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(4)万引発覚で「別れてください」

弁護側に促され、時折、語尾を震わせながら、祐輔さんとの夫婦生活について詳述する歌織被告。日々エスカレートする祐輔さんの暴力に、歌織被告はやがて精神的にも追いつめられていったという。

弁護人「(祐輔さんに暴力をふるわれ)逃げようとは思わなかったのか?」

歌織被告「実際、何度か逃げようと思ったが、以前ほど逃げようと思えなくなっていた」

弁護人「なぜ?」

歌織被告「彼のどんどんエスカレートしていく(暴力や監視の)やり方をみていると、『どんなに(逃げようと)やっても無駄』という気持ちと、実家で父に言われた通り、『そういう人間と結婚してしまった自分のせいだ。自業自得だ』と思った。彼は暴力の後、優しくなる。彼の暴力や女性問題を見て見ぬふりをすることで、現実から逃げていた」

弁護人「祐輔さんは暴力をふるった後、どのように優しくなるのか?」

歌織被告「暴力の後は別人のように優しくなる。平成16年6月ごろ、彼の暴力が原因で私が全く左手が使えなくなったとき、普段は帰りが遅いのにわざわざ早く帰ってきて…。手の治療をしてくれたり…。『右手が使えるから大丈夫』と言っても、いろいろ世話をしてくれた」

これまで淡々と話していた歌織被告の声がうわずり、涙声になった。言葉は途切れ途切れに。

弁護人「その後、あなたの生活に変化はあったか?」

歌織被告「いつごろからかは分からないが、夜になり彼が帰ってくると思うと、怖くなって眠れなくなった。平成16年秋ごろからは(精神)安定剤や睡眠剤、飲めないお酒を飲んで自分の中から怖い時間を消そうとした」

弁護人「あなたは平成17年に、万引事件を起こしている。この時、祐輔さんには何と言ったのか?」

歌織被告「『申し訳ないことをした』と謝り、『別れてください』と言った」

弁護人「それに対して祐輔さんは?」

歌織被告「当時、彼は○○(外資系金融会社)に転職することが決まっており、『これから生活が安定するというときに、何でこんなことをしたんだ。自分も暴力ふるわないから、お前も酒を飲むのをやめてくれ』と言われた」

弁護人「それに対して、どう思った?」

歌織被告「今までの彼に感じたこともないような心からの謝罪を感じ、(許すのは)本当にこれで最後だと思った」

謝罪の言葉通り、祐輔さんからの暴力はいったんなくなるが、その後、歌織被告が祐輔さんの消費者金融の契約書を見つけたことから口論に発展し、再び暴力をふるわれたという。歌織被告は、暴力とともにエスカレートしていった祐輔さんの監視行為についても詳しく話した。

弁護人「監視とは具体的にどんなことをされたのか?」

歌織被告「朝はその日1日の予定についてのチェックはもちろん、『何で働いてもいないのに化粧をするんだ。お前は(今日は)出かけないと言っていたが、本当はどこかに出かけるんじゃないか』と言われた。また、通っていたスポーツクラブの更衣室が(携帯電話の)圏外で、『何でひまな主婦が、昼の2、3時間、携帯がつながらないんだ』と留守電がいっぱいになるぐらい電話をかけてきた。説明したが、彼が帰宅してから暴力をふるわれた」

祐輔さんから過剰な監視を受けていたと話す歌織被告。平成17年6月には、歌織被告のメールをきっかけに、激しい暴力をふるわれたという。

弁護人「暴力のきっかけは?」

歌織被告「私がメールをしていたこと」

弁護人「誰と?」

歌織被告「彼の暴力について、家族問題を扱うサイトにメールしていた。彼の帰宅後、私のメールの着信音が鳴ったら、(祐輔さんは)靴のまま(自宅に)上がってきて、『おまえも浮気してたんだな』と私の顔だけめがけ、何度も殴ってきた。明らかに私の顔の形が変わっても彼は殴ることをやめず、私は鍵のかかる洗面所に逃げたが、(祐輔さんが)入ってきて殴られた。その後、(マンションの)非常階段に逃げたが、追いかけてきた」

弁護人「その時、祐輔さんに何と言われたのか?」

歌織被告「『おまえをぶっ殺してやるから、絶対逃さないぞ』と言われた」

証言する歌織被告は淡々とした様子に戻っていた。

⇒(5)服も下着も脱がされ…「あの晩の暴力は顔に集中」