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(10)お互いを「ダディ」「マミィ」と呼び合った

弁護側の歌織被告への質問が続く。冷え切った祐輔さんとの夫婦関係を語る歌織被告は当時を思い出したのか、時折涙声になった。

弁護人「平成18年9月ごろに消費者金融への返済が始まって、祐輔さんの暴力が増えたということだが、当時祐輔さんが帰宅する前に心がけていたことは」

歌織被告「(祐輔さんが)帰宅してから暴力が始まると危ないので刃物を隠したり、縛られることもあったのでひも類やタオルを隠すようにした。あとは帰宅する前に下着の中に逃げるためのお金や携帯電話を隠したりして、帰宅前に(祐輔さんに)電話してどれぐらい酔っぱらっているのを確認した。あとは週末の土日は離婚の話をしないよう心がけていた」

弁護人「週末に離婚の話をしないようにしたのはなぜか」

歌織被告「離婚の話をすると、一番暴力がひどくなって、そうなると彼の友人を呼んでごまかされたりするので、離婚の話をしないようしていた」

弁護人「この頃、お互いをどう呼んでいたのか」

歌織被告「『ダディ』と『マミィ』と呼んでいた」

弁護人「それはいつごろから」

歌織被告「私がシェルターを出て間もないころから」

弁護人「どうしてそう呼んでいたのか」

歌織被告「シェルターを出て間もないころから、私は彼に自分の歌織という名前を呼ばれるだけで、今まで彼から受けた暴力を思い出したりした。怖くて怖くて仕方がなかった。彼に本当のことは言えなかったので、飼っていた犬の父親と母親ということを口実に彼に私の名前を呼ばせないようにした」

お互いを名前で呼ばない冷え切った夫婦関係を話す間、歌織被告は涙声になった。手に握りしめたピンク色のハンカチで涙をぬぐう様子も見られた。

弁護人「このころどういう気持ちで毎日を過ごしていたか」

歌織被告「彼以外の人も彼と同じようにしか見えなくて…。みんな怖いし、何も信じられない。夜になればなるほど、彼が帰ってくると思ってまったく寝られなかった」

弁護人「その後、18年11月22日に恵比寿のホテルで話し合いをしているが」

歌織被告「はい」

弁護人「誰と話し合いをしたか」

歌織被告「私と私の母、叔母の3人」

弁護人「どうして3人なのか」

歌織被告「彼の実家のご両親に電話をしてなんとか離婚に応じてくれるよう彼を説得してもらおうとしていること、彼の会社に電話して、離婚に応じるよう彼を説得し、家の名義を私の名義に変えるよう話そうとしていることを(母と叔母に)相談した」

弁護人「祐輔さんの両親に電話するのはどうなったか」

歌織被告「電話するのは母と叔母に止められた」

弁護人「会社への電話は」

歌織被告「会社には電話して、代表からセキュリティーにつながれた。(私は)給料の引き落とし口座を教えてほしいと言った」

弁護人「それでどうなったのか」

歌織被告「身元確認のため折り返し連絡するということで、(その後)人事の方から電話があったが、業務時間が午後5時までということで途中で切られた」

弁護人「それで」

歌織被告「やり取りを見ていた母と叔母が『いくら言っても無駄』と言われた」

弁護人「ボーナスを折半して別れると祐輔さんが言ったとあなたのお母さんが法廷で言っていたが、本当に言ったのか」

歌織被告「言っていない」

弁護人「誰が言ったのか」

歌織被告「母と叔母がホテルで」

弁護人「何と言ったのか」

歌織被告「(母と叔母が)ボーナスがもうすぐ出ることを知って、『両親や会社に連絡するよりももう少し我慢する方が賢い』と言った」

弁護人「ボーナスが出たらどうしろと言ったのか」

歌織被告「『ボーナスを折半して別れた方が賢い』と」

弁護人「あなたはそれで納得したのか」

歌織被告「納得していない。その場で母に頼んで父の知人の弁護士に連絡を取ってもらった。そしてとにかく離婚の話をしたいので、早く帰ってきてほしいと彼(祐輔さん)に電話した」

弁護人「祐輔さんは何と言ったのか」

歌織被告「(祐輔さんの)回りに人もいたからか、冷静に『分かった』と」

弁護人「祐輔さんが帰ってきてから離婚に応じさせるつもりだったのか」

歌織被告「はい」

弁護人「離婚の話はできた」

歌織被告「できなかった。彼が帰宅した時点では話を切り出したが、離婚の話ではなく、『どうしてホテルにいた』『何をしていた』といきなり怒り出して、電話や手帳をひっくり返した。その日に会社に電話したことや母たちに会っていたとは言えなかった。それ(その日の行動を言わなかったこと)が彼は不満で、私が浮気をしていると思ったのか暴力が始まった」

弁護人「それで離婚の話はできなかったのか」

歌織被告「はい」

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