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(2)慈悲の心…「イチハシはない」断言した父の心中は?ち

英国人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=に対する殺人と強姦(ごうかん)致死、死体遺棄の罪に問われた無職、市橋達也被告(32)の裁判員裁判第5回公判は、リンゼイさんの父、ウィリアムさんへの男性弁護人による証人尋問が進んでいる。

年配の男性弁護人からの質問にウィリアムさんは英語で「はい。私は事実をはっきりすることを望むだけです」とはっきりした口調で答え、裁判官たちの前に座った女性通訳が一言一言、丁寧に日本語に翻訳していく。

弁護人「証人は、イギリスで無罪の報道を目にしたことはありますか」

ここで若い男性検察官が「異議あり」と立ち上がった。

検察官「必要のない質問です」

堀田真哉裁判長が弁護人に説明を求めた。

弁護人「証人の証言の信用性を確かめるための質問です」

検察官「信用性とどう関係するのですか」

弁護人「それをこれから確かめていくのです」

検察官「それに、証人を困惑させる質問でもあります」

双方、口調が厳しさを増す。堀田裁判長が「どの件についての信用性ですか」と割って入った。弁護人が「『証拠に基づいた審理を望む』との証言についてだ」と説明した。

ウィリアムさんは8日開かれた第4回公判で、「裁判長、裁判員の方々にはぜひ、証拠に基づいて判断してもらいたい」と語っていた。この発言を指しているのだろう。しかし、堀田裁判長は質問の仕方が適切でないと判断したのか、「質問を変えてください」と促した。

弁護人「証人は被害者遺族としてこの裁判に参加されていますね?」

証人「そうです」

ウィリアムさんは妻のジュリアさんとともに被害者参加制度に基づき、この裁判に初公判から出席し、検察官の後ろの席で法廷での一言一句に耳を傾け続けてきた。

弁護人「いまここで行われていることは、証拠に基づき、処罰を認定する手続きだと理解されていますか」

証人「私がここに来たのは、実際に娘に何が起きたのか究明するためです。処罰の認定は法の統治のもと、行われるべきで、私はそれを尊重します」

ウィリアムさんは、きっぱり断言するように述べた。傍聴席から向かって右から3番目の男性裁判員は証言を続けるウィリアムさんを、視線をそらすことなく見つめている。

弁護人「証人の母国、イギリスでは、死刑がないですね?」

証人「そうです」

弁護人「イギリスはヨーロッパ連合、すなわちEUに加盟していますね?」

証人「もちろんです」

ウィリアムさんは「なぜ、そんな質問を?」と言いたげに語気を強めた。

弁護人「EU加盟国はすべて死刑を廃止しています。その通りですね?」

証人「そう認識しています」

弁護人「最後に処罰意見について聞きます。前回、処罰意見について『家族で同じだ』とおっしゃりませんでしたか」

証人「そうです」

ウィリアムさんは、強調するようにもう一度「そうです」と繰り返した。

弁護人「最初、来日したとき、検察官に処罰意見は、あなたと奥さんや娘さんたちと違うとおっしゃっていませんでしたか」

証人「(在日英国)大使館で検察官にそう述べたことを覚えています。私は、はっきりと『この国での最高刑を要求します』と述べました。それが死刑なら当然それが適用されるべきと思う。妻と娘は検討の余地があるとしていました」

ジュリアさんはほおに手を当て、真剣なまなざしで証言を続ける夫を見つめている。

証人「私としては変える余地がない。EUとか質問なさいましたが、これはこの国で起きた犯罪です。今回の事件は、日本の法律で治められている日本で起きました。日本での最高刑を望む気持ちに変わりはありません」

きっぱりこう答えたウィリアムさんに弁護人が矢継ぎ早に質問する。

弁護人「奥さんと娘さんたちは終身刑を望んでいたのでは?」

証人「それは違います。(妻や娘は)当時、まだ事実を知らされていませんでした」

弁護人「最後になります。日本では和ということを大切にしているということをご存じですか」

通訳は「和」を「Harmony(ハーモニー)」と翻訳した。

証人「ハーモニーを尊重するのは、日本だけでなく、世界共通だと思います」

弁護人「日本では、慈悲と寛容の心を大切にしているのはご存じですか」

証人「聞いたことがあります」

こう述べた後、ウィリアムさんは語気を強めた。

証人「しかし、イチハシ(市橋被告)は聞いたことがない、と思います」

裁判長「他に尋問はありますか」

堀田裁判長はこう聞き、検察側にも質問がないか確認した上で、約20分間の休廷を告げた。

ウィリアムさんは「サンキュー」と述べ、証言台の席を立った。証言台の後ろの長いすに座っていた市橋被告はうなだれたような姿勢のまま動かなかった。

⇒(3)テコンドー学んだリンゼイさん 母「力の限り自分を守ろうと」