ姿の加藤被告が入廷。傍聴席に一礼し、弁護側の前に座ると、村山浩昭裁判長が再開を告げた。
裁判長「では、午後の審理を始めます。引き続き被告人質問を行います。被告人は証言台の前の席に座ってください」
証言台の前の席に座る加藤被告。小さな声で弁護人と何か話している。
女性弁護人が、質問を始めた。
弁護人「中学生までのことを聞いてきたので、高校からのことを聞きたいと思います」
進学校だという青森高校に進学した加藤被告。
弁護人「青森高校に合格してうれしかったですか」
加藤被告「特にうれしいとは思いませんでした」
弁護人「母親は喜びましたか」
加藤被告「喜んでいたようです」
弁護人「ほめてくれたりはしましたか」
加藤被告「覚えていません」
弁護人「入学してからの成績はどうでしたか」
加藤被告「最初の試験はビリから2番目でした」
弁護人「中学ではトップクラスだったのに成績が下がったのはどうしてですか」
加藤被告「単純に勉強しなかったからです。そもそも、勉強が好きではなかったし、一定の母親の要求に応えたのでもういいだろうと思いました」
弁護人「成績が下がったのはショックでしたか」
加藤被告「ショックというわけではないですが、まずいなと思いました」
その後、加藤被告は、勉強をして成績を100番巻き返し、真ん中より下まで上げたという。
弁護人「がんばって成績を上げた後の母親の反応はどうでしたか」
加藤被告「特にありませんでした」
弁護人「下がったときはどうでしたか」
加藤被告「どうして勉強しないのかといわれてばかりいました」
加藤被告は背筋を伸ばし、ためらうことなく質問に答えていく。
弁護人「高校卒業後の進路はどうしようと思っていましたか」
加藤被告「当初は北大工学部を考えていましたが、せっかく青森高校に入ったから、自分のイメージだともっと現場に近いところに行こうと思いました」
しかし、大学に行くのをあきらめた加藤被告。その裏には、母親との“約束”があった。
弁護人「なぜ大学進学をあきらめたのですか」
加藤被告「中学のころ、母親に大学に行ったら、車を買ってあげるといわれていました」
被告は、言葉を選ぶように続けた。
加藤被告「母親に、北大から変更したいと言ったら、(自分が希望している大学は)ランクが少し下がる大学だったのですが、そんなとこなら車を買ってあげないといわれ、あてつけもあってやめました」
弁護人「どうして進学自体をやめたのですか」
加藤被告「そのことで、約束を反故(ほご)にした母親に対して、約束をちゃんと守ってほしい、ということを伝えるためです。あえて大学に行かないことを選びました」
弁護人「大学に行くのをやめたら自分の損になると思いませんでしたか」
加藤被告「全く考えませんでした」
質問は高校時代の友人関係に移った。
中学に続いて、高校でもソフトテニス部に入部した加藤被告。しかし、途中でやめてしまったという。
弁護人「なぜ途中で部活をやめたのですか」
加藤被告「もともと始めたくて始めたわけではなかったし、だらけた空気の中でやりがいを見いだせませんでした」
部活をやめた加藤被告は、大きな家に住む友人の家に入り浸るようになった。4人ほどが集まり、好きなことをして遊んでいたという。
弁護人「特に気の合う友人はできましたか」
加藤被告「青森から証人として来てくれた友人です」
弁護人「彼は被告に突然殴られたことがあると言っていました。なぜ殴ったのですか」
加藤被告「ゲームに対してケチをつける言動が彼にあった。口で言うことができずに殴ることで伝えたかった」
大学進学をやめたときと同じく、自分の気持ちを伝えられず突然行動に出た加藤被告。
弁護人「なぜ先に殴るという行動に出たのですか」
加藤被告「よく分かりませんが、自分のいつもの行動パターンのように思います」
弁護人は、高校時代の加藤被告の趣味についての質問に移った。
自動車が好きだった加藤被告は、高校2年から3年にかけて、カートにのめり込むようになった。
カートにかかるお金は、自分の昼食代をあてたり、友人から借金していたという。
弁護人「カートが上達したことで誰かに評価されましたか」
加藤被告「スタッフの方にうまくなったね、とほめてもらいました」
弁護人「そのとき、どう思いましたか」
加藤被告「すごく嬉しかったです。やりたくないことではなく、自分のやりたいことで努力して結果を出してほめられてすごく嬉しかったのを覚えています」
高校卒業後、加藤被告は自動車整備士の資格が取得できる短大への進学を決めた。
加藤被告の進路にこだわっていた母親は、短大への進学について何も言わなかったという。
弁護人「母親はなぜ何も言わなかったと思いますか」
加藤被告「もうあきらめたんだろうと思います」
弁護人「進学校で挫折したという見方をされるのをどう思いますか」
加藤被告「自分では挫折と思っていません。必死で勉強やってだめなら挫折かもしれないけれど」
高校時代は『挫折ではない』と繰り返す加藤被告。しかし、進学した短大でも、うまくはいかなかった。
弁護人「短大で自動車整備士の資格を取得しなかったのはなぜですか」
加藤被告「最初から取るつもりがなかったわけではないです。自分の奨学金が父親に振り込まれたのですが、父親が渡してくれなかったことへのアピールで、父になぜだろうと考えさせたかった。思い当たるふしがあって、関連づければ気づくだろうと思いました」
資格取得をやめる一方で、加藤被告はうまくやっていた寮の仲間との間にもトラブルを抱えることになり、卒業前に、寮を出ることになったという。
相部屋の友人のいびきがうるさく、アピールしようとした加藤被告が壁をたたいたところ、逆に仲間から無視されるようになったという。『いつものパターン』だ。
加藤被告「(いびきがうるさかった)彼が私の友人に声をかけるような形で無視が始まりました」
被告は、はっきりとした口調で続けた。
加藤被告「彼らのたむろしている部屋にエアガンを撃ち込んでやろうかと考えました」
弁護人「実際に撃ち込んだのですか」
加藤被告「撃ち込んでいません」
弁護人「分かってもらえないので行動したのですか」
加藤被告「はい」
弁護人「当時、エアガンを持っていたのですか」
加藤被告「はい」
弁護人「なぜエアガンを持っていたのですか」
加藤被告「寮の仲間とサバイバルゲームをするために持っていました」
寮の仲間ともうまくいかなくなり、資格取得もやめたことから、卒業寸前に寮も追い出された加藤被告。卒業できたものの、頼った先は、仙台の友人だった。