(2)「つぐないのため、すべて話す」 「掲示板の荒らしやめさせる」ことが動機
東京・秋葉原の無差別殺傷事件で殺人罪などに問われた加藤智大(ともひろ)被告(27)。青森県で行われた母親の証人尋問の読み上げが終わり、続いて父親への証人尋問内容の読み上げに移った。
仙台に単身赴任していた父親。加藤被告の短大入学を機にバイクを買ってあげたという。
裁判官「バイクが壊れ、被告から修理代を要求されたときに口ゲンカになり、それ以来、関係が疎遠になりました」
それでも短大卒業後、加藤被告が仙台に就職したので、妻が加藤被告のアパートを訪れるなど家族とは交流があったという。
裁判官「ある日、被告と連絡がつかなくなり、アパートに行くときれいに荷物が引き払われていました」
姿を消していた加藤被告が青森の自宅に戻ってきたのは平成18年の夏ごろだったという。
裁判官「妻から自宅に戻ったと連絡を受けました。被告は借金を抱えていました」
「音信不通だった被告が自宅に戻ってきてうれしかったので、借金の原因については聞きませんでした」
自宅に戻った加藤被告は大型免許を取得。運送会社への就職も決まったという。
裁判官「青森駅まで送ってくれたときに被告は『ばかでごめんね』と話しました。私は『ずっと自宅にいていいからね』と言いました」
その後、単身赴任を終えて青森の自宅に戻った父親だが、休みの日以外は、加藤被告と顔を合わせることはなかった。
19年5月、被告に『別れることになった』と離婚の話をしたのが、被告と顔を合わせた最後になったという。
19年8月に、妻が家を出るよりも早く、加藤被告は家を出ていったという。
加藤被告が家賃を滞納していると連絡を受けた父親がしばらく、代わりに家賃を払っていたが被告とは連絡が取れなかった。
裁判官「この事件が起こるまで、(被告は)青森の運送会社で働いていると思っていました」
「今回の事件は妻から聞き、青森署まで行きました。びっくりしてなぜなんだと思いました」
ショックを受けた父親。勤務先を休職した末に退職したという。
裁判官「私はなぜ、被告が事件を起こしたか分からない。でも、支える気持ちはあります。被告は裁判でありのままの気持ちを話してほしい」
被害者や遺族への謝罪の言葉で父親の証言は締めくくられ、裁判官は読み上げを終えた。
ここで、村山浩昭裁判長が弁護人による被告人質問の開始を告げた。
裁判長「それでは被告人質問を始めます」
加藤被告が法廷で話すのは1月28日の初公判以来だ。
初公判では、『せめてもの償いは、どうして今回の事件を起こしてしまったのかを明らかにすること。詳しい内容は後日説明します』と話した加藤被告。凶行に至った経緯をどう語るのか。
ゆっくりと席を立った加藤被告は、いつものように白いシャツに黒いスーツ姿で証言台の前に座った。
裁判長「言いたくないことがあれば言う必要はありません。答えるときは質問をよく聞いて、質問と答えが重ならないようにしてください」
裁判長の言葉に応じるように、加藤被告はマイクを自分の顔にゆっくりと近づけた。
弁護人「これから質問していきます。まず、どういう気持ちで裁判に臨んでいますか」
加藤被告「被害者の方、ご遺族の方に申し訳なく思っています。裁判についてですが、つぐないの意味がありますし、事件を起こした理由の真相を明らかにすべく、お話をすべてしようという思いで臨んでいます」
はっきりとした口調で淡々と話す加藤被告。
弁護人「なぜ話そうと思ったのですか」
加藤被告「私が起こした事件と同じような事件がまた起こらないように、参考になるようなことをお話できると思いました」
被告は身を固くして前方をじっと見つめている。
加藤被告「ある被害者の方が、反省したところで被害は回復しないと言っていました。それは分かっているけれど、それでも自分が今やるべきことをやろうと思いました」
弁護人「事件についての記憶がない部分がありますか」
加藤被告「はい」
一瞬、間をおいた後、被告が再び話し始めた。
加藤被告「どうしても思いだせない部分については今まで努力してきました。ご遺族の方や被害者の方、今まで裁判所に証人に来てくださった方にご迷惑、ご負担をかけて申し訳ないと思っています」
弁護人「これから生い立ちや事件の経過について聞いていきます。どういう気持ちで事件を起こしたのですか」
加藤被告「はい。私はインターネットの掲示板を使っていたのですが、自分のスレッドに私になりすます偽物や、荒らし行為を行う者がいたので、対処してほしいと掲示板の管理人に頼みました。(こうした人たちに)自分が事件を起こしたことを知らせたかった」
弁護人「どういう意味があるんですか」
加藤被告「私が事件を起こしたことで、私に対して嫌がらせをしたことを知って、事件に対して思い当たるふしがあると思ってほしかった。私が(荒らし行為や、なりすましを)本当にやめてほしかったことが伝わると思っていました」
被告は感情を出さないようにしているのか、淡々と話し続けている。
弁護人「復讐(ふくしゅう)しようと思ったのですか」
加藤被告「そういうことではないです。(荒らし行為や、なりすましを)やめてほしかったということを伝えるための手段です」
弁護人「秋葉原の事件を起こす前に、やめてほしいと伝えたことはありましたか」
加藤被告「はい。掲示板に事件をほのめかすことを書き込むことで、怒っているとアピールしたりしていました」
事件を起こした動機について、被告は淡々と語り続けている。